第2話 全ての始まり 宇宙最弱文明『地球』
――スズカと三好鮭が出会う、3日前
宇宙の中心に浮かぶ巨大な円環構造体。
そこは百を超える文明が集まる「星間地球評価会議」の会場だった。
議題はただ一つ。
「地球を聖地として保護し続けるべきか?」
しかし、その裏では各文明の思惑が渦巻いていた。
議長が重々しい声で告げる。
「地球は文明レベル最底辺。
軍事力ゼロ、科学も原始的。
聖地として保護する価値は、もはやない」
すぐに複数の文明が声を上げた。
「地球の海底には未開拓の鉱物が眠っている。保護を解除すべきだ」
「弱い文明を保護するのは無駄だ。我々の軍事演習場として利用できる」
「地球人は扱いやすい。労働力として価値がある」
会場の空気は、
“地球は滅ぼしていい”
という方向に完全に傾いていた。
その喧噪の中
ストライク星文化保護官・スズカは席で拳を握りしめていた。
(……地球は弱い。
でも、滅ぼされるなんて……そんなの違う)
彼女は幼いころから映像で地球競技に触れ、
その“熱”に心を動かされてしまっていた。
しかし、政治の場では感情は通用しない。
議長が宣言する。
「では、地球の保護解除に――」
「待ってください!」
会場がざわめく。
議長が眉をひそめる。
「スズカ。ストライク星文化保護官として、何か異議が?」
スズカは一瞬だけ迷った。
本当は、地球が強いなんて思っていない。
むしろ弱い。宇宙基準では、あまりにも弱い。
でも――
「地球は……強いです!」
会場が凍りついた。
「……は?」
「今、なんと言った?」
「地球が強い?」
スズカは焦りながらも、もう引けなかった。
「地球は……競技の原点です!
原点が弱いはずがありません!」
(しまった……!言い切ってしまった……!)
それぞれの星代表が冷笑する。
「では、我々の格闘士より強いのか?」
「地球の将棋が、我々の宇宙最強IQに勝てると?」
「何を言う、宇宙最強のIQは我々だ!」
「地球の牌効率が、宇宙の頂点に?」
議長が頷く。
「ならば試してみる価値はある
決定だ。
地球は“競技”で聖地の資格を証明せよ。
負ければ滅亡。勝てば存続を認める」
スズカは青ざめた。
(どうしよう……!
単純な身体能力、頭脳では地球に勝ち目なんてない……!
でも、もう後戻りできない……!)
◆
会議後の宇宙船は、
空気そのものが重く感じるほど静かだった。
スズカは歩きながら、
自分の胸の奥が痛むのを感じていた。
(……やってしまった。
どう考えても無理がある……)
彼女は船の中央にある巨大な球体――
宇宙最高AIの前に立つ
淡く揺れる光、
まるで呼吸しているようだった。
スズカは震える声で問いかける。
「……エレン。私、どうすればいいの……?」
AIはすぐには答えなかった。
数秒の沈黙が、永遠のように感じられる。
やがて、無機質な声が響いた。
『あなたの発言は、事実と乖離しています』
「……分かってるわよ……!」
スズカは思わず声を荒げた。
普段の彼女からは考えられないほど感情的なその言葉。
「でも……あのままじゃ地球は滅ぼされていた!
誰も地球の文化の価値を理解していなかった……
だから……だから私は……!」
AIは淡々と告げる。
『あなたの感情は理解します。
しかし、宇宙政治は感情で動きません』
「そんなこと……分かってる……!」
拳を握りしめた。
爪が手のひらに食い込み、痛みが走る。
「でも……地球は……
あの星は……ただ弱いだけじゃないの。
あの人たちの文化は……“アツい”のよ……!
勝ち負け以上の“魂”があるのよ……!」
AIの光が一瞬だけ強くなる。
『その“アツい”という言葉は評価基準に含まれません』
「……」
スズカは言葉を失った。
AIは続ける。
『しかし、あなたは地球を守りたい。
その意思は確認しました』
「……守りたい。
あの星の文化は……消すべきじゃない……」
『では、あなたの虚偽を“現実”に変える必要があります』
青い瞳を見開き、問いかける。
「……どうすればいいの?」
『地球で最も競技を理解している者を探します』
「そんな人間……いるの?」
『検索開始』
球体が強く光り、地球全体のデータが一瞬で流れ込む。
プロ野球、将棋、麻雀、eスポーツ、オリンピック、子どもの遊び、料理番組、祭り……
無数の“競技の断片”がAIの内部を駆け巡る。
AIはそれらを一瞬で解析し、
地球人一人ひとりの“競技理解度”を数値化していく。
『競技理解指数:解析中』
スズカは息を呑んだまま見守る。
(……誰が選ばれるの……?
最強の選手?
天才戦略家?
政治家?
それとも……)
球体の中では光が不規則に動き回っている。
『最適解候補:
プロ野球選手……却下
将棋棋士……却下
麻雀プロ……却下
格闘家……却下
芸術家……却下
政治家……却下』
「え……?
なんで全員、却下なの……?」
『深さは優秀だが、広さが足りません』
「広さ……?」
『地球文化の本質は“多様性”と“広さ”にある』
次の瞬間、
AIの光が一点に収束した。
『最適解:日本人男性 三好鮭』
スズカは固まった。
「……誰?
そんな名前、聞いたこともない……!」
AIは冷徹に続ける。
『三好鮭。
年齢:二十代後半
職業:一般会社員
星間競技理解指数:地球最高値』
「一般人……?そんな……!」
AIはさらに分析結果を表示する。
『野球:初級
将棋:初級
麻雀:中級
格闘技:観戦歴あり
eスポーツ:広範囲に知識
料理:自炊実績多数
芸術:基礎知識あり
その他:多数の星間競技を“浅く広く”理解
端的に言うと、全て30点の人物』
スズカは呆然とした。
「浅く……広く……30点?」
AIは告げる。
『地球文化は、無数の“浅い理解”の積み重ねで形成されている
ゆえに、地球を導くのは“浅く広い理解”を持つ者が最適』
スズカはゆっくりと息を吐いた。
「……そう。
そういうことなのね……貴方が言うならそうなんでしょう」
最後に宇宙最高AIエレンが告げる。
『あなたの無茶な宣言は、
三好鮭によってのみ救われる可能性があります』
スズカは地球の方向を見つめた。
その瞳には、恐れと希望が入り混じった光が宿っていた。
「……三好鮭。
あなたに賭けるしかなさそうね……」
こうして――
地球を守る戦いは、
一人の凡人と、一人の宇宙人の“無謀な賭け”から始まっていく。
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