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第17話 そのレバーは止まらない


その指先のレバーは、喋っている間

一秒たりとも止まることはなかった。


ワンルームマンションの一角。

防音材が隙間なく貼られただけのストイックな部屋。


その中心で、一人の男がモニターの青白い光に照らされながら

軽快に口を動かしている。


諸星大。

過去、世界中の格ゲーマーがその背中を追い、

そして今でも『伝説』と語り継がれる人物だ。


「せやから言うたやん!

 今の対空、1フレーム早くなってんねん。

 お前ら、俺の指見てみ?

 これ、アラフォーの動きやないで。

 ピッチピチの小学生や!ガハハ!」


諸星は、関西弁の混じった小気味よい喋りで

流れるようなコメントを捌いていく。


その最中でも、レバーを弾く音は一定のリズムを刻み続ける。

それは熟練のピアノ奏者のように迷いのない動きだった。


・草  

・また昇竜撃ばっかやってんのかよww

・いいからランクマしろ

・それは幻やwww

・今573回目

・俺はツッコまないぞ

・これでも昔はカッコよかったんだけどな


そう、彼は動画配信中だった。


手元では、カチカチッという乾いたレバー音が

常に規則正しく反復する。


画面の中では、

相手キャラクターのジャンプ攻撃を

寸分の狂いもなく、必殺技『昇竜撃』で迎撃し続けていた。

それは格ゲー業界で対空と呼ばれている。


・対空完璧なのにやる必要ある?

・いやこの努力あってのものってわからんの?

・オイこの枠、対空練習だけで終わるぞww

・↑初見か?毎回最低1000回やってからランクマしてるぞ、昨日は波動撃

・諸星さん!ランクマ荒らしてるクリムゾン、格ゲー星人って噂ありますよ

・楽しみだよ~地球最強とか舐められてますね

・地球オワタw


「クリムゾン?格ゲー星人?

 んなもん、若い奴に任せときゃええやろ。

 リプレイ見たけど、俺じゃ勝てへん。

 寿命削らな相手できんわ。

 シャイン辺りが丁度ええんちゃう?」


諸星はそう言いながら、無意識にレバーを弾いた。

今日一番の鈍く重い音が防音室に響く。


「……って、お前ら何マジになっとんねん!ガハハ!」


・ちょうどええ(世界最強プレイヤー)

・モロボシが勝てないなら終わりなんじゃ

・宇宙人倒そうぜw

・上から目線ワロタ

・モロボシの勝負がみたいンゴ

・【¥50,000】【三好鮭(日本政府公式)】:宇宙一を決めないか?


それは不意に現れた。


最高額のスーパーチャットと共に

視聴者全てが聞いたこともない音が鳴り響く。

更にチャット欄を埋めるように、

虹色の光が『宇宙一を決めないか?』の文字へと集束していく。


・なにこれ?

・草

・ナイスパ

・これって大空流星が言ってたやつだろww

・三好鮭ってどこかで聞いたような……

・ハッカー?こわ

・マジか!

・おい、公式マークついてるぞ!

・宇宙一を決めないか(笑)

・地球代表爆誕ww

・これただの公式マークじゃなくて、政府専用のグレーバッジなんですけど

・マジでモロボシがいいと思う


「スパチャありがとさん!

 ん?なんやなんや、新手の詐欺か?

 日本政府って、俺、税金はちゃんと納めてるで?ガハハ」


諸星がいつものように笑い飛ばそうとした、その時。

追い打ちをかけるように、

二発目の「虹」がチャット欄を埋め尽くした。


・【¥50,000】【シャイン(公式)】

 :諸星さん。そいつは本物っすよ。今、俺と一緒にいる。


コメント欄が、怒涛の勢いで加速していく。


・シャイン!?

・現役最強登場

・まずいぞ、さっきの話聞かれてたらww

・急なコラボきた!

・野生の日本政府と世界王者があらわれた

・巻き込まれ系主人公モロボシw

・シャインさん、その虹のやり方教えてください

・本物って?まじであの案内人?

・これはスズカ様の仕業ですね、わかります

・一般通過シャイン

・本気で地球代表は俺達のモロボシがいいと思う


諸星のレバーが、ここで初めて止まった。

椅子にもたれ掛かり、

騒然とするモニターを凝視する。


「……シャイン?本物か自分。

 公式マークも付けとる。

 ……あのボケがこんな嘘つくとも思えへんしな」


諸星の顔から笑みが消える。


ただそれだけで、マイクが拾う部屋の空気が変わった。

先ほどまで「面白いおっちゃん」だった男の輪郭が

鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていく。


かつて世界を沸かせた、あの『伝説』の顔が

モニター越しに5000人の視聴者を射抜いた。


「悪いが、配信はここまでや。

 ……なんか、おもろい客が来そうな気がする」


マイク越しに伝え、

マウスに手をかけようとした、そのとき。


ピンポーン


防音の効いた静かな部屋に

何かを告げるよう呼び出し音が高らかに響いた。


諸星は重い腰を上げ、玄関へ向かう。


・誰かキタ!

・無視した方が……

・伝説の幕開けだww

・ここ、切り抜き

・これは警察ですわ

・シャインなら激熱

・母ちゃん?

・N〇Kです

・配信終了が許されない男w


流れていくコメントを他所に

諸星はガチャリと扉を開けた。

そこには、三つの影があった。


スーツを普通に着こなした冴えない男。

月光を吸い込んで淡く発光する、銀髪の美少女。

そして、赤いパーカーを深く被り、

気まずそうに目を逸らしている世界最強の若者。


案内人――三好鮭が少しだけ口角を上げて、

伝説の男を見上げた。



「……夜分に申し訳ありません。

 諸星さん、お話があります」


諸星の瞳に、液晶の残光ではない

生々しい『覚悟』を宿した三人の姿が焼き付く。


「……お前らがあのスパチャの犯人か。

 ……あがれや、その代わり

 しょうもない話やったら叩き返すからな」


ぶっきらぼうに背を向け

モニターの輝きが漏れる奥へと促す、

その足取りは、

既に戦いを見据えているように淀みがなかった。



――止まっていたレバーが再び熱を帯び始める。



毎日20時過ぎ更新

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