第15話 男の名前は
「まず、気になるのが格ゲーのタイトルなんだけど」
喉が渇いたのか、優雅にお茶を啜ってから
隣のスズカは語り出す。
「そうですね、今回の格闘ゲームは
『スターファイター6』ルールは至ってシンプル。
一試合のみ、2ラウンド先取した方が勝ちです」
やっぱりスターファイター6、通称SF6か。
格ゲーのはじまりと言えるシリーズの最新作。
全世界で爆発的売上を誇った、超メジャータイトルであり
現在、格ゲーで生きている人たちは絶対にやり込んでいるゲームだ。
「相手はやっぱり宇宙人なんだよな?」
「宇宙人なのが問題ではありません、宇宙一なのが問題なのです。
フレーム星のクリムゾン・グランデ……最悪です」
スズカの声が若干震えている気がする……最悪、か。
それにしてもフレーム星とは、いかにもな格ゲー星人だ。
「彼の反応速度は常軌を逸しており、
それは、予知の域に達しているといわれています。
理論上の隙はゼロ。
人がボタンを押そうと脳が信号を出した瞬間に、
彼は既に対応を終えています」
(……勝てるわけねーだろ)
絶望的なスペックに、俺の30点の心は早くも折れそうになる。
だが、その絶望を遮るように鳥越さんがモニターの映像を切り替えた。
「その『予知』に対応しうる、
現在、地球最強のプレイヤーが彼です」
画面に映し出されたのは、
一ミリの狂いもなく完璧なコンボを叩きこむ青年の姿。
よく見ると、世界大会決勝と書かれている。
画面内の実況が興奮気味に叫ぶ。
『反応速度!状況判断!完璧だ!
これが人類の到達点、シャイン・アカツキだ!』
映像を止めると、どこか自慢げに鳥越さんは説明を始める。
「現在の世界ランキング一位、シャイン・アカツキ。
日本人とアメリカ人のハーフで、20歳。
世界大会を4連覇中で、公式戦勝率は90%を超えています」
会ってから初めて、にっこりと笑顔を俺に向けてくる。
「反応速度、勝率、安定度、すべて地球最高値。
間違いなく勝てるプレイヤーです。
そして、今日この場にも来てもらっています」
この部屋に入った時から気になっていた。
ずっとスマホを触っている男。
スーツ姿がズラリと並ぶ中、
高そうなサイズオーバーの赤いパーカーに、猫のような髪
今流行りのアイドルみたいに真っ白な顔がこちらへ向き直す。
「どうも。シャインです!
いやぁ、こんなお偉いさんの前で、
自分のプレイ見せられるの恥ずかしいな~
これ、公開処刑っすね」
シャインは照れ臭そうに頭を掻いている。
嫌味がない、本物の天才特有のどこか抜けたような輝きがある。
対策本部のお偉いさんたちも
「これなら文句はないだろう」と満足げに頷いている。
鳥越さんはそれを確認すると話を続けていく。
「シャインくん、君なら宇宙人相手でも……」
「……ごめんなさい、彼ではありません」
思わず、口から出てしまった言葉。
室内の視線が、一斉に俺を突き刺してくる。
疑問よりも疑惑に近い眼差しだ。
「三好様、彼は世界王者ですよ?
実質、彼より上は存在しません」
鳥越さんの眼鏡と瞳が冷たく光る。
だが、何度も観たあの試合が忘れられない。
「シャインさんは確かに非の打ち所がないほどの最強ですね。
……でも……上手く言えないんですけど。
『最強』よりも……『伝説』に戦ってほしいんです」
静まり返る会議室で、
一人大きな笑い声が響く、それはシャインさんだった。
「はっはっは!!
流石、大空流星に認められた案内人だ!
アンタ、わかってんなぁ」
シャインさんは、笑顔を収め、髪を掻き上げる。
その瞳は戦士のものに変わっていた。
「俺も案内人さんと一緒だ。
俺は勝ってきたし、みんなに綺麗なコンボを届けることができる。
だけどな……」
ここまでずっと見ていたスマホを
俺にも見えるように差し出してくる。
そこには、SF6の対戦画面。
左側のプレイヤー名のところには『クリムゾン(楽しみだよ~地球最強)』
というふざけた言葉が綴られている。
「このクリムゾンって奴、1時間前からランクマッチで対戦してる。
勝率100%、チーターってみんな騒いでいるけど
俺にはわかる……これ本物っす」
スマホ画面では、当然のように
『PERFECT』の文字が打ち出され、対戦が終わっている。
「悔しいけど、
俺の綺麗なプレイじゃあ厳しいっす。
それに地球最後かも知れない格ゲー……俺じゃないです。
格ゲーファンも俺も……
観たいのは、デタラメな逆転劇を魅せたあの人、
格ゲーの歴史を作った『伝説』の男しかいないと思います」
世界王者が自ら引いた。
室内では、鳥越さんをはじめとする全員が圧倒されている。
「案内人さん……“諸星”さんを連れてきてください。
あの人のレバー音なら、宇宙人の予知だってぶっ壊せる気がするから」
――諸星 大
――そう、その男を俺は探している。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ」
ようやく解放された。
黒塗りの車で駅前まで送ってもらった俺とスズカは、
真っ暗な深夜の街角に立っていた。
さっきまでの“世界の運命”なんていう重圧が、ウソみたいに遠い。
「……腹減った」
「減りましたか!」
隣のスズカが目を輝かせて、聞いてくる。
どうにも宇宙条例とやらで、一人で外食できないらしく
俺が腹を減らすのを楽しみにしている節がある。
「そうだな、緊張してお茶の味もしなかったし
何か食べて帰るか」
「ラーメンがいいです、合法的な」
(全部合法なんだよ、ラーメンは)
明日からは、あの『伝説』の男を諸星大を探し出さなきゃいけない。
でも、今は腹が減って仕方ない。
俺はスズカの意見を無視して、あるお店の看板を指さした。
「あそこに入ろう」
次回:宇宙人、カレーに敗北する。
先日、熱いレビューをいただきました!本当にありがとうございます!
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