第11話 ……違法です
「大空流星。
次の球……
200km/hを超えても、いいか?」
「……いいよ、全力で来て」
――静寂。
先ほどまで騒がしかった甲子園が、
何かを思考するように静まり返っていた。
2ストライク。
またしても次の一球で、地球の運命が決まる。
シャケをはじめとする地球人は、
既に大空流星にBETしている。
そのことに反対する人間はいないだろう。
制限の解除、これを承諾したのも
野球好き、大空流星を知っている者なら
納得できる結果だった。
「……流星さん」
「大空流星……やはり受けましたか……」
数時間前、控室で流星が漏らした言葉が脳裏に蘇る。
「シャケ、スズカ……200km/hも凄いけど、
その先を見てみたいんだ。宇宙一のストレートを」
少年のように笑うその顔をみて、シャケは感じていた。
この人は、その望みをきっと叶えると……。
だからこそ、スズカに頼み込んだ。
例え、光速の球が来ても安全だという宇宙遠征用の耐衝撃ジェル。
甲子園の至る所に安全を配慮したフィルターの数々。
全ては、大空流星が「宇宙一のストレート」と対決し、
無事に生還するためだけの、シャケが出来る案内人としての悪あがきだった。
(……流星さん、あなたの思い通りになったね)
流星は、世界から自分以外の存在が消えたかのように、
静かにバットを見つめている。
その横顔は、恐ろしいほどに透き通っていた。
◆ ◆ ◆
(……成長が加速している。
……ありえない……ことはないか、大空流星)
ゼロ・フォースの瞳に映る解析データが
限界を告げる真っ赤なノイズとなって弾ける。
(もはや、数値を見る必要もない)
ゼロに生まれた“熱”が
星々の衝突のように激しく膨れ上がる。
(……感謝する。
そして、見せよう。
宇宙で許されなかった。全力のストレート)
ゼロの身体が、青白い磁場を帯びて発光する。
三本の腕が、まるで一つの意志となったかのように重なり、凝縮され、
一本の“黒腕”へと変貌を遂げた。
その腕は、周囲の光を喰らい尽くしたように
黒く、黒く沈んでいる。
それは正に“特異点”
(……これが、私の野球だ!)
◆ ◆ ◆
「……なんだ、これ。空気が……重い」
息が出来ない。
甲子園に満ちた圧力が、球場中の呼吸を止めていく。
今、この瞬間も世界は一つに繋がっている。
国籍も、肌の色も、信じている神も違う何十億という人々が、
希望を胸に1人の男の背中を見つめている。
(頼む……大空流星)
人類の行く末が、甲子園という一点に注がれる。
ゼロの特異点と化した黒腕が
ゆっくりと振りかぶられる。
ミキッと地面が悲鳴を上げる。
甲子園の空気がまるで何かに怯えるように震えだした。
「甲子園全体が……歪んでる!?」
シャケは恐怖を振り払うように言葉を吐く。
スズカが持っている端末もバチバチと火花を散らしている。
「……ゼロの全開です!
宇宙会議が“封印”した速度領域、禁忌の球速
……これは……違法です」
ついに、
ゼロの黒腕から白球が解き放たれる。
その刹那――球場全体の空気が輝いた。
音は後から追いかけることすら許されず、
光は観客を求めるよう、全世界を呑み込み、
時間は見るもの全てを凍り付かせていく。
――破壊の閃光
夜空を真っ赤に焼き切り、
全てを置き去りにして、その一球は瞬いていく。
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