わがままな聖女【国王陛下side】
12月19日から始まる「ネトコン14」にエントリー作品です。
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結婚式の翌日。
本来なら新婚旅行にいくのだが、俺にはそんな暇はない。
父である先王が急逝して、まだ引き継がれていなかった仕事を覚えたり、今やっている政策の進捗の確認をしないといけない。
なのに、我が国の『聖女』は、それを理解してくれないらしい。
「ヘリオス様、やっぱり新婚旅行に行くことは必要ですわ」
友人で右腕のカドモスと二人で執務に励んでいる、昼すぎ。
忙しい俺の執務室の扉を開いて、妻である王妃のエリスが押しかけてきた。
「そんなに旅行がしたいなら、ひとりで行け」
無駄に豪華なドレスを着ている彼女を見て、そっとため息を吐く。
婚約が決まった幼い頃は、もう少し健気な少女だったと思う。
だが、成長するにつれて周りにもてはやされるうちに、傲慢な性格になった。
正直、何度も婚約破棄を考えたが、彼女と婚約破棄できない事情があった。
それは、彼女がこの国を創世した女神ティアの生まれ変わりである『聖女』だったからだ。
王家には、決まりがある。
何代かに一度産まれてくる聖女と婚約をするというものだ。
彼女との結婚は、間違いなかった。
これだけは、断言できる。
昨日貴族たちに囃されて仕方なく彼女と口づけをしたときに、黄金の光が空中に舞ったのだ。
この国の人間なら、子どもの頃に親に聞かされる『聖女の祝福』。
それを実際に目の当たりにしたのだ。
しかも、同時刻に国中でこの現象が起こったらしい。
「もう。国民が求めているのは私とヘリオス様の仲睦まじい姿です。私一人で行ってもダメですわ」
そう言いながら、執務室のソファーに勝手に座ってくつろぎ始める。
隣で執務をしているカドモスを見ると、青筋を立てている。
まぁ、彼女が言うことも一理ある。
「私たちが新婚旅行に行っている間は、お父様がうまく城内を纏めてくださいますわ」
誇らしげな表情で言う彼女に、またため息が出る。
それが嫌だと言えたら、どれだけいいだろうか。
彼女の実家である侯爵家は、聖女の生まれ変わりが産まれた家系。
父が信用して、宰相に据えた彼女の父も国の為に良く働いてくれている……と、思う。
だが、俺の心は子どもの頃からいつまでも義父のことを信用することができなかった。
「そうは言っても、俺が分かっていなければ国は、機能しなくなる。仕事の邪魔をするなら出て行ってくれ」
俺は、書類を片手に言う。
すると、顔を真っ赤にさせて彼女はバタバタと大きな音を立て、執務室を出て行った。
隣の机で無心に書類をさばいているカドモスがわざとらしくため息を吐く。
「あんな性格の悪い女性が、聖女だなんて……。女神さまも転生しすぎて転生先を間違えたんじゃないか」
「そう言うな。カディも見ただろう昨晩のあれを」
「はあ、あの光景は確かに神秘的だった。でも、私が思うにあの聖力は、床から舞い上がったように見えた」
「だから、足元から聖力を流したんじゃないか」
「そう言われると、聖女以外はああいう能力がないから、真偽が分からないのがつらいところだよ」
「教皇猊下が、『彼女が聖女』だというのだから、信じるしかないだろう」
「そうだけど、納得いかないんだよな」
カドモスは、俺が婚約したときから彼女が『聖女』だということを疑っていた。
段々と性格が悪くなると、さらに彼女の事を疑うようになった。
結局、結婚式の翌日から毎日のように押しかけてくる彼女。
めんどくさくなって、彼女がお気に入りの王家の別荘に行くことを勧めてみた。
行きなれた別荘だし、嫌がるかと思ったけれど意外と彼女は素直に頷いてくれた。
翌週、五日間の新婚旅行に向けて出発する。
カドモスと信頼できる部下たちは、王城に残した。
正直、五日間なにをしていたのか思い出せないくらいだ。
エリスが行きたいところに連れまわされただけの旅。
彼女は街を歩き、国民たちが歓迎してくれたり、『聖女の祝福』への感謝を叫ぶたびに、愛想のいい笑顔で手を振っていた。
その時には必ずわざと俺と腕を組んで仲がいい夫婦を演出していた。
旅行先の別荘での、最終日の夜。
寝室が別なのは、本当にありがたいなとテラスに出て物思いに耽る。
結婚式の後から少しだけおかしいことがある。
エリスの事をなんだかんだと言いながら、俺は『聖女』だと信じていた。
そう、信じていたのだ。
結婚式が終わってから、彼女のどこを見て信じられていたのか分からなくなっていった。
さらに、考え事をしていると鮮明ではない記憶のようなものが、脳裏に浮かんできた。
それは、幼少の頃……。
記憶の中の景色ははっきりと思い出せる。
あの光景は、この国で唯一の宗教の王都の教会。
白い教会の中庭に、泣いている少女が居た。
ただその少女のことは、特徴すらも思い出せない。
迷子かと思って話しかけるけれど、
「急に両親から引き離されて、教会に連れてこられた」
と言っていた。
それから、父上が教会に訪問するのについて行って、毎回彼女を探して帰るまでの間ずっと話をしていた。
父上に、彼女の話をすると何か考えていたようで、
「そうか、きっと彼女はお前の役に立ってくれるさ」
と言っていた。
こんなに何度も会っていたのに……。
なぜ彼女のことを俺は思い出せないんだ。
少しの気持ち悪さを抱えながらも、明日は朝が早いのでそのまま寝た。
旅行から帰ってくると、夕方になっていた。
執務室に行くとカドモスがげっそりとして机に突っ伏していた。
「カディ、留守を預かってくれてありがとう」
「本当だよ。宰相が毎日無理難題を持ってくるから突っぱねるのに疲れた」
他の部下たちもげっそりしていたので、帰宅するように伝えて、カドモスと執務室に二人になる。
「なぁ、カディ。俺が教会に行っていたころ良く話していた女の子を覚えているか?」
何度も一緒に、教会に行っていたカドモスに聞く。
ただ、俺の思った反応とは違った。
俺の言葉を聞いて、何かを考えるように首をしばらく傾げている。
そして、数分考えたのちに言ったのは、たった一言。
「そんな人、いたっけ?」
カドモスの一言に驚いて彼を見る。
ただ同じような表情で、カドモスも俺の事を見ていた。
「教会に行ったら、いつも二人で中庭で遊ぶように言われていたじゃないか。成長してからは教会の図書室に行ったり……」
確かにカドモスが言う通り、彼女が見つからない時にカドモスと二人で遊んだりしていた。
教会の図書室で蔵書を読み漁ったりもしたけれど、カドモスにたしかに紹介したはず……。
「行きたくない旅行に行って疲れてるんだろう。それか王妃が『聖女』だというのを否定したくなっただけだろ」
……確かに、思い出したのは旅行の最終日だし。
きっと、疲れていたんだろう。
そう思って、早々に解散をするとさっさと寝ることにした。
ただこの日から、変な夢を見るようになった。
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