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死ねない怪物の私は、もう祈らない~私の心はもう死にました。なのにどうしてあなたは私を探しているのですか?~  作者: 紫乃てふ


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神のまにまに~エピside~

 ヘリオス国王陛下が用意してくださった自分用の執務室の窓から、中庭の東屋を見つめる。

 ティア様がレウシアと入れ替わるために張った結界の力が徐々に弱まっているのを感じる。

 人間たちは『神のまにまに』などとよく言っているけれど、そんなに美化されても困る。

 我々神は人間たちのことなど、どうでもいいのだ。

 ティア様だってこの世界を創ったのは、ただの気まぐれと最高神への対抗心だけだ。

 やってみたら楽しくはあったのだろう。

 試行錯誤しながら楽しそうに人間たちを見守っていた。


 ただその中にお気に入りの男ができ、その男をこの国の頂点に据える為に自身が利用してきた僕や天使たちを捨てた。

 これだって、ティア様のただの気まぐれだ。

 アウラムとしての記憶を持っているけれど、ティア様に対する感情は全てミケが持っていっているから冷静に今の状況を考えてしまう。

 結局人間は僕たち神の掌の上からは逃げることができないのだと……。


「エピ。いつも急ですまないんだけど、この報告書の仕分けと緊急性の割り振りをしてもらってもいいか?」

 中庭を眺めていたら、両手に大量の資料を持ったカドモス様が入ってくる。

 彼の顔を見ると目の下のクマが昨日よりも濃くなっているように感じる。

「分かりました。カドモス様は休めていますか?」

「ははは。変なことを言うんだけれど、少し過去の記憶が今混濁していて、立ち止まるのが怖いくらいなんだ。だから忙しいのは願ったりだよ」

 力なくそう笑うとそのまま書類を置いて、部屋の外へと出て行った。


 カドモス様が部屋を出てからもう一度東屋を見つめる。

 ミケは、ティア様を手に入れるために色んな人間の記憶や欲を操作していた。

 そして今、ティア様を奈落へ引きずり込むために操作をしていた神力を解除してしまった。

 それによって、国王陛下やカドモス様など多くの人の記憶が強制的に本来の記憶に戻る状態になり、王城内は異様な雰囲気に包まれることになった。

「本来ならもっと丁寧にするべきなのに、こんなに急にすべてを解除するからみなさんへの負担が大きすぎるじゃないか」

 俺がどうにかできればよかったのだけど、『欲』という部分に関しての力はミケの方が強く混濁程度に抑えることしかできなかった。

 そして、記憶が戻ったことにより起きたことは、ミケによって『欲』を増長させられていた人間たちの悪事の記憶の復活だった。

 事務方であるはずの僕ですら事件関係の書類を仕分けることになり、日々忙しくしている。


 もう会うことは無い片割れの尻拭いだと諦めて、カドモス様が持って来た書類を仕分けていく。

 今回は、教会関係の事件の書類らしい。

 ゴルゴス教皇猊下の悪事についての記述が並んでいる。

 この前陛下が会っていた彼に冷遇られた司祭たちが、連名で訴えたようだ。

 記述も見やすく時系列がしっかりと書かれているし、しっかりと証拠も添えられている。

「これはヘリオス国王陛下が動かなくても解決できるだけの証拠が揃っているが、彼の手柄になる。教会との力関係の為にも彼が解決する方が良いだろう」

 証拠を仕分けていき他にも一斉に検挙できそうなものをまとめていく。

 ゴルゴス教皇猊下は、今錯乱状態に陥っているようなので逃げることはできないはず。

 エリス王妃殿下も似たような状態で暴れまわった為に今は、自室に軟禁中だ。

「さすがにレウシアを傷つけた人たちに、慈悲を与えようと思うほど僕も優しくはないからねぇ」

 そう言って、書類を片手に立ち上がると国王陛下の執務室に向かって歩く。


 賢者プロメ様と一緒に役人たちの相談役として配置されたので、陛下の執務室までは少し遠い。

 城内を歩いていると右往左往と忙しそうにでも使命感を持って働いている役人たちが目に留まる。

 これだから人間を見ているのは楽しいのだ。

 ティア様にこの世界の管理を任せられた頃すぐに、こんな世界をティア様ごと壊してしまおうと思ったことがあった。

 でも、自分で考えたり力を合わせて進んでいく人間たちを見るのはとても楽しかった。

 彼らはいつもどんな困難にぶつかっても決してひるまずに突き進んでいく。

 その道がどんなに険しいものだとしてもだ。

『アウラムとしての神力』は、ほとんどあの日ミケに獲られてしまった。

 今の僕は、少し長生きで知識がある人間程度だ。

 さすがに聖女よりも力は強いけれど、超越したような力を使うことはできない。


 ――コンコン。


「国王陛下。こちらをご覧いただいてもいいですか?」

 陛下の執務室にはもう何日も休んでいないであろう文官たちが、目を血走らせながら執務に取り組んでいた。

 彼らがここまでして執務に取り組んでいるのは国王たるヘリオス様が、寝る間も惜しんで働いているからだろう。

 僕が渡した書類と証拠を交互に見ながら眉間に皺を寄せて読み進めていく国王陛下。

 彼は確かにティア様を奪ったあの男によく似ている。

 それは、姿形だけではなく信念の強さや心の強さもそうだ。

「これを解決するには教会へ出向く必要があるな……」

「王城を離れるのに不安を感じられるかもしれませんが、安心してください。プロメ様が優秀な味方を増やしています」

 自室に軟禁中の王妃エリスには、一つの罪が確定している。

 それは、自身が聖女であると詐称し、王族と国民を欺いたこと。

 これが記憶の齟齬により判明してからの彼女の父親の王家への反発する強固な姿勢は、凄まじいものだ。

 王城で彼の悪事に加担してしまったことで、弱みを握られた人々を束ねて反旗をいつでも翻せると脅しをかけ続けている。

 そのせいで王城の中のパワーバランスが安定せず、ヘリオス様が王城を離れることができにくくなっていた。

 僕の言葉に納得はしているもののまだどこか不安そうな彼に告げる。

「大丈夫です。この国を率いることができるのは、国王陛下しかいないのですから安心していってきてください。ここで教会の問題を解決しておくことで聖女様を見つける手掛かりにもなるでしょう」


 エリス王妃殿下が偽物であるというのを国民たちに分かりやすく伝えるためには、レウシアを救出する必要がある。

 彼女と成り代わろうとしたティア様は、失敗するだろう。

 ティア様の計画を失敗させるという約束の元、僕はミケに神力を明け渡したのだ。

 教会の問題を解決しなくてもレウシアの居場所を僕が知っている。

 それでも全部を手助けするのは少しだけ、本当に少しだけ悔しいから彼には少ないヒントで辿り着いてもらわないとな。


 神の片割れである僕が僕が大好きなレウシアの幸せだけの為にしてあげることができるのは、彼女が待ち望んでいた愛する人が自分を救い出してくれる。

 そんな夢を叶えてあげるための手助けの為に邪魔者を排除することだけなのだから。


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