歪な平穏
更新が遅くなり申し訳ございません。
体調を崩してしまい創作ができずアップができませんでした。
体調も持ち直してきましたので投稿をしっかり行っていきます。
体調を崩している間にランキングにこの作品が乗りました。
本当にありがとうございます。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
エピという彼は、ミケが居る日はほぼ毎晩、私のところに来た。
魔法陣の絵を描き終えたら来なくなると思っていたのに、それが終わってからも私の元に来てくれた。
ミケとエピと三人で話す時間は私の中でも特別なものになっていたある日。
「あの、聖女様の絵を描いてもいいですか?」
急にエピはそう言ってきた。
「私の絵なんて描いても何の得にもならない気はするけど?」
今はミケが扉の前で見張りをしてくれていて、鎖を外された状態で地下室エピと二人きり。
最近はこういう日も増えてきた。
「そんなことないです。聖女様のような神秘的な方は僕見たことないですもん」
「そんなことないと思うんだけど……」
「いえ、この絹のように滑らかな髪、陶器のように白い肌。すべてが神秘的です」
「そんなに言われても私はよくわからないけれど、エピが描きたいなら……」
私を頬を撫でながらそういうエピは、見たことの無いような恍惚とした表情をしていた。
それは、逆らってはいけないような……。
私が了承すると、ミケに話しかけてスケッチブックを片手に絵を描き始める。
どうしていたらいいのか分からなくて、そのまま椅子に座っている私に二人が近づいてくる。
「そんなに固くならなくていいですよ」
「リラックスしていただいて、動いてもらっていても僕は懸けるので」
「そうなの? すごいわね!」
そう言われて、エピの方を見ながらただ座っている。
ミケは扉を開けたまま外を警戒だけしていた。
誰も話さないから、エピが絵を描いている鉛筆の音だけが聞こえていた。
ここにきて何千回も繰り返す中でこんなに静かな時間は初めてだった。
それだからこそ、彼らと一緒の日常は非日常のようで私は心地よく感じていた。
だから、小さな違和感に感じることができなくなっていた。
私にもこんな幸せな日々があるのだと、三人でこのままここから逃げるのもいいかもと思い始めていた。
そんな交流が続いていたある日だった。
「そう言えば、ようやくエリス様が邪魔をしにこなくなったんですよ」
「そうなの?」
「えぇ。皇帝陛下が最近、秘密裏に調べていることがあるみたいで相手にされなくなったんですよ」
「いつもの王妃殿下だとしつように国王陛下に構ってもらおうとしそうだけれど?」
私がそう聞くとエピは苦笑いをした。
「彼女のお父様がいい加減にしろと怒られたみたいです」
「それはなぜ?」
なんとなく彼女の親なら、国王陛下の方に文句を言いそうなのにと不思議に思って聞く。
「噂が広がったんですよ。王妃殿下は国王陛下に愛されたくて仕事の邪魔をしてでも注目してもらおうとしていると」
「それって、前々からではないの?」
「最初の頃は可哀想な王妃殿下だったんですけれど、国王陛下がちゃんと構えない理由を伝えているのに、引き下がらない姿がいたるところで見られるようになってから噂が変わったんです。王妃殿下は、やりすぎたんですよ」
「そうなのね……」
「おかげで、国王陛下の仕事が進むので僕もありがたいですね」
私の絵を描きながらエピはずっと話し続ける。
いつもより饒舌だから本当に嬉しいのね。
確かに、だれでも仕事の邪魔をされたら嫌よね。
私だって、聖女として祈っているのを邪魔されたら怒ってしまうわ。
前回までならきっと怒りで周りが見えなくなるくらいには怒っていたと思う。
そこまで考えてふと思う。
ここ最近、エピはほぼ朝まで私の絵を描くためにここにいる。
昼間は王妃エリス様や教皇猊下がいつ来るか分からないから私はただ横になっている。
最近では、エピと話していて起きているから昼間に寝ている時もある。
――最後に祈ったのはいつだったかしら?
「ごめんなさい、エピ。今日は眠たくってここまででもいい?」
私がそう聞くとエピは少し悲しそうにしたけれど、頷いて出て行ってくれた。
彼が出ていくのを見送って、エピとミケが居なくなったのを確認してから、魔法陣に魔力を流しながら国の平和を祈る。
祈るためにゆっくりと聖力を魔法陣に流しているのに、なぜか浸透していく感覚が得られない。
いつもなら吸い込まれるような感覚があるのに、それが全くないのだ。
心がざわついていく。
今まで、こんなことはなかった。
なんでだろう……。
なにから試す?
私は、もう一度深呼吸をしてゆっくりとゆっくりと今までやっていたように身体の中で聖力を練る意識をする。
少しずつ自分の身体に力が溜まっていくのを感じて、それを流すようにしていく。
二回目でようやく聖力が魔法陣に吸い込まれている感覚を感じる。
染み渡らせるように聖力を流す。
枯渇していたかのように聖力を吸い取られる。
今までにない量の聖力が出ていく感覚に意識を手放してしまう。
いつもの真っ白な空間。
今回は誰に呼ばれたのだろうと不思議に思っていると国王陛下が居た。
でも、私は小さくなっていない。
首を傾げていると国王陛下が目の前まで迫っていた。
『君は、レウシアかい?』
なぜ殿下が私の本当の名前を知っているの?
「違うとお答えしたら?」
私が聞くと困ったように眉を下げられてしまう。
『そうならプロメ様にもう一度教会内部を探ってもらうだけだよ』
「そうですか」
『それで、答えを聞かせてくれるかな?』
「はい。私がレウシアです。ですが、国王陛下はなぜ私の名前をご存じなんですか?」
私が聞くと困ったように殿下は、私を見つめる。
『あんなに綺麗なハニーブロンドだったのに、今は髪の色が違うんだね』
「陛下。私の質問に答えてください」
私の髪に触れようとする国王陛下の手を振り払って、彼の顔を見る。
よく見ると彼の目の焦点が合っていなくて……。
『ひどいな……僕たち婚約をしていた仲なのに』
そういって手を伸ばしてくる陛下は、口元しか笑っていない不気味な笑顔で私に近づいてきた。




