僕の聖女様~○○side~
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僕には記憶がない……。
でも、何かが足りていないような渇望感だけがすごくあった。
その渇望感を満たすために、いろんな人に媚びを売りながらなんとか王都まで来た。
王都ではなかなか僕に騙されてくれる人がいなくて、すぐに路地裏で日銭を稼ぐ暮らしになった。
そこで、僕を拾ってくれたのは賢者と呼ばれていたプロメ様だった。
「お前は何事もなぜそんなに枯渇しているのだ?」
数日プロメ様の家で過ごしたときに言われた言葉に僕は首を傾げることしかできなかった。
「あの……なんのことでしょうか?」
「お前は、食う時には大盛で食べてもまだ足りないという顔をする。わしが学問を教えるとまだ身についていないのに新しい知識を求める。常に枯渇しているようではないか?」
そう言われて、考える。
確かに、何か足りないモノへの渇望感はすごい。
だから、食べるときは空腹以上の何かを満たすためにご飯を食べる。
プロメ様から学問を教えてもらった時に、一つの事を極めるのではなく次へ次へと新しいことを求めていた。
それでも僕は足りなかったのだ。
何も満たされないのだ……。
心が常に何かを渇望しているのだ……。
そんなある日、王都で聖騎士見習いの男性に出会った。
彼は僕を見ると急に抱き着いてきた。
「兄弟! ようやく見つけた!」
「あなたはだれですか? 兄弟って?」
「俺たちは兄弟じゃないか!」
「すみません。僕、記憶が無くて……」
「そうなんだ! じゃあ今からお茶でもしない?」
「いや……僕今お使い中で」
「そうかぁ……じゃあ明日のこの時間にまたここで会えたりする?」
「あぁ……それならできると思うよ」
「じゃあまたあしたな」
そう言って爽やかに走り去った彼。
僕に兄弟が居たのかと驚いてプロメ様に頼まれたお使いを終わらせて帰宅する。
その日の夜、ご飯を食べるときにプロメ様にこのことを話そうと思ったが、全貌が分かってからにしようと後回しにした。
翌日の同じ時間同じ場所に行くと彼がもう待っていた。
「兄弟来てくれて嬉しいよ」
「どこかに座ってゆっくり話す?」
「そうだな。行きつけの食堂があるんだ。そこでもいいかい?」
僕が頷くと王都のメインの道から数本奥に入ったところにある食堂へと二人で入った。
女将さんもご主人も愛想がよく、彼に対して気さくに接していた。
そのまま、いつも座っているという店の一番奥の席に通される。
食事を頼むと言われた。
だけど一度食べ始めると満たされたい一心で歯止めが利かなくなるから、メニューを見て悩んでいた。
「大丈夫だ。俺と一緒に居ればきっと飢えを感じることはない」
彼がなぜ僕が『満たされない』ことに悩んでいるのに気が付いたのかは分からない。
でも、彼の言うことを信じてもいいとなぜか思えた。
軽食を数品頼み、料理が揃うと彼はゆっくり口を開いた。
「まずは自己紹介だよな。俺は、『ミケ』。今は見ての通り教会で聖騎士見習をしている」
「えっと、僕は『エピ』と言います。今は賢者プロメ様のところで勉強をさせていただいてます」
「これからよろしくなエピ! 俺はあるお方を護るために、頑張って騎士を目指しているんだ。エピもそうなのか?」
「僕はここより遠くで生まれたんだけど、その……その村を旅立つ前日までの記憶が全くないんだ」
「そうなのか。それはつらかったな」
そう言って、僕の肩を叩くミケと名乗った彼に疑問をぶつけることにした。
「ミケは昨日、僕のことを兄弟って言ったけどあれはどういうこと?」
「そのままの意味だ。俺の半身がお前だからな」
「僕たちは双子ってこと?」
「そうとも言えるし、違うともいえるな……」
「煮え切らないな……」
「なんて言ったらいいのか分からないけど、俺には特殊な能力があるんだ。それは、前世を何回も繰り返しているってこと」
「前世を何回も繰り返す?」
「そうそう。回数にするともう数千回は越えてると思う」
「どういうこと!」
「それで、その中で俺はずっとある神の生まれ変わりを探していたんだ」
「その人を見つける為に生まれ変わりを続けたってこと?」
「いや、一回目の人生で見つけてはいたんだけど、やっぱり生まれ変わりよりも本人に会いたくなったんだよ」
話が壮大過ぎて、付いていけなくてただ話を聞くだけになってしまう。
「だから、生まれ変わりを絶望させようと思ってたくさん嘘を教えるように色んな人間を利用して、ようやく叶いそうなんだ」
絶望させると生まれ変わりの元の人になるってどういうことだ?
理屈が分からなくて、僕は首を傾げてしまう。
「それに、俺が半分にした魂ともこうして出会えた。きっと今回は上手くいくと思うんだよな」
「その半分にしたって言うのが僕ってこと?」
「そうだ。だからエピは俺の兄弟だ」
そう言われてもピンと来なくて、何と答えたらいいのか分からなくて固まる。
「そうだよな。じゃあよかったらエピも見に来いよ。俺たちがそこまでして手に入れたい生まれ変わりを」
そう言われて手を引かれて教会までくる。
ミケは聖騎士見習のはずなのに教会で擦れ違う誰もが彼に頭を垂れる。
連れてこられたのは図書館だった。
静かに扉を開くとミケは嬉しそうに彼女の元へ向かう。
「レウシア様。僕の兄弟のエピです。レウシア様に紹介したくって連れてきました」
そこには、ハニーブロンドの髪に透き通るような青色の瞳をした神秘的な女性が居た。
「ミケ! もういつもなら図書館に行く時にはどこからともなく現れて一緒にいるのに今日は来ないから怪我でもしたのかと思ったわ。エピだったわよね。初めまして。私はレウシアよ」
そう言って読んでいた本を傍らに置くと握手を求められる。
彼女の小さな手を握ると温かな温度に心が満たされていった。
あんなに感じていた渇望感が、初めて満たされたのだ。
「レウシア様は、この国の聖女様なんだ」
ミケが誇らしげにそういうけれど、僕は引っかかる。
「えっ? でも聖女様って確か王太子殿下の婚約者様なんじゃ」
「ふふふ、そうなの。表立って目立つのが苦手な私の為にエリーが私の代わりに表に出てくれているのよ」
鈴を転がすような綺麗な声にさらに彼女に惹かれていく。
それから少しだけ会話をして僕はレウシア様と別れた。
教会の前でミケと別れる頃には、彼女に心酔してしまっていた。
だって、誰もが見とれるような容姿に綺麗な声……慈悲深い心。
そして何より僕の渇きを唯一満たしてくれる存在。
「レウシア様の事は内密にされているから誰にも話すなよ」
「でも、公表した方がレウシア様は今よりいい待遇を受けられるんじゃないか?」
「何言ってるんだ! レウシア様が聖女だって分かれば王太子の婚約者にされて色んな人の目にさらされることになるんだぞ」
そう言われて、嫌悪感がぞわっと全身を包む。
「そうだな……彼女は僕たちだけの聖女様だ。そうじゃなきゃダメだもんな」
そう言って、僕はプロメ様に何も言わないことを決意した。
――目が覚めると王城の与えられた一室。
ミケの奴……僕の記憶をいじっていたのか。
「あぁ……僕の聖女様。はやくミケと三人で暮らせるようになりたいな」
本当は僕が独り占めしたいけど、ミケと僕は二人で一人だ。
ミケは、ティア様を手に入れたいって言ってた。
でも僕はティア様なんかよりもレウシア様が手に入れば……それだけで幸せだ。
北の大地で感じたあの力は、レウシア様から俺への愛なんだ。
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本作は「ネトコン14」エントリー予定です。
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