万年氷の秘密
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国王陛下が送った学者の方は、アストン様に助けられた後、数日街で過ごして王都へ帰還していった。
私は、彼の帰還を見届けてからまた北の万年氷の方へ聖力を伸ばしていった。
北部の雪が降り続く地帯に来ると、そこで私の聖力に似た気配を感じる。
その気配を辿っていくと万年氷の場所へと着くことができた。
――そこには、氷に寄り添うように立っている一人の女性がいた。
その女性は、綺麗なブロンドの長髪に綺麗な青い瞳……そして背中には、大きな天使の翼があった。
『あなたが、今代の聖女様ですね』
「えっ……」
『私は、この万年氷を護るためにティア様から仰せつかっている天使です』
「そうなんですね……」
精霊もそうだけれど、なんで今まで接点を持つことができなかった種族と今回はこんなに出会うの?
これもティア様が言っていた……今までとの『違い』?
『あなたが遠回りされていたので、万年氷が溶け始めたんです』
そう言うと天使だと名乗った女性は、私の事を睨みつけてくる。
彼女の横にある万年氷を見ると、半分くらいの大きさになっている。
私も教会に居た時に一度だけここに来たことがある。
それにしても、私が『遠回り』というのはどういうことだろう?
こういうのは、聞いてみなければ分からないから聞いてみよう。
「遠回りとは、どういうことですか?」
『あなたが、何千回も繰り返している間にこの氷が溶けないようにするための聖力が無くなってしまったのです』
どういうこと……?
本来であればこの氷に私が聖力を流さないといけなかった?
というか、私って何千回も繰り返していたの!
『聖女の祈りとは、国の繁栄を願い。各所にあるティア様が残された遺跡に聖力を送る事です』
「どういうことですか?」
『私からはこれ以上話すつもりはありません。早くこの万年氷にあなたの聖力を流してください』
何この人偉そう!!
いや、天使だから私よりはえらいのか?
でも、人に頼み方ってあるよね?
『早くしてくれませんか? あなたの異常な恋愛感情のせいでこの氷は解け始めているんです』
「ちょっと失礼じゃありませんか! それに私の陛下への思いは恋愛感情なんかじゃありません」
『はっ……。そんなわけないでしょう? あれが恋愛感情からの祈りじゃないならたとえ命を落とすにしても、この国の王はもっと幸せだったはずよ』
「それって……」
『聖女とは、万物の為に存在するティア様の代行者。そんな人間が一人の人間の為に祈れば世界のバランスは崩れる。その均等を保つには、その人間を呪うのが手っ取り早いと思わない?』
綺麗な笑顔なのにそこには何の感情ものっていなくて……本能的な恐怖に遠く離れているにもかかわらず、身体の震えが止まらない。
『ティア様は一番相性がいいと言われているけれど、私からしたら聖女の役割を放棄し続けた出来の悪い聖女でしかないわ』
彼女の言葉に心が冷えていくのが分かる。
私がしてきたことは、彼女たちからすれば愚かなことだったのだろう。
それが、どういう因果で起きたことかなど関係ないのだ。
引き起こしたのが、誰か……それだけが大事なのだ。
『それにしてもこの氷が溶ける危険性を分かっているの? もうすぐ洞窟の入り口までこの氷が溶けた水位が届くわ。そうなれば、北部の街々はどうなるかしらね?』
「あなたはなんでティア様が創られた世界の危機にそんなに楽しそうにされているのですか?」
『そんなの決まっているじゃない。この世界が無くなればアウラム様も一緒に消滅するからよ』
「アウラム様も一緒に消滅?」
『そうよ。あの神はこの世界に結び付けられている。だから、ティア様がこの世界を諦めた時に消滅するの。そうしたらティア様の悩みも消えるでしょう?』
楽しそうに話すその天使の狂気にずっと身体は震え続ける。
私を縛っている鎖が音を立てるほどに……。
こんな状況なのに、見張りの兵士がなぜ来ないのか?
なんて疑問も浮かぶ余裕はない。
でも、やらないといけないことは分かっている。
「少し離れていてください」
私は、それだけを伝えて震える身体を落ち着かせるように深呼吸をする。
天使が離れたのを確認して、ゆっくりと聖力を身体から流す……。
万年氷の下にも魔法陣があったらしく、氷の下が光る。
そして、さっきまで溶けていた万年氷が少しずつ固まっていくのが伝わってくる。
溶けて溜まっていた水も凍らせていく。
そういえば、万年氷ってなんでできたんだっけ?
少しずつ慎重に聖力を流しながらそんなことを考える。
確か……女神ティア様が初めて人間同士の争いを見た時に悲しみから涙を流されて、それが大雨になり近隣の村を洪水で飲み込もうとしたのを凍らせて堰き止めたものって聞いたな。
よく考えたら、その凍らせたのは一体誰なのだろう?
『もういいわよ。多分あと何十年もこの氷が溶けることはないでしょうね。ティア様が仰った通り、あなたの魂と聖力の相性は最高みたいね』
その手つきは、とても愛おしいものを慈しむように、あるいは壊れ物を扱うように異常に優しかった
彼女は本当に天使なのだろうか?
「あの……なぜティア様はあなた様にこの氷を護るように言われたのですか?」
『そんなの決まっているじゃない。ティア様が私の事を一番愛してくださっているからよ』
そう彼女が妖艶に微笑んだ瞬間に、聖力で見ていた景色が消えた。
多分彼女に……遮断された?
女神ティア様は、狂信者を集める力でもあるか?
そして……彼女は本当にティア様がよこした守護者なのだろうか?
そのあとも何度か万年氷に意識を向けようとしたけれど、繋がることはなかった。
――北部の万年氷が太陽光を浴びて青白く輝く洞窟の中。
一人の天使が妖艶に微笑みながら、氷を撫でていた。
「はぁ……アウラムの気配がして雪崩を起こしたけれど今はその気配もなくなったわね。それにしても、本当にあの出来損ないみたいな聖女が、ティア様と全く同じ聖力を使えるなんてね」
そう言いながら愛おしいものに触れるように、氷に触れ続ける。
「ふふふ。ティア様の聖力は本当に綺麗だわ……誰にも触れさせたりしないんだから」
その呟きが落ちると同時刻、万年氷がある洞窟の入り口で落石が起きる。
こうして、万年氷へ生きて到達する道は塞がれてしまったのだ。
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