北で起きている事
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特に精霊たちからの問いかけもなく。
平和な日々が続いていたある日の夕食時だった。
「そういえば先日、急に国王陛下が教会にいらっしゃったんですよ」
「そう……」
ミケの言葉に、私は淡々と返す。
女神ティア様と会った直後は、どうにかしなければと思っていた。
でも、平和な日々が続く中で、段々と今までの自分の気持ちを考えるようになった。
だって私は、国王陛下の事が好きだと思っていた。
それこそ、私の力を使い果たしてでもあの方を守りたいと強く思うほどに……。
――でもそれは幻想だった。
私は、別に国王陛下の事なんて好きではなかったのだ。
ティア様が言っていたではないか……。
アウラム様の神力は、人の負の感情に作用するのだと。
だから、国王陛下の事を話されてもそうなのかとしか思えなかった。
なのに、ミミケは私の反応を気にしていないようで一人で話し続けている。
「エリス王妃殿下ともとても仲がよさそうでしたよ」
「それは、国にとっていいことだわ。そういえば、結局エリス王妃殿下のご懐妊はどうなったの?」
ふと疑問に思ったので聞くと、ミケは力なく横に首を振った。
「それが、ただの貧血だったそうです」
「そうなの……早くお世継ぎが生まれればいいのに」
運ばれてきた食事を食べながら、ご飯ってこんなに味がしなかったかしらと考える。
パンのぱさぱさした食感は分かるのに、どんな味なのかが分からない。
私が思わず首を傾げていると、ミケが心配そうに駆け寄ってくる。
「聖女様、どうされました?」
優しく私の背中を撫でてくれるその手の温かさに涙が出てくる。
「どうしたのかしら……今日は体調が悪いのかも知れないわ」
私がそう言うとミケは私に毛布をかける。
こんなものこの部屋にはなかったので驚く。
「聖女様が風邪などひかれてはいけませんから……。ちゃんと朝、交代前に回収します。だから今日はこれにくるまっていてください」
そう言って、私を誘導すると毛布でくるんでから鎖を巻く。
ここにきて、初めて背中に柔らかい感触を感じる。
嬉しくなって微笑むとミケも優しく微笑み返してくれる。
「西の件もありましたし、聖女様はお疲れなのですよ。ゆっくり休んでください」
そういうミケの声を聞いていると段々眠くなってきて……私は眠りについた。
夢の中……私は聖力を流していないはずなのに国王陛下がそこに立っていた。
そして、私の身体はいつの間にか小さな子どもになっていた。
「ルル。会えてよかったよ」
「へいか? おつかれですか?」
少しやつれた様子の国王陛下に声を掛けると力なく微笑まれる。
「聞いてくれ、多分教会は何かを隠しているんだ……」
「そうなのですか?」
「あぁ……この間久しぶりに図書館に行ったら神が増えていた」
「ふえる? かみさまがですか?」
「あぁ……アウラム様という名前だ」
「アウラムさま……」
私は、思わぬ神の名前に驚いて殿下を見つめる。
「ルルは知っているのかい?」
「ティアさまからききました」
「そうか……ティア様がご存じなら本当に神なのだろうな」
「アウラムさまがどうしたんですか?」
「どうって訳ではないんだが……どこを探してもそんな神がいたという記録がないんだ」
ティア様の事を陰から支えていたというのが、事実なら記録に残っていなくても不思議ではない。
でも、いきなり髪が増えるなんてことふつうあり得ないと思うのよね。
私が、色々考えていると目の前にいる殿下が大きなため息を吐いた。
「それと同時に北部の万年氷が溶け始めるし……問題が山積みだよ」
北部の万年氷……溶けているなんて知らない。
それこそ私の回りは一時期、妖精たちに溢れていたけれど今は静かだ。
それは、何も問題が起きていないからだと思っていたけれど……もしかして身動きが取れなくなってる?
それぞれの精霊たちは、あくまで独立した存在らしい。
彼らを統べているのは、ティア様だからティア様の聖力を継承した私は、彼らの存在を借りて浄化ができるという仕組みらしい。
首を傾げながら考えていると陛下が私を心配そうに見ている。
「何か聞いているかい?ルル」
「いえ……まんねんごおりは、ひどいじょうたいですか?」
「どうだろうな。俺の信頼できるエピという学者を調査に行かせているから……大丈夫だと思う」
エピ……というのは、この前の青年のことだろう。
「すこし、きたのうごきをみておきますね」
「あぁ……もしなにか手伝えそうなら教えてほしい」
「わかりました」
それだけ伝えると私の意識が浮上し始める。
目を開けると、いつの間にか毛布はなくなっていた。
体調の不調は感じないので、ゆっくりと北の方へ聖力を巡らせてみる。
万年氷というのを探していると、人影のようなものが見えた。
もしや……エピ?
そう思って意識を集中させるけれど、彼は雪の中で倒れていた。
その周りには、たくさんの精霊がいる。
私が聖力を彼らの方へ伸ばすと、雪の精霊が私に気がついた。
『レウシア! 大変なの。急に雪崩が起きて、この人死んじゃうわ』
近づいてきた精霊の言葉を聞いて、私は慌ててエピに聖力を流す。
浄化と同じ……彼を守るのだ。
青白い顔の彼に聖力を熱にして、温める。
私がそうしていると、雪の精霊たちは雪のドームを作った。
雪でできているのに少し暖かくなったのか……震えていた彼の身体の震えが少し和らぐ。
ただ、私と精霊たちとでは彼を運ぶことはできない。
悩んでいるとそこに騎士の一団が現れた。
それは、アストン様率いる王家の騎士たちだった。
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