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死ねない怪物の私は、もう祈らない~私の心はもう死にました。なのにどうしてあなたは私を探しているのですか?~  作者: 紫乃てふ


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私は怪物

12月19日から始まる「ネトコン14」にエントリー作品です。

コンテストの期間中【毎日更新】でお届けします。

楽しんでいただけたら、ブクマ・評価をいただけると飛び上がって喜びます!

 睡眠なんて、必要ない身体のはずなのに……。

 泥のように眠ってしまっていたらしい。

 予想するに、初めてこの国全体に聖力を流した反動だろう。

 もう少し眠れそうで、うとうとしていると……。


 ――ズキッ。


 激しい頭痛に襲われる。

 私は、この痛みを知っている。

 私の聖力は、流し込んだ対象から情報を吸い上げる『ソナー』の役割を果たす。

 この能力は、歴代の聖女の中でも稀有な能力らしい。


 そして今、私の頭の中には、聖力が浸透した国中の情報が雪崩れ込んできていた。

 どこかの家の、騒がしい朝の風景。

 畑で農作業している老人たちの会話。

 教会の鐘の音と、祈りを捧げている信者たちの声。


 目を閉じて、脳が焼き切れるような痛みに耐えながら、ゆっくり呼吸をする。

 膨大な情報の中から、要らないものを選別し、捨てていく。

 私に必要なのは、この国や国民が危険に合う可能性のある『悪意』の情報だけ。


「はぁ……はぁ……なんとかできた」


 初めてここに来たときは、情報の取捨選択ができず、国王陛下の周囲の情報が全て流れ込んできて困惑した記憶がある。。

 教会で、能力の存在自体は聞いていたが、誰も制御の仕方を知らなかった。

 だから、自力で何とかするしかなかった。


 少しだけ、痛む頭で、今までの繰り返す日々を振り返る。

 何百回と繰り返す中で、気が付いたことがある。


 飢きんも感染症も、場所は変われど、似たような時期に起きていること。

 それこそ、まるで何者かが意図的に起こしているかのように……。

 そしてそれは決まって、国王陛下が外交や政務で忙殺されている時期を狙って起こるのだ。


 国王陛下の耳に凶事が入るのは、いつも王都の近くまで迫った後。

 被害の規模が変わっても、確実に国力は削られていく。

 そして、その国力低下が引き金になり、隣国からの侵略や内乱を招き、国は崩壊し、国王陛下は崩御される。


 ……おかしい。

 私自身、国王陛下の幸せを願って祈っていたのに、これほど不幸が重なるなんて。


 もちろん、自分の祈りが万能だとは思っていない。

 けれど、ここまでタイミング良く不幸が重なる事があるのだろうか。

 王妃の実家に王宮を乗っ取り。

 教会によって失墜させられる。


 ――そうか。

 国王陛下はきっといつも『最後』にこう願われたのだろう。

 己の無力さから、『いっそ、死んでしまいたい』と。


 ハッとして、息を呑む。

 そうか。そういうことだったのね。


 私は、国王陛下への願いが叶うようにと、それが幸福なのだと、ずっと祈りを捧げてきた。

『どうか、優しく聡明な陛下が幸せでありますように』と。


 けれど、絶望の淵に立たされた彼にとっての『幸せ』は、生きることではなかった。

『死』による解放だったのだろう。

 だから私の祈りは、その願いを忠実に叶え、彼を死に至らしめたのだ。


 なのに、彼が死ぬと必ず時間は巻き戻る。

 それはつまり、この世界にとって、『国王陛下の死』は『不正解』なのだ。

 彼の死が叶っても、世界はそれを許さない。

 だから私は、彼の願いを『正しく』叶える為にやり直しをさえられる。


 終わりのない地獄をさまよっているかのように……。

 前々回の繰り返しの時――。

 くりかえる日々に絶望し、ただ祈りを捧げていた。


 その時の私は、終わりのない地獄に心が完全に折れてしまっていた。

 そして私は、運ばれてくる食事を一切口にしなくなった。。


 朝、兵士が食事を持ってきて、床の石碑に縛られている私を座らせて出ていく。

 兵士が出ていくのを見て、面倒なので石碑の上にまた寝転がる。

 しばらくして戻ってくると、全く手を付けていないのを見て、大袈裟にため息を吐く。

 少し考えるそぶりをして、無言で皿を下げると、慣れた手つきで鎖を巻き直して、去っていった。

 こんなことが、毎食後に行われる。

 少し体調が悪くなったと感じ始めたころだった。

 彼女と教皇が私のところにやってきた。


「おい。本当にもう一ヶ月も飯を食べていないのか」


 ……一ヶ月?

 教皇の発言に、私の鈍い思考が反応する。

 そんなに経っていたのか。

 意外と人は丈夫なのだなと、変なところに感心する。


「は、はい。三食お出ししてます」

「ならばなぜだ! なぜ一ヵ月も断食をしているのに、この女はこんなに健康な姿なんだ」


 えっ……何を言っているの。


「そ、それをお聞きしたくて教皇猊下をお呼びしたんです」


 でっぷりとしたお腹を揺らし、教皇ゴルゴスが私を指さして喚き散らしていた。

 そして、その背後には国王陛下の愛を一心に受けている王妃エリス。

 彼女は、まるで恐ろしいものを見るような目で私を見ていた。


「どういうことですの。君が悪い」

「私にも何が何やら……」


 突然の来訪者達を、私は軽蔑するような白い目で見る。

 困惑しながらも教皇は何かを探るように、私に自身の聖力を流してきた。

 ……痛い。

 聖力には、相性があるらしい。

 教皇の聖力と私の聖力は、相性が悪く身体が、痺れるような感覚に陥る。

 床の石碑に縛り付けられている私には、抵抗する術がない。

 いや、幼少期からの折檻で、抵抗をすることを私が諦めているだけだ。


 しばらくすると、私の下にある魔法陣がピンク色に輝きだした。

 その光が私を包み込むと、飢餓感も、身体の不快感もすっかり消える。


「ま、まさか……」

「ちょっと、自分だけ納得しないでくれるかしら」

 王妃エリスが、ヒステリックに叫ぶ。

 その剣幕に、見張りの兵士は、怯えたように身を縮こまらせた。

 私自身も良く分からず、黙って事の成り行きを見守る。

「こやつは、石碑に刻まれている女神の魔法陣から強制的に聖力を補い、命を繋いでいるようです」

「なにそれ! いつまでも、老けないってこと?」

 的外れな王妃エリスの発言に、さすがの教皇も一瞬呆れた表情を見せる。

「そ、そうですな。聖力を補うことで、不老になっているやもしれません」

「なにそれ! 羨ましい!」


 おぉ……素直に言ったものだ。

 この時、私が何度も同じ日に戻される理由が一つ判明した。

 私はきっと『不老』だけではなく、『不老不死』なのだ。

 ただ、創世の女神だって伝承では消滅と言われてるいる。

 死ねないわけではないはずだ。

 私が、ぼんやりと創世の女神の伝承を思い出そうとしていると、王妃エリスの金切り声が、思考を遮った。


「なんの……なんなのよ!」


 何が気に入らないのか、取り乱すその姿には、品位の欠片も感じられない。

 呆れて見ていると、教皇が兵士に顎でしゃくって命令を下した。


 兵士は、困惑しながらも剣を抜き……私の心臓めがけて突き立てた。


 ――ドスッ。


 焼けるような痛みに表情を歪めた瞬間、また魔法陣が輝く。

 痛みが引いていき、身体中が熱くなる。

 私に剣を突き立てた兵士は、「うわぁぁぁぁぁ!」と叫びながら、剣を放り投げて逃げ出した。

 王妃エリスも教皇も、目の前で起きた異常な現象に顔を引きつらせ、後ずさる。

 。

「気持ち悪い。何なのこの怪物は」

「そうですな。なんと禍々しい……お前など人間ではない」

 二人は、畏怖と嫌悪を隠そうともせず、私を見下ろした。

 こんなところに閉じ込められて、死ぬことさえ許されない。

 ふざけるなと言いたいのは、私の方なのに。


 ある程度罵倒し終わると、二人は部屋を後にするように歩き始める。

「ですが、エリス様。これでこやつは永久にあの浅はかな男のために祈ることしかできないことがわかりました」

「それもそうね。あの男が幸福ならば私も幸せですし……聖女だと偽りやすくなりますわね」


 二人の会話が、遠くなる。

 私は化け物。

 死ねない怪物。

 彼らが去り際に吐き捨てた言葉だけが、いつまでも私の頭の中に反響した。

 そう、あの日私は、『聖女』から『怪物』に成り下がったのだ。


最後までお読みいただきありがとうございます!

本作は「ネトコン14」エントリー予定です。

少しでも「気になる」と思っていただけたら、ページ下の評価やブクマ登録をしていただけると、執筆の励みになります!

明日も更新しますので、またお会いしましょう!

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