陛下の人生はハードモード?
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陛下の寝室にある水差しに毒が入れられた夜……。
あれ以降毎晩のように、王妃エリス様と侍女がやってきては、毒を水差しに入れて出ていく。
効果が現れないことに焦っているのか、量は日に日に多くなっている。
さらに王妃エリス様の表情には、いら立ちが見える。
そんなことがあるので、私は常に陛下の周りを警戒するようになった。
ある日、差し入れにと文官が持って来たクッキーの中に毒が仕込まれていた。
また別の日には、全然知らない女性が陛下の寝室に忍び込んでいたりもした。
それとは別で、1時間のうちに何回も執務を邪魔しにいらっしゃる王妃エリス様。
その他にも貴族の方々が、散歩の寄り道感覚で陛下のところに苦情を言いに来る。
彼らの話には、聞いている限り中身が全くない……。
ある者は、天気の話を延々とし続ける。
ある者は、王都にできた新しいお店のメニューがおいしいと言う。
また、ある者はいくつかの国にある資源を戦争で奪い取ろうなど……。
しかも、夢物語でしかない計画を話すのだから困る。
カドモス様や賢者様が追い返しても、次から次へとやってくるのだから質が悪い。
お陰で、陛下は睡眠時間を削って執務をされるようになっていた。
「こればっかりは、仕方ないわよね」
私は、そう呟くと何かの文献で読んだ回復の呪文を唱える。
陛下の身体に白色の光がまとわりつくと、ゆっくり染み込むように吸収されていった。
私自身は、石碑の魔法陣の聖力に生かされているけれど、私の聖力を人に流し込むことで生かすことができるんだと思う。
こんなこと初めてした。
教会の図書館の奥にひっそりと置いてあったその本は、古代語で書かれていた。
一応、習ってはいたもののそれは完全ではなかったらしく、読める文字だけを読み進めていた。
その中にあったのが先ほどの回復の呪文。
教会にいる間は、誰にも試すことができなかった。
なにより、皆が私の聖力は特別だからもったいないと使わせてくれなかった。
優しかった人たちは特に私の力を隠させようとしていた。
強すぎる力は私の事を破滅させてしまうからと……。
実際には、教会に連れてこられた時には、私は破滅の道を歩いていたのだろう。
だって、もう数えるのも嫌になるくらい途方もない時間を繰り返しているのだから……。
『レウシア……、陛下の事元気にしてくれてありがとう』
「私が元気にしたのは、身体だけよ。心までは元気にできていないわ」
『なら、レウシア会いに行ってあげてよ』
「ここから、私出れないのよ?」
『でも、会えるでしょう?』
……夢で会ってこいってことね。
今のところ、国民にとってはいい王様のようだし、会いに行くくらいならいいか。
そう思って、陛下が寝てから私もゆっくりと聖力を流し込んでいく。
この前よりも順調に進み、すんなりと陛下の夢の中に入ることができた。
「へいか。にしのみずうみのことありがとう」
どうしても、私の大きさは子どもの頃のままだったけれどそれでいいと思いなおした。
目の前に急に現れた私に驚いた顔をしている陛下に、西の湖の件の御礼を言う。
あのぼさぼさ頭の青年が居なかったらもっと時間がかかっていただろうから……。
でも、陛下の顔はなぜかさえなかった。
「あぁ。ルルだね。いや、俺はなにもしていないんだ……むしろ領民を苦しめていたことに気が付いてすらなかった」
「でも、いまきがつけたんでしょう?」
座り込んでしまった陛下の近くに行って、その頭を撫でてあげる。
泣きそうな顔で頭をあげた陛下に、頷いて見せる。
「だれにでもまちがいやみおとしは、あるとおもう。でも、きづけたのならこうどうすればいいだけでしょう?」
「でも、相手は俺が傷ついていた時に支えてくれたいいやつなんだ」
「へいかはそのひとが、りょうみんにしてることをしってもそうおもうの?」
「......いや。知ってからはなんてひどい奴だって……気づかなかった俺もひどい王族だと思っている」
「それは、ちがうよ。だって、へいかはそのひとのいちめんをはじめてしったんだもん」
何度も彼の人生を見てきた私には、分かる。
彼は、自分の味方だと思った人たちを信じすぎてしまうところがあることを。
知っている。
毎回そんな風に大切にしてきた人たちから裏切られていることを……。
私が数多繰り返した中で、陛下の事を裏切らなかったのは、ただ一人。
カドモス様だけだったから……。
「へいかのみかたがいますよ。そのひとをたいせつにしてあげてください」
「おれのみかた……」
「はい。めがみさまがいっていました。へいかはすてきでつよくて、やさしいかただから、これからみかたがたくさんできるって」
女神さまが言ってたというのは嘘だけれど、これで元気になってくれるなら安いものよ。
「そうか……そうだな。俺にはカドモスも賢者様もエピもいる。それに、ルルもいる」
そう言うと、とてもやさしい笑顔で私の事を見つめて抱きしめる。
「ありがとうルル! 元気が出てきたよ」
そのまま私の頭を撫でる陛下の笑顔は、懐かしい気持ちになるような温かい笑顔だった。
しかしこの時の私は、知る由もなかった。
陛下をこんな状態にしていたのが、私の祈りが原因であることを……。
そして、私の祈りのメッキが剥がれた今回。
陛下は色々な人に傷つけられる人生を味わうことになることを……。
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