女神の生まれ変わり
新しい物語です。
12月19日から始まる「ネトコン14」にエントリー作品です。
コンテストの期間中【毎日更新】でお届けします。
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聖アイギス王国の夜は、まやかしの祝福に満ちていた。
今日は、若き国王ヘリオスと公爵令嬢エリスの結婚が執り行われた日だ。
王都のあちらこちらでは、王の新たな門出を祝い、飲み明かす人々や広場で踊りあかす人々で溢れている。
そして、王城の大広間では、主役の二人を祝う多くの貴族を集めた結婚披露宴が催されていた。
豪奢なシャンデリアの下、着飾った貴族たちがグラスを掲げ、口々に「万歳」と叫ぶ。
その視線の先には、無表情に佇む若き王ヘリオスと、燃えるような深紅のドレスを纏い、勝ち誇ったように微笑む新王妃エリスの姿があった。
「おお、なんと美しい……」
「即位と同時にご成婚とは、まさに国の慶事だ」
「今夜も国境の瘴気は晴れている。これぞ”聖女”エリス様の奇跡、二人の愛を女神様が祝福している証拠だ」
賞賛の声に、エリスは扇子で口元を隠し、優越に浸る。
その隣で、新郎であるヘリオスはどこか一点を見つめ、その黄金の瞳は、虚空を映していた。
彼は知らない。
自分たちが踏みしめている磨き上げられた大理石の床。
その遥か底に……彼の幸せだけを祈るための装置があることを。
彼らの足元、遥か深く。
光も、音も、愛の誓いさえも届かない場所へ。
ここは、王城の最深部、封印指定区域。
王であっても簡単に立ち入ることのできないとされている聖域……。
大きく湿った魔法陣が刻まれた石碑の上に、一人の女性が鎖で繋がれていた。
粗末な衣から覗くのは、鎖に擦り切れては瞬時に再生し続ける、傷ひとつない、陶器のように白い肌。
しかし、かつて蜂蜜のように輝いていたブロンドの髪は、終わりのない精神的負荷に晒され、今や月光のように凍てついたプラチナブロンドへと変わっていた。
寝起きのようにゆっくりと開かれたマリンブルーの瞳に、もう光は宿っていない。
遥か頭上から鳴り響く、祝砲の振動だけがかすかに伝わってくる。
もう、何度目かも分からない。
この光景を目の当たりにする度に、己の無力さを痛感させられる。
「また、私は……、失敗したのね」
彼女は、一筋の涙を流す。
また、この日—”彼らの結婚式”に戻ってきてしまった。
それは、自身の祈りの失敗を意味している。
次の瞬間、彼女は壊れた人形のように笑い出す。
「はは、あはははははっ。何回やっても何回やっても、あの方は死んでしまう。どんなに私が祝福を授けても、繰り返すたびに悲惨な結末を迎える。バカみたい。本当にバカみたいじゃない」
ひとしきり笑うと、ふっと糸が切れたように脱力する。
そして、遥か上にある天井を睨みつけ、吐き捨てる。
「何が、女神の生まれ変わりよ。何が聖女よ。私なんて、ただの生贄じゃない」
地下で彼女が自身の処遇を嘆く。
しかし地上では、新王が貴族たちに囃し立てられ、王妃と誓いのキスを交わしている。
彼のための”聖女”が、地下で生贄のように祈りを捧げ続けていることなど知らずに……。
「もう、あの方がどんな結末を迎えようとどうでもいいわ。今回を最後に……私は、ただ静かに消えよう」
彼女は小さく唇を動かし、新たな呪文を紡ぐ。
その詠唱に呼応して、彼女の魔力に反応した魔法陣から、黄金の光が空へ向かって放たれる。
地上では、国中を包み込むように降り注いだこの光を”王妃の祝福”や”奇跡”と言い、貴族も国民もさらに熱狂した。
皮肉なことだ。
その光は、この国の守護者が去っていく”終わりの合図”だというのに。
降り注いだ光は、地下水脈のように広がり、国中へ浸透して、消えていく。
彼女の名はルル。
この国を創世した女神ティアの生まれ変わりにして、この国の若き王の為に教会から捧げられた人柱。
そして—、愛する王を幸せにできない限り、死ぬことすら許されない、哀れな怪物である。
最後までお読みいただきありがとうございます!
本作は「ネトコン14」エントリー予定です。
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