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ガラガラと音を立てて馬車が走る。
先ほど受け取った書簡には、ほとんど何も書かれていない。それでもエドワードは、手にした紙をじっと見つめ続けていた。
「エドは、なんだと思う?」
「……前回の候補は事故で処理された。その後も問題はない。新しい婚約者候補、だろう」
開け放した窓から冷たい風が吹き込み、紙が揺れる。
エドワードはひらりと書簡を掲げてみせた。――「我が執務室に来られたし」。それだけ。
アウレリウスは横目でそれを見やり、黙って窓を閉める。
「簡潔すぎる文だ。兄上の僕への扱いが、よく分かる気がする」
「親愛の証だろうな」
「……え?」
アウレリウスは足を組み替え、平然と続ける。
「オクタヴィアにも『来い』とだけ書かれた手紙が届くよ。親しいと思うからこそ雑なんだ。隙のない方だけど、そういうところは……可愛げがある」
「……かわいげ?」
問い返すエドワードに、アウレリウスはただ笑みを浮かべただけだった。
◇◇◇
「新しい婚約者候補が決まった」
「……そうですか」
やはり、という思いと、なぜか抗いたい気持ちが同時に浮かぶ。
「武門の娘だ。父親は特務部隊にいる。お前の仕事とも相性は悪くない。顔合わせは三日後だ」
コンスタンティンの従者から資料を受け取る。急ごしらえなのか、前回よりずっと薄い。
「謹んで承ります」
「下がれ」
「はい」
顔を上げる。だが兄は、こちらを見てもいなかった。
◇◇◇
帰りの馬車。
「僕には……あの方の“可愛げ”とやらは分からなかった」
「そうか? ……これから本部に戻る? それとも帰る?」
「直帰する」
アウレリウスが御者に行き先を告げ、再び正面に座った。