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3

 邸宅の前には王立治安局の兵が立ち、門は固く閉ざされていた。

 馬車が止まると、エドワードはしばし扉に手をかけたまま黙した。


「……どんな顔をしていけば良いんだ」

 隣で同じく馬車を降りる準備をしていたアウレリウスが、肩をすくめて笑う。

「その綺麗な顔のままでいいんじゃないか?」

「そういう話をしているんじゃない」

 わずかに苦笑するエドワード。


 次の瞬間にはすでに表情を引き締め、王弟としての顔を整えていた。

 門の前に進むと、隊長格の治安局員が一歩前に出て深く頭を下げる。

「王弟殿下、特別監察官殿。副監察官殿。ご足労いただき恐縮です」

「ご苦労。――中を案内せよ」


 声は低く、落ち着いて。先ほどまでのくだけたやり取りが嘘のようだった。


◇◇◇


 邸内は不自然なほど静まり返っていた。

 けれど、その静けさの中にも、几帳面に磨かれた調度や整った装飾があり、ありふれた貴族の屋敷の品格を感じさせる。

 重厚な階段を上り、導かれるまま二階のバルコニーへ。


「目撃者は?」

「使用人が数名。皆、こう証言しております――令嬢は殿下との縁組を心から喜んでおられた、と。自ら命を絶つようなお方ではなかったと」


 エドワードは黙って頷き、欄干に手を置いた。

 冷えた石の感触。頬にかすかな風を感じる。


 下を覗けば、庭園の一角に花が散らばっている。

 血の痕跡はすでに拭われ、花弁と土の色がただ生々しく残るだけだった。


「不審な点は?」

「現時点では見つかりません。欄干に手掛かりもなく、足場に乱れもない。……事故として処理せざるを得ないでしょう」


 その言葉に、アウレリウスが横目でエドワードを窺った。

 エドワードの眉がかすかに寄る。


「……兄上の仰るとおり、醜聞になりかねん。だが、このまま事故と片付けるのは早計だ」

「御意」


 短いやり取りのあと、二人は踵を返した。

 背後で、ふいに衣擦れのような音がした気がした。

 振り向いたが、誰もいない。風だけが、静かに廊下を抜けていった。


◇◇◇


 再び馬車に乗り込む。

 車輪の音が石畳を打つ中、エドワードが低く呟いた。


「……どこを見ても、やはり事故にしか見えない」

「そう見えるのなら、それが結論だろう」

「――いや。心が否と告げている」


 窓の隙間から吹き込んだ風が、膝の上の書類をふわりと揺らした。

 エドワードはそれを押さえながら、重く瞼を伏せた。

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