23
「アウレリウス様!」
「エドは!?」
「お部屋に!」
夜半にもかかわらず知らせを受け、離宮に駆けつけたアウレリウスは、フランツに導かれエドワードの私室へと急いだ。
扉の前で一度深く息を整える。――もし遅かったら。そんな不吉な想像が胸を締めつける。
「エド!」
勢いよく部屋に入る。
ランプの炎に照らされ、バルコニーに座り込んだまま茫然と外を見つめるエドワードの姿があった。
肩から落ちた髪は乱れ、泣き腫らした目の跡が生々しい。
フランツたちに下がるよう目で指示を出し、静かに扉を閉める。
しんと静まり返った室内を、アウレリウスは一歩一歩踏みしめる。
足音が近づくごとに、胸の鼓動はいや増していく。
「エド?」
呼びかけると、緩慢にこちらを振り返る。
その瞳は――もう緑ではなかった。
アウレリウスの知る、理知的で、どこまでも澄んだ空色に戻っていた。
ほっと胸が緩む。
膝をつき、頭をかき抱くようにして、自分の胸へ引き寄せる。
「……連れていかれなくて、良かった」
「……アウル?」
掠れた声が、頼りなく胸元に落ちる。
「心配かけやがって」
見上げた空色の瞳に、また涙がじわりと滲む。
けれどその涙は、もはや妖しい光を帯びたものではなかった。
ただ、人としての弱さと儚さを湛えた――アウレリウスの大切な、主人であり、弟であり友であるエドワードのものだった。
「僕の……愚かな恋は、終わったんだ……」
「そうか……」
「もう、永遠に失われてしまったんだ……」
「うん、そうか……」
それ以上の言葉は要らない。
アウレリウスの腕の中で、エドワードは子どものように泣きじゃくった。
泣き止むまで、背をさすり続ける。
やがて東の空が白み始める。
長い夜は、静かに明けようとしていた。