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「アウレリウス様!」

「エドは!?」

「お部屋に!」


 夜半にもかかわらず知らせを受け、離宮に駆けつけたアウレリウスは、フランツに導かれエドワードの私室へと急いだ。

 扉の前で一度深く息を整える。――もし遅かったら。そんな不吉な想像が胸を締めつける。


「エド!」


 勢いよく部屋に入る。

 ランプの炎に照らされ、バルコニーに座り込んだまま茫然と外を見つめるエドワードの姿があった。

 肩から落ちた髪は乱れ、泣き腫らした目の跡が生々しい。


 フランツたちに下がるよう目で指示を出し、静かに扉を閉める。

 しんと静まり返った室内を、アウレリウスは一歩一歩踏みしめる。

 足音が近づくごとに、胸の鼓動はいや増していく。


「エド?」


 呼びかけると、緩慢にこちらを振り返る。

 その瞳は――もう緑ではなかった。

 アウレリウスの知る、理知的で、どこまでも澄んだ空色に戻っていた。


 ほっと胸が緩む。

 膝をつき、頭をかき抱くようにして、自分の胸へ引き寄せる。

「……連れていかれなくて、良かった」


「……アウル?」

 掠れた声が、頼りなく胸元に落ちる。


「心配かけやがって」


 見上げた空色の瞳に、また涙がじわりと滲む。

 けれどその涙は、もはや妖しい光を帯びたものではなかった。

 ただ、人としての弱さと儚さを湛えた――アウレリウスの大切な、主人であり、弟であり友であるエドワードのものだった。


「僕の……愚かな恋は、終わったんだ……」

「そうか……」

「もう、永遠に失われてしまったんだ……」

「うん、そうか……」


 それ以上の言葉は要らない。

 アウレリウスの腕の中で、エドワードは子どものように泣きじゃくった。

 泣き止むまで、背をさすり続ける。


 やがて東の空が白み始める。

 長い夜は、静かに明けようとしていた。

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