21
今朝もアウレリウスは緑の離宮にエドワードを迎えに来て、愕然とした。
空色の瞳が――明らかに緑に染まっていた。
「エド……今日は仕事を休まないか?」
きょとんと見上げる表情は、幼い頃と何も変わらないように見える。瞳の色を除けば。
「何か他にやりたいことがあるのか?」
「お前の体調が……」
「僕はすこぶる健康だ。以前は眠れなくて悩んだけど、今はそんなこともない。いいから行くぞ。仕事は山積みだ」
さっさと馬車に乗り込む。アウレリウスも慌てて後を追った。
正面に座った彼の鳶色の瞳に、じわじわと涙がにじむ。
「……っ! どうした。アウルの方が体調が悪いのではないか?」
「違う! 違うんだ! エド……自分で気づいていないのか?」
アウレリウスが首を振る。涙が頬を伝った。
「……何に?」
「お前の綺麗な空色の瞳! 緑になってるんだよ!」
シルフの、あの吸い込まれるような翠の瞳が脳裏をよぎる。
「いつから?」
「少し……前から」
「……そう」
少し前。
そういえば、いつから体調は戻っていた?
眠れなくなった夜が終わったのは――あの日から。
越えてはいけない壁を、越えてしまった時から。
◇◇◇
それでも日常は押し寄せてくる。
調査をこなし、報告を受け、指示を飛ばす。
黙々と、何も考えないように。
時折、アウレリウスが唐突に腕を掴む。
「……消えていなくなりそうだったから」
真っ青な顔でそう呟く。
恐怖と、諦め。
窓が閉じていても、常に風を感じるようになった。
甘い香りが、絶えず身を包むようになった。
――そうか。
あの日から、すべては変わってしまっていたのだ。