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 今朝もアウレリウスは緑の離宮にエドワードを迎えに来て、愕然とした。

 空色の瞳が――明らかに緑に染まっていた。


「エド……今日は仕事を休まないか?」


 きょとんと見上げる表情は、幼い頃と何も変わらないように見える。瞳の色を除けば。


「何か他にやりたいことがあるのか?」

「お前の体調が……」

「僕はすこぶる健康だ。以前は眠れなくて悩んだけど、今はそんなこともない。いいから行くぞ。仕事は山積みだ」


 さっさと馬車に乗り込む。アウレリウスも慌てて後を追った。


 正面に座った彼の鳶色の瞳に、じわじわと涙がにじむ。


「……っ! どうした。アウルの方が体調が悪いのではないか?」

「違う! 違うんだ! エド……自分で気づいていないのか?」


 アウレリウスが首を振る。涙が頬を伝った。


「……何に?」


「お前の綺麗な空色の瞳! 緑になってるんだよ!」


 シルフの、あの吸い込まれるような翠の瞳が脳裏をよぎる。


「いつから?」

「少し……前から」

「……そう」


 少し前。

 そういえば、いつから体調は戻っていた?

 眠れなくなった夜が終わったのは――あの日から。

 越えてはいけない壁を、越えてしまった時から。


◇◇◇


 それでも日常は押し寄せてくる。

 調査をこなし、報告を受け、指示を飛ばす。

 黙々と、何も考えないように。


 時折、アウレリウスが唐突に腕を掴む。

「……消えていなくなりそうだったから」

 真っ青な顔でそう呟く。


 恐怖と、諦め。

 窓が閉じていても、常に風を感じるようになった。

 甘い香りが、絶えず身を包むようになった。


 ――そうか。

 あの日から、すべては変わってしまっていたのだ。

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