表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

20

 シャンデリアが燦然と輝き、無数の光が晩餐室を満たしていた。

 天井の漆喰には繊細な文様が彫られ、長大なテーブルの上には銀器と燭台が整然と並び、色とりどりの料理が宝石のように輝いている。


 コンスタンティンが杯を掲げる。

「乾杯」

「「「乾杯」」」


 王女オクタヴィア、王弟のマクシミリアンとエドワード。王族四人がこうして揃うのは珍しいことだった。


「どうだ、皆、調子は」

 兄王の問いに、オクタヴィアが棘を含んで答え、マクシミリアンは律儀に「調子はいいです」と答える。

 オクタヴィアは軽口を混ぜて弟を褒め、マクシミリアンは真っ赤になり、コンスタンティンは泰然と頷いた。


 それはいつもの家族のやり取り――だが、エドワードの胸にはどこか遠い霞がかかっていた。

 笑い声も、器の触れ合う音も、耳に届いてもすぐに掻き消えていく。


「エドワードは?」

 問いかけられて、ようやく我に返る。

「僕は……第三者監察院の仕事に、まだ追われております」

「いや、お前にはよく働いてもらっている。これからも頼むぞ」

「……はい。兄上」


 口に出した言葉は確かに忠誠だった。

 ――けれど、その裏で何か別の声が胸を撫でていく。

 誰の声かは考えまいとした。考えれば、理性が揺らいでしまう気がしたから。


◇◇◇


 晩餐が終わり、王族たちが馬車乗り場へと向かう。

 珍しく、コンスタンティンが弟を見送った。


「エド」

 その声に振り向くと、視線が交わる。

 同じ空色を宿しながら、兄の瞳は鋼のごとく冷ややかで揺るぎない。


「エド、私はお前に以前告げたな。

 我は王となる。ゆえに誓おう。

 我が治世を支える柱の一つとして、汝を我が手の下に置く。

 我が剣は汝を護り、我が影は汝を覆う。汝は我が同胞なり」


 朗々と詠うような声が、宵闇に澄んで響いた。


「お前は私のものだ。私の治世を支えるのに、お前の力が必要だ。……何に心を囚われている」


 その問いに、胸が強く締めつけられる。

 心はどこかに惹かれている――けれど、それを形にすることはできない。

 

「私からお前を奪おうとする者は、何者だ!」


 圧倒的な覇気が放たれ、膝が崩れそうになる。

「あ……兄上……?」


 その瞬間、足元から風が舞い上がった。

 白薔薇の花びらが宵闇に舞い、痺れるような甘い香りが空気を満たす。


 コンスタンティンは静かに腰の剣を抜いた。

「やめてください! 兄上!」


 エドワードにはわかる。

 ――風は、自分を守ろうとしている。

 それが後戻りできない証であることも。


 恐怖と陶酔がないまぜとなり、彼は堪えきれず膝をつき、コンスタンティンの腰に縋りついた。

「兄上……! どうか……やめて!」


「お前は私の弟だろう! しっかりしろ!」


 剣が鞘に戻ると同時に、風も花びらも消えた。


 うずくまって泣く弟を、兄は覆いかぶさるように抱き締める。

「行くな。私のもとにいろ」


 震える声で、彼は誓った。

「……兄上。僕は、生涯あなたに忠誠を誓います……」


 その誓いを嘲笑うかのように、冷たい風が啜り泣くように吹き抜けた。

 エドワードはただ、兄の腕の中で震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ