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「来たか」
本宮、国王の執務室。
寸分の乱れもなく整えられた空間――机上には一冊の帳簿と羽根ペンだけが置かれ、壁にかかる時計の針の音すら静謐さを強調している。そこに立つ者の気配が、すでにこの部屋を支配していた。
窓辺にもたれるように立つコンスタンティンの姿。
腰まである淡いプラチナブロンドの髪を背で結い、動くたびに光を砕くようにさらさらと揺れる。氷の彫像のように美しい光景であると同時に、畏怖を抱かせる威容だった。
従者に通され、エドワードは歩み寄り礼をとる。
「兄上、エドワード、馳せ参じました」
背後のアウレリウスもそれに倣って頭を下げる。
空色の瞳を持つエドワードが柔らかな理知を纏うのに対し、兄の瞳は同じ色でも鋼を思わせる冷たさを湛えていた。
コンスタンティンは髪を掻き上げ、低く告げる。
「お前の婚約者候補が、自宅のバルコニーから転落死した」
「……え?」
背後でアウレリウスが息を呑む。
執務室に、コンスタンティンのため息が響いた。
「王弟の縁談だ。醜聞になりかねん。治安局はすでに動いているが……お前も公安、第三者監察院として調べよ」
「……御意」
「また良い娘を探してやる」
「……はい」
「下がってよい」
退出のために立ち上がると、やけに衣擦れの音が耳に触った。
顔を上げた瞬間、窓は閉じているのに、不意に頬を撫でる風を感じた。