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 監察院での勤務を終え、一度帰宅して正装し、アウレリウスを待った。

 またもや簡潔な一文――「晩餐会を開く。来られたし」。兄王からの手紙はそれだけだった。


 待つ間、バルコニーに出る。

 今日は風がなく、妙に寂しい。

「……シルフか」


 あの後も資料を読み込んだが、得られるものは少なかった。

 ただ、自分が危うい場所に立っていることは理解している。

 むしろもう、引き返せないとすら思っていた。


「いっそ、囚われてしまってもいいのではないか」


 空に手を伸ばす。

 けれど、そこには何も触れられなかった。


◇◇◇


 ノックの音。

「お迎えがきましたぁ」


 フランツを従えて玄関ホールに出る。

 仕上げにマントを掛けられ、使用人たちの声を背に受けた。


「行ってらっしゃいませ」


 本来なら一人ひとりに微笑みを返すところだった。

 いつもの彼なら、軽く頷くだけでも気持ちを示した。

 だがこの日は、振り返ることなく歩み去った。


 馬車の前で、アウレリウスが恭しく一礼する。

「今日はどっちで参加するんだ? 僕の侍従か? 姉上のパートナーとしてか?」

「侍従として壁に侍っています。あなた方の最高級の食事を生唾飲んで見守りますよ」

「アウルだって曲がりなりにも侯爵だろうに」

「まだ小侯爵なんだよな。父上がなかなか引退されないので」

「まだまだ卿には頑張ってもらいたいからな。仕方ないね」


 二人で馬車に乗り込み、正面に座った。


 アウレリウスが壁にもたれていたが、ふと目を見開いた。

 突然、手を掴む。


「エド」

「何」

「お前……」

「だからなんだよ」


 アウレリウスは何かを振り切るように首を振る。

「行くな。ここにいろ」

「え?」

「俺はお前がいなくなったら……泣くどころの騒ぎではない」

「何を言って……」


 アウレリウスは手を離し、窓の外を睨むように見つめ続けた。


 エドワードの空色の瞳には、かすかに緑が滲んでいた。

 ――本人は、それに気づいていない。


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