13
「今日は泊まってく。いいか?」
「あぁ、むしろありがたい」
エドワードがベルを鳴らすと、すぐにフランツが入ってきた。
アウレリウスが小さく手を挙げる。
「やぁ、フランツ。今日は泊まると知らせを出しておいてくれ」
「アウレリウス様、かしこまりましたぁ。お部屋も直に整いますのでお待ちくださいませぇ」
さっさと部屋を辞していくフランツを見送りながら、アウレリウスが肩をすくめる。
「相変わらず気の抜けた話し方をするやつだな」
「癒されるだろ?」
「本当に? 俺もああいう話し方をした方がいい?」
「やめてくれ。頼むから」
アウレリウスが声をあげて笑った。
窓がカタカタと鳴る。
エドワードが視線を向けると、アウレリウスもつられるように窓を見た。
「……エド?」
問うような目に、エドワードは首を横に振った。
「僕にも、わからないんだ。
いつも近くにいる気がする。でも、会いたいと願っても、会えるわけじゃない」
アウレリウスはその手をぐっと握りしめた。
「え……?」
「少し、目が虚になりかけていた」
「本当に……?」
「あぁ」
――いつからだ?
いつから自分はこうなってしまったのか。
「少し外の空気を吸おう。バルコニーに出よう」
「でも……外は……」
アウレリウスは安心させるように笑う。
「確かめるついでさ」
彼はまだ肩にかけていたマントを翻し、静かな足取りでバルコニーへ向かった。
長靴の底が絨毯を踏みしめ、やがて扉の前で止まる。その背中が、灯火に照らされて揺らめいた。
止めなくてはならない――理性が訴える。
けれど――外へ出たい、と心が叫んでいた。
強烈な目眩に襲われ、エドワードは手で顔を覆う。
きっちりと編まれた髪が微かに揺れ、長い房がランプの光を掠めて煌めいた。
その隙に、扉は音を立てて開かれた。
夜風が吹き込む。
――何かが、そこに待っている。