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「今日は泊まってく。いいか?」

「あぁ、むしろありがたい」


 エドワードがベルを鳴らすと、すぐにフランツが入ってきた。

 アウレリウスが小さく手を挙げる。

「やぁ、フランツ。今日は泊まると知らせを出しておいてくれ」

「アウレリウス様、かしこまりましたぁ。お部屋も直に整いますのでお待ちくださいませぇ」


 さっさと部屋を辞していくフランツを見送りながら、アウレリウスが肩をすくめる。

「相変わらず気の抜けた話し方をするやつだな」

「癒されるだろ?」

「本当に? 俺もああいう話し方をした方がいい?」

「やめてくれ。頼むから」

 アウレリウスが声をあげて笑った。


 窓がカタカタと鳴る。

 エドワードが視線を向けると、アウレリウスもつられるように窓を見た。


「……エド?」

 問うような目に、エドワードは首を横に振った。


「僕にも、わからないんだ。

 いつも近くにいる気がする。でも、会いたいと願っても、会えるわけじゃない」


 アウレリウスはその手をぐっと握りしめた。

「え……?」

「少し、目が虚になりかけていた」

「本当に……?」

「あぁ」


 ――いつからだ?

 いつから自分はこうなってしまったのか。


「少し外の空気を吸おう。バルコニーに出よう」

「でも……外は……」

 アウレリウスは安心させるように笑う。

「確かめるついでさ」


 彼はまだ肩にかけていたマントを翻し、静かな足取りでバルコニーへ向かった。

 長靴の底が絨毯を踏みしめ、やがて扉の前で止まる。その背中が、灯火に照らされて揺らめいた。


 止めなくてはならない――理性が訴える。

 けれど――外へ出たい、と心が叫んでいた。


 強烈な目眩に襲われ、エドワードは手で顔を覆う。

 きっちりと編まれた髪が微かに揺れ、長い房がランプの光を掠めて煌めいた。


 その隙に、扉は音を立てて開かれた。


 夜風が吹き込む。

 ――何かが、そこに待っている。

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