土の記憶
ペタペタ
キュウビがマノンのベッドの下に潜って札を貼っている。
ブラック『……生足。』
キュウビ「よし、上手く貼れたわ!」
キュウビがベッドの下から顔を出すと、コンコンと窓を叩く音がする。
ガルム「何奴!」
番犬として使いたいがガルムを外に出すと村人に悪意、敵意を持たれるだろうからと、自宅警備員をしてもらっている。
彼にはナタを持たせてはあるが、刃物を扱うのはキッチンで包丁をつかってるところしか見たことがない。家の中は安全が保たれている。
ビャッコ「妖精?」
ブラック「あ、魔女のとこの。」
妖精『開けてくださーい。』
ビャッコが窓をあけるとフヨフヨと宙を飛びながら妖精は入ってきた。
妖精「いや~、ここまで物理的に飛んでくるのって結構大変ですね~。」
彼女(?)は小さい布(ハンカチ?)で汗を拭いている。
キュウビ「もう、結果が出たの?コッチから近々、確認しに行こうとは思ってたけど。」
妖精「主様が早めに知らせに行ってやれと仰られましてぇ。」
ブラック「何かでたのか?」
妖精「人骨です。よくすりつぶして粉にしてますが。」
ビャッコ「本当か?」
妖精「はい。顕微鏡で表面構造を調べましたが緻密骨のそれですね。ハバース管の穴も確認しました。他にも海綿骨のスポンジ構造も確認しました。」
……もうついていけない。
専門知識がないとわけがわからない。キュウビはこれがわかってるのか?
キュウビ「成分というより、そのものが出てきたのか……」『私も外部記憶装置にアクセスしてないとついてけないわよ。』
あ、そうなんだ。
俺も欲しい、外部記憶装置っての。
妖精「それと、血の成分や肉片は検出しませんでした。」
ビャッコ「おいおい、ってことは。」
キュウビ「火葬して骨だけにして散骨、肥料に混ぜて出荷ってとこかしら?」
妖精「おそらく。と、主様も同じ答えです。」
ビャッコ「骨だけになるまで火葬?ここらの焼却炉じゃまず火力が足りない。でかい炉が必要になるぞ。」
キュウビ「第一候補は領主で決まりだけど。」
ビャッコ「ここから、どうやってマノンの父親の無罪を証明するかだな?」
ブラック「とっちめて吐かせるのは?」
キュウビ「シラ切られるわね。」
ビャッコ「相手は権威持ちだからなぁ、警察もはい。そうですか。と、手を引くだろ。」
妖精「証拠はあっても、信用するかどうか、世間一般にはうちの顕微鏡並みのものは出回ってないですし。魔女は引きこもりですから。」
なるほど。
分かってても、おいそれと、父親を釈放ってわけには行かないのか。めんどくせー。
ブラック「俺がドラゴンモードで騎士団詰所を壊滅させて父親を連れてきて、マノンと一緒に他の国に移住させりゃいいんじゃね?」
ビャッコ「真犯人はどうする?」
ブラック「そりゃ、ぶちのめすさ。」
もう、それでいいじゃん。力はパワーなんだよ。
キュウビ「そんな事したら、マノン親子が国際指名手配されちゃう、アナタも討伐対象として一生追われるみよ?」
ぐぬぬぬ……じゃぁ、どうすりゃいいんだ?!
1.マノンの父親を無罪放免にする
2.真犯人を捕まえる⇒領主で決定
3.証拠は揃っているが、警察に信用させないといけない
キュウビ「とりあえず、父親の犯行のアリバイを立証しましょう。それで彼は釈放される。」
ビャッコ「そもそも、別件だしなぁ。」
ブラック「アリバイかぁ……。ところで、アリバイって何?」
ケモノの神達はため息をついた。
俺はめげない。聞く恥より、知らぬままいるほうが恥べきことだ。
妖精「アリバイってのは、犯罪発生時間に、被疑者が犯行現場にいなかったことを証明する事実や根拠を指します。」
なるほど。
俺とキュウビは父親のアリバイ証言に関してブルメリオ警部に聞きに行くことにした。
キュウビ「マノンの父親のアリバイに不利な証言をしたやつがいるはず。ソイツの脳を走査すれば何か出てくるはずよ。」
なるほど。分からん。脳を走査?
人間達のいる環境下で生み出された新しい神はすごい。
キュウビ「ブラックだって、視覚情報操作するじゃない。」
あ、そうだった。あんまり、自覚してないけど実は色々できるんだな俺。
警察署の応接室のソファに座り、警部を待つ。
ガチャ
ブルメリオ「ジャックス氏のアリバイ証言をしてくれた方は2人、村長とジャックス氏の家の隣に住むロージと言う男性です。」
(カシィン)
なんの音だ?
キュウビ『まずい!音声識別発動罠だ!』
?
警部は細いファイルを取り出した。しかし、急にキュウビが立ち上がったのを見てその手をファイルごと引っ込めた。
ブルメリオ「どうかされたんですか?」
キュウビ「急用を思い出したの!」
ガシッ!
俺は彼女に腕を取られて部屋を後にした。
ブラック「ちょっと、キュウビ?!何事?」
キュウビ「急いでブラック!証言者が消される!」
ええ?!
街を足早に出るとケモノモードのキュウビにまたがり、急いで村へと戻った。
ビュゥゥゥゥ……!
風を切るようにキュウビは走る。
こんなときは心での会話なら舌を噛まないで済む。風の音も気にならない。
ブラック『トーキングトラップ?』
キュウビ『対象者がその単語を発音すると術者に知らせがいく魔法よ。』
そんな、魔法もあるのかぁ。
キュウビ『急ぐよ!』
ロージの家
バン!
キュウビ「くそ!遅かった!」
そこには生きたように死んでいるロージの姿があった。何ら外傷もないが瞳孔が開いてよだれを垂らして頭を垂れている。脳死状態だ。
キュウビ「村長は?!」
ブラック「行こう!たぶん土塁の見回りだ!」
土塁工事現場
村長「おや?カミナ様の所の、お二人でどうかしたのですか?」
ブラック『間に合った!』
キュウビ『こっちは身柄を確保したわ!狛狐!』
(ボンッ)
狛狐『はいな!姐さん!』
キュウビの呼びかけに応える形で透明な狛狐が姿を現す。
キュウビ『お前は村長に付いて、変なのが来たら知らせるんだ!いいね?』
そこへマノンの夢であった怪物が現れた。
「うわ!なんだありゃ!?」
「戦隊ものの撮影?!」
「ベチョぬる触手企画もの?!」
「おばけずら!」
「お、お助け!」
それを見た工事作業員達は土塁の反対、川側に身を隠した。
タコ怪物「こんな所にいやがった。ずいぶん探したぜ、旦那のことをコソコソ嗅ぎ回ってるみたいだな。クソ野郎ども!」
ブラック「ロージってやつをやったのはお前か!」
タコ怪物「おうよ!テメーらもまとめて退治してやるぜ!」
退治?
こちらを人とは思ってないってことか。そりゃ、夢の中で一度会ってるから当然か。
村の方から槍を担いだガルムも走ってやってきた。
ガルム「ビャッコの兄貴に言われて、加勢に来ました!ソイツですか!村の連中をやって回ってたのは!」
先手必勝!とばかりにガルムは槍でタコ怪物を一突きにした。
シュッ!
タコ怪物「けっ!当たるかってんだ!」
パシッ
タコ怪物は触手で槍をガルムごと持ち上げるとこっちへ飛ばしてきた。
ガルム「うわわ!」
ガシッ
っと、その身を受け止める。
村長「ひぇぇ!」
キュウビ「村長も土塁の影に!」
登るのにもたついている村長を見かねて作業員達が手を貸す。
「村長、早く!」
「こっちずら!」
村長「ひぃ、ひぃ、じゅ、寿命が……!」
ブラック「行くぞ!ファイアブレス!」
ドゴァァ!
タコ怪物を激しい炎が包む。
タコ怪物「ぐ!属性変化!」
キュウビ「今だ!フウスイ魔法!ウォータースマッシュ!」
土塁の向こう側の川から水の柱が立ち上ると勢いよく水龍がタコ怪物の身体に直撃する。
タコ怪物「っ、アブねぇ!土属性にしといてよかったぜ!」
火属性の相生に当たる土属性でもある程度、炎を受けれるのか!?
ガルム「ソレなら!五行槍術!ヤドリ!」
ドカッ
今度の槍さばきは切っ先を振るうもので直線ではなく面で攻撃を受けタコ怪物の体は切り刻まれた。
タコ怪物「ぐ、そんな小手先の技ぁ!」
ガルム「ソイツはどうかな!」
ミシミシミシミシ……!
タコ怪物「おげげ!」
タコ怪物の触手はみるみる硬直していき、その体も木のように動かなくなった。
タコ怪物「うっ、うっ!動けない!」
ブラック「木なら燃やし尽くしてやる!プラズマキャノン!」
カァォン!
ドゴコォ!
タコ怪物「ぐわぁぁ!我らに栄光あれぇ!」
ボァァァァ……!
メラメラ……
タコ怪物は消し炭になって消えた。
マノンの家
ブラック「五行槍術、いつの間に覚えたんだ?」
ビャッコ「ガルムは筋がいいって言っただろ?」
にしても覚えるのが早い。
キッチンで元気になったマノンと一緒にニコニコしながら皿洗いしてる彼の姿からは想像ができない。
キュウビ「とりあえず、狛狐にはあのまま村長に付けとくけど、ブラック、ガルムの顔情報は差し替えた?」
ブラック「もうやってある。目撃した奴らの記憶からガルムの顔は普通の誰だかわからない人間の顔に変えておいた。」
めんどくせーが、やらないと騒ぎ出すからなぁ。焼き討ちとか、もっと面倒だし。
ブラック「なあ?キュウビ。ガルムの顔の記憶を曖昧にさせるアイテムとかないの?」
キュウビ「さぁ?今度、知り合いの魔女に聞いてみるわ。」
俺は魔女への見方が変わった。前は怖いだけだったが、今は居てくれると便利な専門家集団位に思っている。
ブラック『今度、教えてもらったダイヤモンドの錬金で換金して来よう。紙幣が手に入る。』
こうして、自分たちの成長を実感しつつ、着々と真犯人を追い詰めていくのだった。