俺とキュウビとマノン、ホームセンターへ行く
今日は街へ、ガーデニング系ホームセンターに来ていた。
俺とキュウビとマノンで。
キュウビ「はたから見たら、私たち親子に見えてるかしら?!もしかして!」(ムフー!ムフー!)
なんで興奮してんだ?
マノン「なんか、野菜でも育てるの?ママ。」
キュウビ「ううん?肥料を見に来たのよ~。」
ブラック『キュウビがママ……?』
2人は手を繋いで、店の肥料コーナーへとずんずん進む、のかと思ったら……
マノン「これ可愛い!コッチも!」
キュウビ「ねぇ、アナタ、これ欲しい!買って?!」
マノン「私のも買っていい?!」
広い店をくまなく回って、かわいいものを物色している。
ブラック『……肥料は?つか、“アナタ”って俺のことか?』
……しばらく店を回る。
まぁ、帰りの定期馬車まで3時間あるのだから急ぐこともないのか?
そして、俺の持つ買い物カゴが満杯になっていく……
キュウビ「あった、あった!これこれ!」
ブラック「肥料の王様 ジンガー……。」
マノン「袋が真っ赤でよく目立ってるね?」
キュウビ「さっ!レジに会計しに行くわよ!」
マノン「私、喉渇いた!」
キュウビ「じゃあ、これも追加ね!」
(ジュースパック2本)
ブラック「……」
(会計)
会計店員「合計で○万円になりまーす。」
ブラック『結構、買ったなぁ。…………ん?』
ジー
2人がこちらを見ている。
ブラック「………………俺が払うの?」
キュウビ「アナタ、会計お願いね?袋詰めも!」
マノン「ママー!お外のお花を見に行こーよー!」
えぇ……
会計店員 (ニコニコ)
ブラック「……あの、小銭でいいですか?」
帰りのバス
ブラック『結局、まる一日、仕事だった……。』
マノン「美味しかったね!ハンバーグ!」
マノンはお子様ランチの付属のおもちゃにご満悦な様子だ。お金のない父子家庭だったのだろう、宝物のように大事にしている。
キュウビ「たまには外食しないと!」
俺とキュウビも怪しまれないように、夕食にと入ったレストランで注文したけど、キュウビが食べる食べる。
小銭で会計する身にもなれ。
ブラック「で?この肥料どうするんだ?」
キュウビ「成分を調べてもらうの。」
ブラック「知り合いに、そんな神いたっけ?」
マノン「?」
キュウビ「違うわよ。魔女に頼むのよ。」
ブラック「えー!俺の天敵じゃん!」
キュウビ「何怖がってんのよ。大昔のことじゃない?」
マノン「ブラックは魔女が怖いの?」
怖い。どれだけの同胞があいつらに駆逐されたことか。
神代の時代
竜の楽園だったこの星は外来の神々とその尖兵の魔女たちによって多くの同胞が駆除された。
残った俺たちは見つからないように、それぞれ洞窟に隠れ住むようになった。
何億年経とうがあの時の恐怖が蘇る。
ブラック「よりにもよって、アイツラの力を借りようとは……」(ガタガタ)
キュウビ「今は神代じゃない。魔女たちもただの専門家の集団。襲ってこないわよ。」
マノン『ブラックにも怖いものがあるんだ……』
マノンの家
ガルム「おかえりなさいませ!ご主人様!」
リカントのガルムは今日はビャッコに家事を習っていたようだ。
マノン「ガルムー、遊んでー!」
ガルム「喜んでー!」
前から犬が欲しかったというマノンはよく、ガルムに懐いていた。
キュウビ「逆じゃない?ガルムがマノンに懐いてるのよ。」
そ、そうなのか……
ビャッコ「ガルムは物覚えも早いし、筋がいい。」
キュウビ「狼型亜人は誰かに従属してる時が一番幸せなのよね。その分、基本能力も上がる。」
マノン&ガルム キャッキャッ
ブラック『こうしてみると、まだまだ子供なんだよなぁ。』
悲痛な運命に遭いながらもこうして、マノンはたくましく育っている。
なんとか俺たちの手で元の生活を取り戻してやらねば。
さてと。
席を立ったキュウビは俺を指定した。
ブラック「ヤダ、行かない!」
キュウビ「まだ何も言ってないじゃない?!」
ビャッコ「またどっか行くのか?」
キュウビ「ちょっと、魔女のところまでね。」
ブラック「やっぱり!魔女のところじゃないか!」
キュウビ「お代がドラゴンの体液なんだから仕方ないでしょ?」
ブラック「よ、余計、行きたくないよー!」
マノン&ガルム「?」
いつの間にか意識を失っていた俺はケモノモードのキュウビに首根っこを咥えられて森の魔女の館まで連れて行かれてた。
キュウビ「これもマノンのためなんだから!」
ボン!
弾けでた煙が晴れるとキュウビは人間モードになっていた。
キュウビ『私たち2人の将来のため!』
ブラック「うー、魔女かぁ、やだなぁ……」
魔女の館
妖精「あ、キュウビさん!お待ちしてました!主がお待ちです!」
中に入ると、玄関ロビーの受付のようなところにいた、小さな妖精がフワフワと俺達のところまで飛んでくる。
キュウビ「ノーマンは?」
妖精「主はいつもの研究室においでです。」
そ。
そう言うとキュウビは中へと進んでいった。俺もはぐれないようについていく。魔女のテリトリーで迷子のドラゴンなんて即死だ。
キュウビ「ここね。」
コンコン
キュウビ「ノーマーン?入るわよ~!」
その部屋に入ると何やら細長い試験管に土のサンプルを少量入れて透明な液体をその中に流し込んでいる魔女が居た。クマで覆われた目がギョロリとこちらを見据える。
傍らの一斗缶には聞いたこともない名前が書かれている。
ブラック『アセトン?トルエン?』
ノーマン「やぁ!キュウビ!依頼の品は持ってきた?」
キュウビ「ノーマンにこれの成分を調べて欲しいの。」
ノーマン「肥料?パッケージの裏に成分票なら付いてるけど?」
キュウビ「そこにあるもの以外よ。」
ノーマン「…………ふーん。変なことに首突っ込んでるね。」
俺はその場からソロリソロリと後ずさった。
ノーマン「そういえば、キュウビ、お代は?」
ギクッ!
キュウビ「ドラゴンの体液だっけ?」
ノーマン「そうそう、800ml採血させて?」
キュウビ「ブラックー?」
そう言うと二人はこちらを向いた。
ひぇえ……
キュウビ「どの針使うの?」
ノーマン「ドラゴンの血管だから一番でかいのかな?」
や、やめてー!
ブラック「今は人だし。こ、ここじゃドラゴンモードは狭いし。一番細いのにしてよ……」(ソロソロ)
ドン
うぅ……!もう後がない!
キュウビ「覚悟を決めなさいブラック。男でしょ。」
ブラック「だ、男女平等……」
その後の記憶はない。気づいたらマノンの家で寝かされていた。
その日、俺は洞窟でいつものように寝ていた。
出入り口の方からお前は美しい4本の足で優雅に歩いてきた。何本もある尻尾が揺らめいていた。その神々しさから一目で神だと分かった。
世界樹すら守れない俺達ドラゴンじゃだめだと、星が作り出した新しい神。
ここには動物も外来種も来ない。物理的には来れないからだ。
あ、たまに上の穴から落ちてくるドジなやつはいる……
キュウビ「あ、ホントにいた。竜だ。」
俺「なんだお前?気づかれるだろ、どっか行けよ。」
キュウビ「もう、いつの話をしてんの?外はとっくに人の世なのに。」
俺「人の世?あんな貧弱な奴らの?他の外来種は?」
キュウビ「いなくなったり、幽世に行った……。現し世に残ってるのは皆、人間か亜人種さ。」
俺「ホントかよ。信じらんねぇ……」
キュウビ「嘘だと思うならついてきなよ。」
もし、アイツがあの時、来てなかったら俺はずっと自分の殻に閉じこもって巣にいた。
キュウビは俺に魂を燃やす大事なきっかけをくれた。
俺「コイツラが?」
平野で縦穴を掘って暮らす薄汚れた人間達。そこには確かに魔女も外来の神も居なかった。
キュウビ「すごいだろ?滅びた文明を一からやり直してるのさ。」
俺「コイツラ、ゴブリン生産牧場から逃げてきた奴ラ?」
キュウビ「もうとっくに牧場なんてなくなってるよ。管理してたトンガリ頭の奴らは絶滅したんだから。」
俺「マジでいねーのな外来種。ところで、お前は何?新しく生まれた神なのは違いないけど、種類名とかあるんだろ?」
キュウビ「私はキュウビ。よろしくね。ブラック。」
ブラック?
俺「俺がブラックドラゴンだからブラックか!なるほど!個体識別名称に使うかな!」
外に連れ出してくれて、名前をもらって、それからもキュウビは事あるごとに顔を出してくれた。
パチリ
ブラック「……夢か。古い夢だったなぁ。」
愛おしい。
ガルム「大変です!お嬢様が起きません!」
エプロン姿、他にもちゃんと服を着た狼型亜人種リカントのガルムが、
俺が寝かされていたリビングのソファに飛んできた。
ブラック「マノンが?」
マノンの寝室に行くとそこにはすでにキュウビとビャッコが居た。
キュウビ「ソロソロ仕掛けてくるだろうと思ってたのよ。」
ビャッコ「呪いか?」
マノンは冷や汗をかいてベッドで苦しそうに唸っている。
キュウビ「悪夢の類かしら?夢から連れ返さないと、このままじゃ廃人になっちゃうかも。」
ガルム「お願い致します!どうか、お嬢様をお助けください!
俺にようやくできた、ご主人様なんです!神様がた!」
キュウビ「ブラックとビャッコが行って、私はここからサポートする。」
ブラック「子供の夢といやぁ、行くとこは幽世の遊園地だろ?十中八九。」
ビャッコ「行き方は知ってる。案内は任せろ!」
キュウビ「それじゃ!行くよ!」