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ウォーウルフ 〜キュウビの○○○〜

月夜


満月に照らされた麦畑が風で黄金色になびいている。

遠くに川に沿って着々とできる土塁があり、その向こうには街の灯りが見えている。


ブラック「見ない間にだいぶ変わるなぁ、人の世は。」


キュウビ「あ、いたいた、昼寝のし過ぎなのよ、ブラックは。」


マノンの家からキュウビが来る。俺のいる農道の柵まで。

暖かな夜風にピンク髪が吹かれている。風呂上がりなのか彼女はほんのり、いい匂いがした。


ブラック「マノンとかは?」


キュウビ「マノンはもう寝ちゃった。私もあぁ言う子が欲しいなぁ!」『ビャッコは昼間の鮎でナメロウ作って晩酌。』


ブラック「そうなの?」ふーん。


キュウビ「ブラックが私のことを女だと思ってなかったのはわかったけど、今はどうなの?」


どうって……


ブラック「綺麗なんじゃないか?人間モードのキュウビは。」


キュウビ『ほんと?!』


心の声がもれてるが、喜んでいるのだろう。


ブラック「俺的にはケモノモードも好きだぞ?」『ソッチのほうが付き合い長いしな。』


キュウビ「それじゃ、ブラックは私が女だって気づかなかったじゃないのさ。」


二人して苦笑する。


俺がドラゴンでキュウビはケモノモードだった時もこうして、2人で気持ちのいい夜風に吹かれてた事があったなぁ。


キュウビ「ねぇ?」


ブラック「なに?」


キュウビが近い。肩が触れ合う。


キュウビ「この一件が終わったら、ブラックは、どうするの?」


ブラック「そうだなぁ……また巣に戻って寝て過ごすんじゃないか?」


キュウビ「じゃ、じゃあさ!?わわ、私と一緒に街に行かない?探偵事務所を開いて、2人で幽世かくりよ事件を解決して回るの!?よくない!?」


少し、上ずった調子でキュウビがまくし立てる。こんなヤツだったか?


ブラック「それもありだなぁ。寝て過ごすより有意義で面白そうだ!」


やったやったとキュウビは飛び跳ねて喜んでいる。


キュウビ「やくそく!」


スッ


小指?俺もやるのか。


それぞれの小指と小指をシッカリ組む。


キュウビ「ゆびきりげんまん♪嘘ついたら、針千本ノ〜マス!」


うふふふ!楽しみ!


そう言ってキュウビは名残惜しそうに小指を解いた。


え?最後の何?怖いんだけど……


ブラック「ソロソロ中には入ろう。湯冷めしてしまう。」


キュウビ「えぇ。」


その日はどこらからオオカミの遠吠えが風に乗って聞こえた。





「巫女様ー!」

「カミナ様ー!」


血相を変え村人たちが家の玄関に集まる。


キュウビ「何?朝っぱらから。」


ブラック「なんだ?」


俺達が連れて行かれた村の公民館。朝っぱらからなんだってんだ。

マノンはまだ眠いのかボーっとしている。


「たぶん、動物の仕業だべ!」

「おちおち薪も拾いに行きゃできねー。」


森の中で誰かの遺体が見つかったのだ。


皆が恐怖に青ざめる中、隣村から遺体を確認してきた駐在さんがやってきた。


村長「で、おまわりさん。死体は……?」


駐在さん「今朝見つかった遺体ほとけさんの損壊状況から見てクマのような野生動物の犯行です。」


ザワザワ


てことは、食われてたってことかな?俺達はこの案件をどうするか、心で会話を始めた。


ブラック『キュウビ、コレ失踪事件と関係あるかな?』


キュウビ『ないと思うけど。』


ビャッコ『皆困ってる、俺等で解決してやろう。』


まぁ、そのほうがいいか。


散々、俺に迷惑をかけて、マノン一家をどん底に突き落とした奴らだけれども……


ブラック『龍の巫女カミナの権威付けだな。』


キュウビ『何かもらえるかも?お酒とか!』


ビャッコ『お前らなぁ……』


マノン「私が解決して差し上げましょう。」(棒読み)


そこに集まっていた村人達はホッとそれまでの緊張が和らいだ。


「さすがカミナ様じゃ。」

「率先してワシらを救済しようとしてくださる。」


「こんな小せえのに、それに比べてうちの領主様ときたら。」


それから村人達は口々に今の領主の悪口、陰口を言い始めた。


「ケチで泥くせー。」

「肥料しかくださらねえ。」

「とんだ、ウ○コ野郎だべ!」


村長「これ!よさぬか!」


俺は何か引っかかって。そこにいた村人達に質問した。


ブラック「肥料?領主は肥料を作ってるのか?」


キュウビ「領主なのに?よくそんな3kな仕事してるわね?」


「領主様は落ち葉や糞尿集めて肥料作って商いをされてますだ。神官様。」


どうりで土臭いと思った。そして、この前の肥料を満載した荷馬車から立ち上る匂いの中に見たゴースト達。


ブラック『“起こした土にはたま宿る。”そんなのが古い歌詞にあったな。』


キュウビ『それ、私が昔、教えてあげた歌じゃない?よく、覚えてたわね。』


そりゃ、俺は忘れっぽいけども……


ビャッコ『それがどうかしたのか?』


ブラック『いや?普通、そういった奴らのゴーストは嬉しそうにしてるもんだけど、あの肥料には険しい顔をしたやつがいたんだ。』


キュウビ『ふーん。臭かったんじゃない?』


ビャッコ『まぁ、そういったのは置いといて。今はケモノ退治だな。』




のっし、のっし……


森の中をドラゴンの俺が歩く。

普通のケモノは気配や落ち葉を踏みしめる音で察知して逃げる。


キュウビ「ブラック、もういいんじゃない?」


それじゃ。


ミニョーン


神官風の人間モードになる。

なるというか、この頃は“戻る”といったほうがしっくりくるかもしれない。


ビャッコ「小さな龍の巫女が呼び寄せたブラックドラゴンを従えてケモノ退治に森に入る、か。」


キュウビ「細かいパフォーマンスは権威付けに必要よ!」


何も知らないやつからしたら、小さな少女を担いでる、怪しいおっさん達でしかないだろうし。

カルト教団的な?


キュウビ「よし、こっからはこの子だけで行くよ。ブラック、ビャッコ、できるでしょ?憑依。」


ブラック&ビャッコ「まあな。」


俺たち三人は空鬼クウキに身体変えて、マノンに肩に取り憑いた。


マノン「なんか寒いし、重いよぉ。」


ブラック「キュウビ、冷鬼レイキじゃなくて暖鬼ダンキにしとけ。』


キュウビ「あー、そっか。ごめん、ごめん。」


ビャッコ「これでちょっと重いくらいだろ?」


マノン「うん!」


キュウビ「安心しな、マノンはうちらが守ってやるから。」


3人の暖気に包まれてマノンは昼間でも暗い森の中を進む。


マノン「怖くない、怖くない……」『ブラックより、怖いのも、強いのもいないもん!』


……怖いは余計だ。


しばらく進む。


(カサッ)


キュウビ『!聞こえた?!』


ブラック『あぁ!』


ビャッコ『これは、ウォーウルフだな。』


マノンの足音に混じって、遠くからマノンについてくる足音が数十。この数はクマじゃない。そして、オオカミの小さい足が地面を踏む音でもない。


タタッ!

ガササッ!


キュウビ「来た!」


俺達はマノンから憑依を解いて、向かってくるケモノ達の前に立ち塞がった。


ビャッコ「先手必勝!麒麟刃きりんじん!」


ズバッ!

ドッゴォォ……!


大太刀から繰り出される無属性の光りの刃が大地を大きく割る。

刃に巻き込まれて狼型亜人の亜種、ウォーウルフが粉々になる。


ブラック「プラズマキャノン!」


カァォン!

ドゴォン……!


ファイアブレスの上位互換。プラズマ化した極太のレーザーを胸の前に掲げた両手で放つ。当たった木々が瞬時に消し炭になる。


キュウビ「臨兵闘者皆陣烈在前!木杭デンドロンステーク!」


ズドドドド……!


周囲の木々から勢いよく木の杭が射出され、残っていたウォーウルフ達を串刺しにする。


マノン『皆、強すぎる!』


俺等、神だし。


シーン……


凄惨な光景にビャッコがマノンの目を手で塞ぐ。俺はその中を進んで生き残りがいないか確かめた。


キュウビ「気をつけなよ!?」


ブラック『打ち漏らしはないかな?村の奴らにはコイツラの首を持って帰ればいいか?』


転がるたくさんの死体の中、その場で丸くなって縮こまっている狼型亜人を見つける。


ブラック「あ、生き残りだ。」


亜人「ひぃぃ!殺さないで!」


キュウビ「おや?その個体は話せるのかい?」


ビャッコ「?ソイツはほんとにウォーウルフか?」


ウォーウルフは犬種に例えるとピットブル。

凶暴で人の言葉を喋らない。群れのリーダーには賢い個体が選ばれるとは聞いてたが……


亜人「お、俺はリカントです。群れのリーダーやってました。ガルムってもんです。」


ガルムと名乗る亜人は顔を上げた。


ガルム「人が大多数になって、俺らは行き場を失って、食うに困って仕方なくやってました。お願いです。神様、助けてください!」


そういえば、昔は人に混じって猫の亜人やイヌ科の亜人もよく見かけていたが、今の村には一人もいないなぁ。


ブラック「生きてても、辛いだけだろ?」


ガルム「なっなんでもします!助けてください!命だけは!」


土下座をして懇願する亜人をどうしようかと俺はキュウビやビャッコ達を見た。


ビャッコ「ソイツは俺があづかろう。」


ブラック「どうするんだ?」


ビャッコ「桃源郷に連れていく。サイのロウエキにオオカミはもってこいだからな。」


桃源郷。東方にあるとされる仙人たちが暮らす理想郷。


その賽(境界)を守る労働力、従事者、守り人。

それにはオオカミが使われているとか。


こうして、村の危険を祓った俺達は人々から信頼を集め、益々、株が上がった。


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