親子の面会
その日、マノンとキュウビは昼間、村の道端で村長をつかまえて話をしていた。
ブラック「どこに行ったかと思ったらこんなとこにいた。」
キュウビ「アンタは昼寝してたからね。気持ちよさそうに。」
マノン「起こしちゃ、可哀想かなと……」
書き置きぐらいしていけ。まったく、起きたら誰もいないから心配したぞ。
横を肥料を満載した荷馬車が通っていく。俺たちは道の端に寄った。嫌な匂いにキュウビのやつが鼻を押さえている。
村長「して、ジャックスに会いに行くのですか?巫女様。」
マノン「うん。、は、はい!」
キュウビ「巫女様が失踪事件も解決に手をかそうって言ってらっしゃるのよ。」
村長「はぁ、しかし、アヤツの事件は失踪事件とは無関係なのでは?」
ブラック「そうなのか?」
村長「詳しいことはブルメリオ警部に聞いてくだされ。ワシラじゃ話が難しゅうて……」
キュウビ「ソイツが失踪事件の担当かい?」
村長「はい、ジャックスの件もその警部さんの担当でして。」
マノンの家
キュウビ「ちょっと、失踪事件とこの子の親の事件は違うってどういう事?」
マノン「そんなはずない。領主様が他の失踪事件もお父さんの仕業だろうって。」
ハッとして俺とキュウビは顔を見合わせた。
ブラック「これはもしや。」
キュウビ「マノンの親御さんをはめようって奴がいるわね。」
朝から素振りの練習と言って何処かへ行っていたビャッコも帰ってくるなり話に参加した。
ビャッコ「わざと犯人に仕立て上げて、失踪事件もなすりつけようってことか?」
ブラック「とりあえず、街に行ってみよう。」
キュウビ「そうね。」
ビャッコ「俺は近隣の村で聞き込みをしてみる。」
マノン「街はここから定期馬車で30分くらいのところだよ。」
マノンはいつの間にか首から雫の形をしたピンクの天然石をかけていた。
ブラック「マノン、それは?お母さんのか?」
マノン「ううん?違うよ。」
キュウビ「昨日の金貨の中から出てきたんだ。」
金貨から?燃やして、再錬金して、無傷だと?
キュウビ「きっとこれは魔封のペンダントだね。」
なるほど。
ビャッコ「今度、ヌクレイア放って強度を確かめてみよう。」
キュウビ「やめときなよ!いくらなんでもアレは無理だ。受けきれないよ。」
マノン「早くしないとバス来ちゃうよ!?」
ブラック「次のは?」
マノン「3時間後。」
キュウビ「もう、ブラックに乗せてってもらったら?」
マノン「何言われるかわからないもん。」
あ、そうか。討伐されっかな?なんもしてないけど、人食いと勘違いされてるくらいだし。
ビャッコ「大きな街にドラゴンなんて出てきたら一大事って思われるぞ。」
キュウビ「怪獣映画かな?」
ブラック「なにそれ?」
マノン「早く行こ!」
街 中央通り
俺たちはバスを降りると騎士団詰所兼警察署へ向かった。街のパトロールを終えて、馬から降りて手綱を引く騎士たちとともに石造りの門をくぐる。
受付嬢「ブルメリオ警部ですか?」
キュウビ「村の失踪事件の解決に巫女様が協力してくださるんだ、早くおしよ。」
いきなり、龍の巫女カミナを名乗る少女と怪しい神官とピンク髪の花魁が訪ねてきたら、そりゃ警戒はされるよな。
ブルメリオ「私に何か御用ですか?」
カウンターを挟んで受付嬢の後ろの扉のない部屋から中年のキリッとした警部が一人でできた。首から、顔写真付きのネームプレートをかけている。
キュウビ『うわ、タバコくさっ!』
ブラック「……失踪事件とジャックス氏の殺人事件の事について巫女様が聞きたいとおっしゃられてます。」
ブルメリオ「ほほぉ、それは心強い。この出会いに神に感謝します。」
ブラック「……」
キュウビ『社交辞令だろ?』
そういうもんか。
この人は、余り神とかを信じてはいない。現実主義者の感じがする。
俺たちは応接室に通されソファにマノンを左右から挟むように座った。俺は右、キュウビは左。
しばらく待っていると警部は分厚い事件ファイルとほっそいファイルを持ってきた。
ブルメリオ「確かにあれら事件は手口に違いがありすぎて、我々も別件扱いで捜査してます。領主様は同一犯だと主張してますがね。」
俺は細いのをキュウビは太いファイルをそれぞれに目を通した。まぁ、捜査機密に関しての記載は別のファイルにあるんだろうが。
ブラック「コッチがジャックス氏の殺人事件ファイルですか。」
ブルメリオ「決め手は遺体の近くに落ちてた犯人の所持品でした。彼は今、ここの留置所にいます。後で面会なさいますか?」
マノン「ぜ、ぜひ!」
キュウビ「結構な被害者がいるのに、その後の足取りも、死体も上がってないのかい?」
ブルメリオ「はい。手がかり0です。犯人候補はいますがどれも決め手がなく。まぁ、ジャックス氏を捕まえたらピタッと止まったので、彼を犯人ってしたい連中もいます。」
ブラック「なるほど。」『キュウビはどう思う?』
キュウビ『まぁ、状況からして白に近い黒ってとこかしら?犯人としてはマノンの父親をさっさと処理して、続きを始めたいんじゃない?』
ブラック『とりあえず、マノンの父親を解放しよう。』
キュウビ『そうね、そっちに手がかりがあるかも?』
面会室
ジャックス「巫女様ってアナタですか?」
キュウビ「私じゃないわよ。この子よ。」
ジャックスは娘と机をはんで向かい合って座っている。その目はくぼんでうつろだ。連日の取り調べのせいだろうか?それともここの飯が足りてないのか、マズイのだろうか?
マノン「お、」(むぐぐ)
咄嗟にキュウビがマノンの口を塞ぐ。
キュウビ「お、お前さんは失踪事件の事知ってる?」
ジャックス「俺が知ってるのはこの地域で女子供が度々、失踪してるくらいです。」
ブラック『事件ファイルを見たキュウビの方が詳しいだろ?』
キュウビ『まあね、みんな身持ちの固い娘ばっかり、子供も含めて全員、捜索願が出されてた。』
ブラック「あの村での失踪者は?」
ジャックス「ロビーってやつの娘さんが。今年15歳になったばかりでした。みんなで山や貯水池探したけど見つかりませんで……」
マノン「何があっても、失踪事件の自白に乗ってはいけませんよ。」(棒読み)
キュウビに操作されてるであろうマノンの瞳からポロポロと涙がこぼれている。
ブラック『おい!』
キュウビ『私じゃないわよ!』
ジャックス「……ありがとうございます。巫女様。」
ジャックスもそれにつられてもらい泣きをしだした。
マノンはテーブルの上にある細く節ばった父親の手をそっとつかんでいた。
マノンの家
ビャッコ「他の村にも聞き込みに行ってきたぞ。犯行は夜だそうだ。」
キュウビ「それは事件ファイルにも載ってた。」
ブラック「どうやって失踪するんだ?」
キュウビ「朝起きたらいないんですって。」
ビャッコ「ソレなら気になることを聞いたぞ?娘が寝付いたのを確かめてから、寝て、朝起きたらいなくなってたそうだ。」
?
ブラック「つまり、被害者は夜寝てたのに朝にはいなくなってたってことか?」
ビャッコ「戸締まりはしてたが、ドアは空いてたとか。」
キュウビ「そりゃおかしいね。明日、被害者の家に行ってみよう。」
ビャッコ「最新のとこだな?案内してやる。」
被害者宅
「お願げーします。娘を助けてくだせぇ。」
あまり食が喉を通らないのだろう。両親は痩せ細っている。その声も涙で震えている。
マノン「娘さんの部屋に入らせてもらいます。」
ガチャ
キュウビ「やっぱりいた!」
娘のベッドには小さな小鬼がいた。キュウビがすぐさま捕らえる。
マノン「その手に何かいるの?」
人間には見えないか、見えても薄くぼやけて見えるくらいだろう。俺らのように幽世に片足突っ込んでるやつにしかハッキリ見えないだろう。
キュウビ「コイツは夢魔の類だね。」
夢魔「グギギギッ」
ブラック「どういうことだ?」
ビャッコ「夢魔と何か関係あるのか?コイツラは悪夢を見せるだけだろう?」
キュウビ「コイツラを使役して夢の中で催眠術をかけて連れ出すのさ、サキュバスの手口だよ。」
ブラック「男の子ならともかく、被害者は皆、女ばかりだろ?」
ビャッコ「サキュバスじゃないなら、インプか?」
キュウビ「こりゃ、幽世案件っぽいね。」
夢魔を持ったままマノンの家に戻る。
ブラック「聞き取り調査でもやるのか?」
キュウビ「できないわよ。コイツら夢以外では言葉をしゃべらないし。」
じゃあ、どうするんだ?と質問する前にキュウビが握っている夢魔が奇声を発し始めた。
夢魔「うげっ、おぶぶぶ、おめけえぇ……!」
そして、
バチッ
と、音がして夢魔は白目をむいて頭を下げて動かなくなった。口からはよだれを垂らしている。
キュウビ「ち、記憶を追跡してたら誰かに脳を焼かれた。」
ポイッ
キュウビ「でも、裏は取れた。やっぱり催眠術で被害者を連れ出してたんだ。」
ブラック「夢魔を使役してたやつかな?脳を焼いたのは?」
キュウビ「十中八九そうでしょうね。」
ビャッコ「そしたら、こちらのこともバレたぞ!」
失踪事件の犯人に覗かれている。気味の悪い感覚に俺たちは戦慄した。




