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キュウビと龍の巫女カミナ

マノンの家


コンコン


マノン「朝早くに誰だろう?はーい!」


パンを切り分ける手を止めてマノンは外に出た。


マノン「え?ど、どちら様?」


そこには東洋の服を着崩した長いピンク髪の美しい女性が立っていた。胸よりも腰のほうが大きかった。

花魁というやつだろうか?紅白の桃の花をあしらった着物が朝日に光って見えた。


おっきな腰の女性「お嬢ちゃん、この辺で、ドラゴン見なかったかい?」


マノン「ドラゴン?」(チラッ)


そこにいた女性は明らかに俺を探していた。その彼女から微かに旧友の匂いがする。


ブラック「キュウビ?」


キュウビ「あ、いたいた。探したよブラック。」


ブラック「お前、女だったの?」


キュウビ「アンタが人の格好で来いって書いたんだろ?失礼しちゃう!」


あ、そうでした。いつもドラゴンと9本の長い尻尾の大狐の姿だから分からなかった。


ブラック「とりあえず、中で話そう。」


俺はキュウビを席につくよう促した。席に着くなりキュウビはまた変なことに首を突っ込んでるのかと質問してきた。


キュウビ「今度のは、この小さい子のなの?呆れた!」


ブラック「ひ、ひまつぶしさ!いいじゃないか?!」


マノン(チラチラ)


キュウビ「?大人の女が珍しいの?」


キュウビはオッパイをチラチラ見てくるマノンに尋ねた。


マノン「お、お母さん居たらこんなのかな?って。エヘヘ!」


キュウビ「この子、片親?」


俺はマノンと出会った経緯などを説明した。


キュウビ「ふーん。なるほどね。また、入り組んだ事に自分から巻き込まれに行ったのね。」


ブラック「面白そうだろ?」


キュウビ「人が良すぎなのよ。」(ウズウズ)


ブラック「もしよかったら、キュウビも手を貸してくれない?」


キュウビ「私も暇だしやろうかな?」


マノン「犯人探し手伝ってくれるの?!やった!」


キュウビ「……この子、アルトとかいう奴の親戚?なんか似てるわね。」


ブラック「そう思う?」


マノン「英雄アルト?公園に来た紙芝居屋のおじちゃんの?」


キュウビ「?あーもう、だいぶ前の話だったわね。」


ブラック「人世の移り変わりは激しいよ。」


マノン(モグモグ)


俺とキュウビはマノンがパンを食べるのをジーッと見ていた。


マノン『は、恥ずかしいよう……』


う、そうだよな……


キュウビ「この子の電脳シールが甘いわね。心の声がダダ漏れじゃない。やっぱりあの助平アルトの親戚よ。」


マノン「?」


ブラック「こ、こっちの話だ!」『こら、キュウビ!人に脳の話をするな!』


キュウビ『いいじゃない?バレナイわよ。』


人の脳には型式がある。


古い魂の人間だと俺たちみたいに心で会話できる。最新式の人間はちゃんと保護されていて心の声は外に漏れない。


ブラック『相互通信しないから今の奴らにはマノンの声は聞こえてないと思うが。迂闊だぞ!』


キュウビ「そんなことよりさぁ、この子の食べるのってパンだけなの?」


あ、そう言えば。


マノン「お金ないから……」


キュウビ「だって?出番よ?ブラック。」


ブラック『うぅ、俺かぁ、そうだよなぁ。エサを取ってくるのは主に男の仕事だ。』


キュウビ『それ、原始人の思考よ?アナタ。』


お前のも似たようなもんだろ。


ブラック「肉野菜いる?」


マノン「欲しい!」


ちょっと待ってろ。


そう言うと、俺は外に出て木の葉を何枚か取るとポケットに入れて市場に向かった。


そこで人々の商いの様子を観察する。


ブラック『今の貨幣はあんなのか。』


八百屋「そこの神官様よ、これなんてどうだい?旬で安くなってるよ?」


ブラック「へぇ。じゃぁ、それ一つください。」


八百屋「まいど!百円だよ!」


ポケットの中で錬金した木の葉を渡す。


八百屋「へへ!まいどあり!」


キュウビの変化とは違ってちゃんと成分まで変換してあるから。


ブラック『大丈夫なはず。』


人間は金にうるさいからなぁ。法がどうのこうのと、キーキーうるさくなった。


ブラック『物々交換してた昔が懐かしい。』


それから、俺は市場を回って新鮮なものを買って回った。




ブラック「ただいま~。」


マノン&キュウビ「あ、おかえりー!」


ん?見ない間に打ち解けたのか?速いな。女性同士だからか?


昔から共感会話が好きな女性同士は打ち解けるのが速い。心の声の相互通信ができなくなった今ではグループごとにいがみ合いとかが起こるとか。


ブラック『まぁ、そのへんの人の話はキュウビの方が詳しかろう。』「ほらよ。エサ。」


マノン「うわ〜!いっぱい!ありがとう、ブラック!」


早速、マノンは台所でエサを料理し始めた。


キュウビ「私も手伝うわ!」


キャッキャッと女性陣は楽しそうに料理をしている。


ブラック『そこは昔と変わってないんだよなぁ。』


キュウビ「ところで、ブラック。アナタ、水害はそのままにするの?」


ブラック「ん?どういう事?」


キュウビ「ほっといたら、いつまでたっても生贄の子が穴に放り込まれるわよ?」


あー、確かに。


寝る場所もアソコにしないと、ぐちゃぐちゃになるんだよな人間って脆いから。きたねーんだよ。掃除が大変だ。


ブラック「けど、どうやるんだ?」


キュウビ「人世ひとよ研究家の私に任せなさい!」


マノン「?」




のっし、のっし……


ドラゴンの姿に戻った俺は岩山に来た。


ブラック「あったあった。ここは(数千年)前の火山噴火でデケー岩が降り注いでたからな。」


巨大な岩を両手で持って飛び上がる。


バッサバッサ……!


眼下には水害の多い蛇行した川が流れている。増水した個所の畑が水浸しになっていた。


ブラック『葉野菜は全滅かなぁ?』


水害にあった畑にキュウビとマノンを見つけて近くに降り立つ。


ブラック「言う通り、持ってきたぞ?」


キュウビ「オッケー、オッケー。そこに置いて?」


指定された箇所に岩を置く。川のほとり


ドスッ


ブラック「ふいー。」


キュウビ「その調子でジャンジャン持ってきて?」


ブラック「えー!重いんだぞ??!往復しろってか?!」


キュウビ「男が文句言わない!はい、やる!」


マノン「頑張れ!ブラック!」


川に沿って大きな岩を運んでは並べる。何往復も、何往復も。


当然、その様子を近隣の村の人々に見られるわけで……。


「なんじゃ、なんじゃ?」

「こ、黒龍様じゃ!」

「何が始まったんじゃ?!」


集まった民衆の中の感のいいやつが叫ぶ。


「オラ、これ知ってる!土塁ってやつじゃねぇ?!」


「そ、そう言われてみれば!」

「土塁の基礎か!?」

「ま、まさか?!水害を起こしてた龍神様本人が?!」


お、俺じゃね~し!


キュウビ「何、ぼさっと突っ立ってんだい!お前たちも手伝うんだよ!」


「うえ?!」

「俺たちも?!」


キュウビ「岩に土をかぶせて、固めるんだ!さっさとおしよ!」


「へっへい!」

「わかりやした!」


集まった村人たちが土を運んでどんどん岩の周りにかぶせていき、埋めていく。


その様子を何事かと領主の貴族が見物しに来た。


領主「おい!何をしている!」


「こりゃ、ジンガー様!」

「へぃ!土塁を作ってごぜぇます!」


領主は岩を運び終えたドラゴンとキュウビとマノンに気がついた。


ジンガー「う、う!コイツラが岩を運んだのか?!」


その声に作業をしていた一同からも注目が集まる。


ジンガー「お前たちは一体何者なのか?!」


キュウビ「耳の穴かっぽじって、よーく、お聞き!この子こそ、黒龍を操る巫女、カミナ様だよ!」


ブラック『マノン。喋らなくていいぞ、キュウビに任せとけ。』(ヒソヒソ)


マノン「う、うん!」


「へ、へへぇ!」

「ありがたや、ありがたや!」

「おら達を救ってくださって、ありがとうごぜぇます巫女様!」


領主のジンガーは面白くなかった。自分の権威を脅かす存在が現れたからだ。


ジンガー『前々から要望があった土塁工事、金がかかるからと渋っていたら先を越されただと?!』


キュウビ ピクッ


ブラック『おい、こいつもだぞ?』


キュウビ『分かってるよ。』「後はお前たちの仕事だ!しっかり続けな!」


「へい!姐さん!」


キュウビ『ブラックは巣に戻ったふりをしろ。』


ブラック『りょーかい。』


マノン「龍神様。ありがとうございました。気をつけてお帰りください。」(棒読み)


ブラック『お、おいキュウビ!やりすぎだぞ!』


キュウビ『わかりゃしないよ。早く行きな。家で落ち合おう。』


だ、大丈夫かな?




巣に戻ったふりをしてマノンの家に着くと人だかりができていた。人の姿、神官風、権威の象徴みたいなものだから平民には話を通しやすい。


「あ、神官様じゃ!」

「巫女様の噂を聞きつけてらっしゃった!」

「ありがてぇ、ありがてぇ!」


ブラック「ち、ちょっと、通してもらえるかな。」


人々を押しのけて家に入るとリビングのテーブルに座って、キュウビが村長達と話している最中だった。


村長「で、では今後はもう、生贄はいらんのですか?」


キュウビ「そうそう、その代わりにカミナ様の家にお酒を毎年納めるんだ。いいね?」


「それだけでいいのか?!」

「領主様に納める葡萄酒を少し減らすだけだ。わかりゃしねえ。」


キュウビ「たるで1つだよ!」(よだれ)


おい。


「わかりやした!」




こうして、

近隣の村々は今後、水害に悩まされることはなくなるだろう。俺への迷惑行為もなくなる。

そして、忌み子、犯罪者の子として生贄にされたマノンは一躍、龍の巫女カミナとして崇められる存在となった。

……ちゃっかり、キュウビのやつは毎年酒をもらえるようにしてたし。


全者が利益を得たのだった。


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