2 世界を変える恋
春、新学期、自己紹介をできなかった神谷幸次は友達のいないまま、5月のGWを迎えようとしていた。
そんなとき、幸次を呼ぶ少女の声がクラスに響いた。
彼女は黒井花那と言い、美しい黒髪をなびかせた少し浮世離れした少女だった。
ゴールデンウイークから始まるボーイミーツガール、二人の出会いから世界が変わる恋が始まる……
「世界を変える?」幸次は首をかしげるしかなかった。正直何を言っているのかよくわからない。
「そう、世界を変えるの!」少女―黒井花那はそう屈託なく言った。
いったい全体どういうことなのか、幸次には全くわからなかった。
何が世界なのか、どうして変えるのか、そもそもなんで自分なのか、というか世界を変えるとはなんだ。
「おかしいですわね。男の人はこういうのが好きなのだと読んだのですが……、幸次様はしっくりきていないようですわね」
「そりゃね、意味が分からないよ」当然とばかりに幸次は答えた。
「恋をすれば世界が変わるのですよね。でしたら、私と恋をすれば世界が変わると思ったのですけど…………。」
おかしいですわね。と言いながら花那は一冊の本をカバンからおもむろに取り出す。
本のタイトルは「恋をはじめる人のための本―中二病編―」と書いてある。
その本はだめだと思う。という言葉を飲み込んで、幸次は話を促す。
「こいってあの恋?」
他にどの「こい」があるというんだと思いつつも、聞かなかったことにはできなかった。
「はい、恋です。恋愛関係と言い換えてもいいですわね」
少しずつ幸次にも話が見えてきた。
どうやら、この美少女—黒井花那といったか―は、自分と恋愛関係にならないかということらしい。それで「恋をすれば世界が変わる」という言葉につられて、もしくは乗せられて、「世界を変えよう」などという発言に至ったのだろう。
つまりは……恋されているらしい。この美少女に。そこまで思い至り、幸次はまた少し混乱する。
「君と僕とは初めて会ったよね、それで恋だなんだというのは少し無理がないかな」
そう、幸次はこの子と出会った記憶がない。
こんな美少女のことを忘れるとは思えないし、ましてや恋愛感情のようなものを向けられていて、気にならないはずがない。
初めて会った相手に恋愛感情を向けられて、もちろん悪い気はしないが、はいそうですか。
といえるほど幸次は思い切りがいい人間ではない。
「そう……、そうですわね……、その通りですわ」先ほどまでの勢いはなりを潜め、花那は静かに首肯した。
その表情は少し憂いを帯びたが、それさえも儚げな美しさに感じられる。
その美しさに目を奪われて、幸次は花那の言葉に気が付かなかった。
「覚えていらっしゃらないのですね」と小声でささやくように言ったその言葉に。
「では、こうしましょう!」打って変わって花那がひと際明るい声になる。
「どうするの?」
「デートというものをしましょう。その中でお互いのことを知り、世界を変えるような恋をするのですわ!」
「あ、えと……」うろたえる幸次に対して、花那は話を進めていく。
「幸次様、次の日曜日はいかがですか、空いておられますか。あ、空いていらっしゃるのですね。素晴らしいですわ。私は何か予定があった気もいたしますが、問題ないですわ。取りやめていただきます。ちなみに幸次様は何がお好きですが、イタリアンですか、和食ですか、それともフレンチや中華ですか。ああ、お気になさらず、すべて味は保証いたしますし、幸次様が悩まれることはありませんわ、ああ、それと、何をすればいいのかしら、ええとこの本によると初めてのデートは………………」
「ちょっと待って!」幸次が語気を強めて花那に待ったをかけた。
まくしたてる勢いでデートの日付と内容を考え出し、幸次はあっけにとられていたが、花那があの参考にならなそうな本を取り出したので、そのタイミングで話を切る。
どうやら、この子は突っ走りがちな傾向があるな、とヒートアップし始めた花那に対して、幸次は妙に冷静になっていた。
たぶんこの子のペースに巻き込まれたらダメなんだろうなと本能的に察知する。
「わかった。デートしよう。僕も初めてのデートで何をすればいいかわからないけど」
もう遅いのかもしれないと思いつつ、主導権を取るように幸次は話の口火を切る。
「次の日曜日お昼前に集まって一緒にお昼ご飯を食べよう、お昼ご飯は手軽にファミレスに行こう、でそのあと映画を見る、そのあと併設のショッピングモールに行って、ウインドウショッピングでどうかな!」
ゴールデンウィークに彼女が出来たらしようと考えていた渾身のデートプランを幸次は披露する。
ひそかに計画は練っていたからか、すらすらと言葉にできた。
「素敵です!初めてのことだらけで、ほんとに世界が変わったみたいですわ」
幸次にとっては、高校生らしいごく一般的な(だけど渾身の)デートプランのつもりだったが、どうやら花那にとっては、世界が変わるほどのものらしい。
ところどころ浮世離れしている感じとか、発言から察するに、たぶんかなりのお嬢様なのだろうなとは思う。
だとすると、やっぱりどうして、そんな子の世界が変わるほどの恋をさせているらしいことが分からなくなる。
「わかった。じゃあ、次の日曜日に駅前に11時でいいかな」
「はい、はい、もちろんです」
花那は頬を上気させて、首を縦に振る。
凛として姿であったり、少し暴走しやすかったり、くるくると表情がよく変わる姿を、幸次は素直に好ましく思った。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
つれづれにノートパソコンの端に書き溜めていたものを出すことにしました。
書き終わっていない作品なのですが、今後も少しずつ書き出していければいいなと思いますので、長い目で見ていただければいいなと思いますトリ。
誤字報告やコメントなどいただけると嬉しいです!




