1 ファーストインプレッション
春、新学期、自己紹介をできなかった神谷幸次は友達のいないまま、5月のGWを迎えようとしていた。
そんなとき、幸次を呼ぶ少女の声がクラスに響いた。
彼女は黒井花那と言い、美しい黒髪をなびかせた少し浮世離れした少女だった。
ゴールデンウイークから始まるボーイミーツガール、二人の出会いから世界が変わる恋が始まる……
ゴールデンウイーク前最後の平日。
1年3組の教室で神谷幸次は暇を持て余していた。
高校一年生の春といえば、新たな出会いに心をときめかせ、友達を作り、場合によっては彼女を作り、ゴールデンウイークを遊ぼう。
とかなんとか思う時期なのかもしれないが、幸次にとっては無縁のものだった。
右側では男女六人ぐらいのグループが連休の予定を話し合い、左側では男子グループがクラスの女子の格付けをしようと躍起になり、前方では女子グループがおいしいスイーツの店について情報交換を行っている。
そう、彼は完全に四月の友達作りで出遅れてしまったのだ。
それもこれも、入学式で遅刻し、自己紹介も行えなかったせいである。
「仕方ないかぁ」と机に顔をつっぷし、周りの会話をうらやましそうに盗み聞きしながら思う幸次であった。
そんな、青春の喧騒の中を凛とした声が響いた。
「失礼します。神谷幸次さんという方はこちらにいらっしゃいますか」大きな声というわけではない、響く声というわけでもない。
ただ、その佇まいから発せられた言葉は明瞭に一年三組の教室に響き渡った。
クラスの皆が顔をきょろきょろとさせる。誰も「神谷幸次」という名前にほとんど覚えがない。本人を除いては。
嫌な予感がしながらも、呼ばれていかないわけにもいかない。
幸次は手を挙げ、顔を机から上げながら、「僕が神谷幸次だけど……」と答えた。
クラス中の視線が一斉に集まり、嫌な注目を浴びてるなと思いつつ、こんな嫌な思いをさせるやつはどんな奴だと思い声の主のほうを見ようとした瞬間。
「幸次様、会いたかったです!」と急に女の子が、その声の主が飛び込んできた。
「ぐえ」とあまりに予想外のタックルに幸次はえづきながらも、その子を受け止めた。
クラスメイトの好奇の視線がさっきよりも強くなる。
外からみれば急に美少女がやってきて、クラスの名前もよくわからない男子に飛びつき、しかも熱烈に会えたことを喜んでいるのだ。
幸次自身もよくわからないことが、ほかの人にわかるわけがない。
「ちょっとまって、まずは離れて」
「これは失礼いたしました。あまりにうれしくてはしたない真似をいたしました」
そこでやっと少女は周りの唖然とした顔と、好奇にさらされていることを分かったようだった。
「幸次様、少し場所を変えてよろしいでしょうか」と提案した。
まるで宝石のように光る視線に見つめられ、幸次はうなずくしかなかった。
学校中の注目を集めながら歩く美少女、その後ろを付いていく冴えない感じの男子生徒。
視線が前の美少女に集められているので、自分には注目がいかないのは不幸中の幸いかと思いながら幸次はついていく。
階段をのぼり、上に向かっていく。
校舎の屋上に出るための扉は普段カギで施錠されているが、なぜか少女は鍵をもっており、鍵をあけて、そのまま屋上に出る。
「少し静かになりましたね」と少女は言う。少女と幸次はお互いに向き合い、幸次はまじまじと少女を正面から見ることになった。
さっきまでの後ろ姿でも美人なんだろうと感じさせていたが、正面から見るとよりその思いが強くなる。なによりその眼が、力強く輝きを放つ眼が幸次を強く捉えた。
「さて、では仕切り直しで自己紹介から」
少女は白のワンピースの裾を払いつつ、幸次の目をまっすぐに見つめる。
「私は、黒井花那と申します。どうぞよろしくお願いいたします」と丁寧にお辞儀をした。そして、
「ねぇ、私と世界を変えてみない?」と言った。
これが、少年が初めて少女を認識した瞬間だった。
つれづれにノートパソコンの端に書き溜めていたものを出すことにしました。
書き終わっていない作品なのですが、今後も少しずつ書き出していければいいなと思いますので、長い目で見ていただければいいなと思いますトリ。
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