第8話 保留。
「ふええええ、さすがに暑いよ。少し休もう?」
森の中はひんやりとはしているが、木を掘り出す仕事はやはり重労働。少し休ませて!
「ああ。水、飲むか?」
その辺に湧いている泉の水を、クルトが持ってきた木のカップで掬ってくれる。すごく冷たい。はあああ、生き返るね。
苔むした切り株に座って、小休憩。
いやあ、私はほんのちょっと前までお屋敷の侍女とかやっていた気がする。ついこの前のような気もするし、もう何年も前のような気もする。
木漏れ日がきらきらしてきれいだ。
空気が美味い。体中が浄化される気分?
「年取ったらさあ、こんな森の中で暮らすのもありかなあ。最初はどうなるかと思ったけど。うふふっ。意外とあってんのかもなあ。私。」
「・・・そう?退屈じゃない?」
「やることがいっぱいあって、退屈する暇もないよね。今度は畑もやるんでしょ?」
「畑って言うか、放牧場ね。馬の気晴らしに。」
「そうかあ、馬も大変だもんね。ここで王都までの道のりの半分なんでしょう?ちょっと休ませろや、って思うわね。あははっ。」
「・・・今回、また12本分増やすだろう?トイレも増設するだろう?レンガは間に合うかな?あと、放牧場用の杭に柵用の板。ひと段落したら、冬用の薪を用意しなくちゃな。」
「薪?ああ。木を切るの?」
「切って、積んで、干して…人手が欲しいな。」
「ありゃあ、忙しいなあ!あははっ。」
「・・・お前は、帰りたくないのか?もう日に焼けて田舎の子みたいだぞ?」
「うーーーーーん。こんな生活知らなかったから、新鮮?」
「すぐ飽きるさ。」
「そう?」
「・・・・・」
「ところで、そろそろお坊ちゃまが夏休みで帰ってくるよね?お嬢様はどうするのかな?婚約。今のところ、保留、でしょう?あ、でも家賃払ったか。」
「何かあったのか?あの二人、仲良しだっただろう?」
「うーーーーーん。仲良しと結婚は違う、と気が付いた、とか?」
「・・・・・」
「春の舞踏会に出掛けたでしょう?渋々だったけど。あの時、何かあったのかな?人がたくさんいて疲れた、って言ってたからね。」
「・・・・・」
*****
「ここかあ。【キャンプサイト・マル】だって。ぷぷっ。あいつ何始めたんだか。」
「・・・笑い事じゃないだろう?屋敷に帰ってみたら、マルはいないし。母は動揺してるし、森の管理小屋に住まわせるなんて…。何考えてるの?」
「おばさまも言ってたでしょう?直ぐに音を上げると思っていたら、家賃を送ってきたって。マルらしいね。それに、侍女もついているしさ。近くには騎士も控えてるんでしょ?そうそう心配することでも…。な?ランドルフ、落ち着けや。」
「・・・・・」
まだ新しい、キャンプ場の看板を矢印通りに左に曲がる。
しばらく行くと、マルハウス、と書かれた二階建ての大き目の家?小さ目の屋敷と言うべきか・・・が見えてきた。
「宿にお泊りですか?キャンプ場の利用ですか?受付までご案内いたします。」
13.4歳くらいの少年が馬を止めて御者と話している。御者が振り返って聞いてくる。
「どうしますか?」
「いや、」
「ああ。キャンプ場でお願いするよ。」
断わろうとした僕の言葉に、ヘンリックがかぶせる様に申し込みをする。
「はい。では受付をお願いいたしますね。3000ガルトになります。」
御者がマルハウス、に入っていく。
「え?マルにまず会おうよ。なんなら、僕はマルの家で泊ったっていい。」
「まあまあ、楽しそうじゃないか。キャンプ場でお泊りなんか、ありそうでない経験だからね?」
「・・・・・」
間もなく帰ってきた御者から、入浴券を一枚ずつ貰う。
「夕食は屋台が出るらしいです。そちらを案内されました。」
渡されたチラシには、各屋台のおすすめメニューが書き込まれている。
「ナンバー5番の所がうちの場所だそうです。馬車を回しますね。馬は隣の放牧場で遊ばせて良いそうなので。」
御者が心なしか楽しそうにそう言う。
ナンバー5番の木に馬を繋いで、馬車から降りる。今日は二人共、どっかの商人の息子風。御者もかなりラフな格好。馬を外して早速放牧場に向かっている。何本か木が立っていて日陰もあり、日陰に水飲み場があるようだ。
早めに入ったらしい馬が何頭か、草を食んでいる。
小屋?は三角形のほぼ屋根みたいな建物。中に向かい合わせでベンチ。真ん中にかまどがレンガで作ってある。本当に、最低必要限、って感じ。
「なるほどなあ、薪を買って自炊してもいいし、冬場は暖も取れるのか。野宿よりはいいな。」
「・・・・・」
「お、洗濯場もあるのか。なるほどなあ。隣国から入った商人なんかは、そろそろ洗濯もしたいよな。馬も遊べるし。良く考えてあるなあ。」
「・・・なんでもかんでも、なるほど、なるほどって…。」
「ランドルフ?楽しめ!」
「・・・・・」
「俺は風呂に入って来るかなあ。晩飯には早いし。」
「・・・俺も行く。」