第5話 改修工事。
クルトがヤン爺さんの物置小屋から一輪車を引っ張り出して、作業道具を突っ込んでいく。釘、トンカチ、のこぎり、でかいハンマーやら…
「ねえ、クルト?本当にあそこでやるのかしら?」
「やるんじゃない?ねえ、朝ごはんまだ?」
「・・・・・」
今日のご飯当番は私。ムカつくことに、クルトは料理が上手だった。騎士の養成学校では家庭科があるらしい。遠征用とからしいけど。確かに料理やお裁縫が出来ないと男所帯は大変そうだ。
貸家から廃屋までは、村の集落を抜けてゆっくり歩いて30分くらい。
お嬢さまがリュックをしょって降りてくるまでに、朝ごはんを食べてしまう。
今朝は昨日の残りの野菜スープにパンと卵焼き。うちで買った二羽の鶏はどうも話し合いをしたようで交代交代にしか卵を産まない。卵料理は2日に一回になる。
クルトがお皿を洗っているうちに、着替える。
あの廃屋の掃除…どんだけ汚れても惜しくない普段着を着る。
お嬢さまが箒を杖に、バケツをぶら下げて坂を下りてきた。
「行くよー!クルト!」
「へいへい。」
首にタオルをぶら下げて、クルトが一輪車を押す。
こんな日々が、早一週間。
行きや帰りに、村人たちから声を掛けられる。市の準備をしている人からは差し入れを貰い、畑仕事中の人からは野菜を貰う。なんというか…これはもう、引けない状況よね??
お嬢さまと私は中の掃除を。クルトは外装の補修。補修に必要な板切れは、崩れ落ちた小屋の部材を引きはがして使っているようだ。今は、雨漏りの補修に、屋根に上がっている。こういった補修工事も騎士養成学校で習うらしい。万能かよ?養成学校??
さて、箒に棒切れを括り付けて、天井の蜘蛛の巣掃除。
「あら、お嬢様、頭に蜘蛛の巣が…」
手を伸ばして取ろうとして…ん?
「お…お嬢様??頭、臭いですね。」
「え?そう?」
「いつ洗いましたか?」
「頭?毎日水で濡らしたタオルで拭いてるわ。体を拭くついでに。」
「え?ああ。あの、お住まいの所に、お風呂はないので?」
「あるケド?みんなに聞いたら、薪が惜しいからお湯はめったに沸かさないで、川の水で洗ってるって聞いたの。なるほどなあ、って思って、実践してみてるのよ。」
「・・・・・」
「夏の間はいいけど、冬は川の水じゃ寒いわよね?ストーブのお湯かな?」
「・・・・・」
「まあ、気にしないで。それより、アンネ?お嬢様、はよしてね。私はもとよりたいしたお嬢さまでもないし…お義母様みたいに、マル、って呼んでね?」
「・・・はあ、マル、ちゃん?」
「はい。ちゃっちゃとやっちゃいましょう!」
頭…どうしよう?
この子、本当に気にしてないわ。
「ねえ、クルト、頭臭い女の子ってどう思うよ?」
「は?お前、二日に一回は風呂沸かしてるだろ?不満か?薪がもったいないぞ。それに…いい匂いだぞ、お前。」
何もじもじして言ってるのよ??大体、いつ嗅いだんだ私の頭??
「・・・お嬢様が、庶民はまめに風呂を沸かさない、と聞いて、実践してるのよ。」
「ああ。沸かさないな。週一くらいかな?俺だって遠征とかに行ったら、2週間くらい入んないぜ。」
夕食後に疲れ切ったクルトがクッションを抱いてソファーに長々と寝転がっている。ご飯はクルトが豚の煮込みを作ってくれた。私は洗い物当番。
「それよりさあ、部屋が恐ろしく汚い、って聞いてたけど、掃除は出来んのな。お嬢様。結構マメみたいだし。」
「必要か、そうじゃないか。って言う究極の選択みたいね。今回の掃除は、あの子にとっては、必要、なんじゃない?それよりさあ、クルト?あの廃屋の大きなお風呂さ、使える?」
「あ?ああ、今日直した。窯が錆びついてたけど、何とか使えるかな。薪は積んでないな。持ってかれちゃったかな。」
「薪、ねえ。」
「水は裏の井戸のが使えそうだな。風呂は大きいから樋を渡して汲んでたみたいだ。樋は壊れてたから、使うんなら、作るしかないな。」
「水ねえ。」