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第12話 そしてそれから。

2時間ほどして、森の管理小屋から二人が手をつないで降りてくるのが見える。

薪を干してあるところから、台所の脇まで何度も薪を運んだから、少し休憩していたら、来たね。


なんだ。心配することはなかったな。


クルトたちにも、二人が来たことを告げる。

小さいキッチンは、豚の煮込みのいいにおいが漂っている。

ん?二人はなんだか少しぎこちなく、それでも急いでお昼のセットを始めた。

煮込みと焼き立てパンとゆで卵入りのカボチャのサラダ。


「うまくいったみたいなら、ワインも開けちゃいますか?」

そう言って、侍女が奥からワインを引っ張り出す。グラスを5つ。ご馳走だね。


「おかえりなさいませ。あの、ちょっと失礼して。」

侍女がランドルフの頭についた蜘蛛の巣を取る。服の綿埃も払う。


・・・掃除して来たんだな。


あの部屋を見たのか。んんん。今回は本を持ち込んでいないはずだから、そんなには散らかっていないはず。だと思いたい。しゃがんで床も拭いたのか、ランドルフのスラックスの膝が少し汚れている。


・・・すまない。ちゃんと、何度も何度も何度も…言ったんだけどね。


「えーーと。婚約破棄はないことでいいのかな?」

「うん。」

「はい。」

お互い見つめあって笑っている。まあ、根掘り葉掘り聞くのは後にしよう。


「じゃあ、お昼にしよう。」




*****


「で?どうだったんだい?」


馬車は御者ごと返してしまったので、ここ一週間はマルハウスの2階のツインの部屋に泊まっている。夕食はついているけど、もちろん屋台で食べてもいいらしい。

ベッド二つに小さい机に椅子が2つ。シンプルな部屋だ。


「春の舞踏会でさんざん他の女の子に嫌味を言われた後に、ほどけたリボンが結べなくて、自分に失望した?俺に必要とされる人間ではないだろうって。」

「ああ。」

「リボンぐらいって思ったけど…あの子にとっては一大事だったんだろうな。マルが結べないリボンは俺が結ぶし、部屋の掃除も俺がやる。いるかいらないかって言われたら、絶対いる。俺の人生にマルは必要なんだ。」

「ふうん。」

「今回、みんなを巻き込んでいろいろやってみて楽しかったって。だから、言ったんだ。これが10倍の人数だったら?100倍の人数だったら…もっと楽しそうじゃない?領地運営って、そういうことだよ、って。」

「そしたら?」

「みんなでやるなら楽しそうです、って。」

「まあ、人数が増えていくと、面倒も増えるけどね。」

「一人じゃないしね。社交は苦手だっていうから、そこは俺が一手に引き受ける。父も母もまだ元気だしね。協力してもらう。」

「そうか。お前がそれでいいならな。」


さっき屋台で買ってきたワインを開ける。本日二本目だな。


「でもな…部屋は驚いただろう?」

「あれはあれで、マルにとっては合理的なんだろう…と判断した。いや、正直言って、驚いたけど。泥棒が入ったのかと思ったけど。廃屋かと思ったけど…。でもまあ、部屋が汚いくらいで俺の愛は揺るがない!!」

「・・・そう?」

「うん。俺、掃除するよ。それくらいでマルと居れるなら。」


「お前…いいやつだな。」




*****


マルハウスとキャンプ場は、村営になった。代表は村長。


託児所の職員は、村長の所の娘さん夫婦が王都から帰って来てくれた。お孫さんも手伝ってくれるらしい。

ヤン爺さん一家の負担を軽減するために、新しくスタッフも増やした。

仕事があるなら、と、帰ってきた村民の家族を雇った。



マルちゃんはランドルフ様が学院を卒業すると同時に思い切りよく嫁に行った。

今は、侯爵領の改革に励んでいるみたいだ。




この間、旦那と子供を連れて王都に行く途中、マルハウスに一泊した。

看板は新しくなっていたが、相変わらず名前は変わらなかったようだ。


【キャンプサイト・マル


 この先5分。ご飯もお風呂も完備。】


旦那と顔を見合わせて大笑いした。


掘っ立て小屋みたいだった屋台は綺麗に整備されたし、沢の水を引いて釣り堀も作ったようだ。釣った魚はムニエルにしてもらえる。もちろん、自分の竈で焼いてもいい。子供たちは大喜び。暖かい時期だったから水遊びもできた。


すっかりいっぱしのホテルのように作り替えられたマルハウスは、それでも受付カウンターの脇には地元のお年寄りが作ったお土産物を売っていたし、屋台では地元料理と地酒。パン屋のおばちゃんと抱き合って再会を喜んだ。


いろいろと買い出ししてキャンプ場で焼いて食べる。たくさん食べて、遊び疲れて、子供たちは早々に眠ってしまった。



かまどの脇のベンチに座って、二人並んで星空を見る。


バカみたいに働いた、暑くて楽しい夏だったね。





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