第11話 決戦の日曜日。
日曜の朝、村の小さな教会で祈りをささげる。
ランドルフは朝からそわそわしている。ちらちらと、並びに座っているマルを見ている。落ち着け。
キャンパーたちも何人か来ているようだ。
配っているチラシには教会の場所や雑貨屋の場所も書き込んであったな。
朝市を出している村人は、店を閉めてから来るらしい。
「楽しそうな仕事を始めたな?マル。」
「ええ。お兄様。皆さんいろいろな意見を出してくださって、力もお借りして、良い感じになりました。私一人ではできませんでした。」
朝市でクルトと侍女は買い出しをしている。お昼はご馳走してくれるらしい。
マルと並んでゆっくり歩きだす。ランドルフが少し離れてついてくる。
「良くランドルフと話し合えよ。あの手紙だけで、納得はできないぞ?な?」
「・・・・・」
「なにか、あったのか?ランドルフと?」
「・・・・・」
「少なくともきっかけはあるんだろう?めんどくさがりのお前が、一年も行儀見習いをしたんだから。」
「・・・それは、これからの自分にとって必要なことだと思ったからです。」
長く伸ばした髪を、高いところで一本に結んでいる。邪魔にならないようにかな?
少し日に焼けて、筋肉質になったかな?子供も重いしな。今までより健康的に見える。
「これからのお前に…ランドルフは必要じゃない、ってことか?」
うつむいて僕の脇を歩いていたマルが、大きく目を見開いて僕を見上げる。
「そんなこと!そんなことは…」
「じゃあ…春の舞踏会で他の人になんか言われた?」
「・・・社交もできないような娘は、侯爵家でやっていけないだろうと…学院にも通わないなんてよっぽどだって。でも、そんなことは気にしなくていいと言われてましたし…。でも…。」
「でも?」
「お兄様?私、リボンが結べなかったんです。周りにたまたま誰もいなくて…リボンなんか結ぶの簡単だと思っていたんですけど…ほどけてしまった自分の背中のリボンが、何をどうやってもうまく結べなくて。」
「・・・物理的に、難しかったんだろう?」
「きゅっと結んでから、片方輪にして、通して、輪を引っ張って…。知識はあっても、頭でっかちだったな、一人で何にもできないんだ、って。なんていうか…。こんな私、ランドルフ様には必要じゃないよなあ、って思ってしまったんです。」
リボン、ねえ…。
「ねえ、マル、ランドルフに正直に言ってごらん。あいつは聞いてくれるし、多分お前の求めている答えをくれると思うよ。」
「・・・そうでしょうか?」
「ああ。お兄ちゃんの言うことに間違いないさ。」
「まあ。うふふっ。お兄様ったら。」
話しながら歩いて、クルトの家までついた。
「よく話し合ってくるんだよ?マル。」
こくん、とうなずく妹。大丈夫。お前はもう自分で答えを見つけてるじゃないか。
ランドルフがマルの後に続く。まあ…大丈夫そうだな。
「ヘンリック様?まずくないですか?二人で行かせるの。」
「え?」
侍女がこそっと耳元で話しかける。
「100年の恋も冷めるほどの汚部屋だと思いますよ?お嬢さまの家。」
「あ。」
「まあ、婚約破棄する気なら、早めに現実を知るのも手ですがね?」
「いっ…まっ。」
「まあ、いいですかね?なるようにしかなりませんし。」
「・・・・・」
二人の後姿に伸ばしかけた手を…ため息とともに下す。
「そうだな。あとは、神のみぞ知る、って感じか?」
「そうですね。でも、あの汚部屋を見てもくじけないほどの愛であってほしいですけどね?」
侍女がニヤッと笑う。