エピローグ
山崎も松木氏も、しばらく無言だった。山崎は長い映画を見終わったかのような感覚に陥っていた――これが本当に、現実に行われたことなのだろうか?
「――高瀬の部屋には、行かれましたか? 」
ややあって、山崎はようやく松木氏に尋ねた。声の出し方を忘れてしまったかのようだった。
松木氏は頷いた。
「もぬけの殻でした。管理会社に問い合わせたら、つい最近空き部屋になったと言うんです。――それでその、編集者の藤内さんなんですが。確かに、書いてあった場所に雑木林がありまして。しかし、さすがに中に入るのは……ちょっと……」
「なるほど、分かりました。思い留まってくださってよかったです」
山崎は原稿の束をまとめ、松木氏に頭を下げた。
「ご協力ありがとうございます。あとは我々にお任せください」
松木氏は重い荷物を下ろしたような、安堵の顔つきで帰っていった。
山崎はひとりになっても、なかなか腰を上げられなかった。事件は、解決に向けて大きく進展した――高瀬氏の証言が真実であると確かめることができれば、ほとんど解決したと言ってもいい。だが……。
山崎は松田氏が訪ねてきたときに淹れたきりだったコーヒーをやっとひと口啜った。すっかり冷めて香ばしさもなくなったコーヒーは、ただ苦かった。