第8話 デストロイ時雨
『デストロイ時雨』
サイコの能力、『救恤』で敵の頭上を亜空間と繋ぎ、保管している大量の武器を放出するサイコエルの必殺技。
取り出された刀、槍、ナイフ、手裏剣、斧など、ありとあらゆる武器が自由落下によって雨のように降り注ぎ、サンモトの身体を貫く。
……はずだった。実際には何も起きることはなく、『デストロイ時雨』は不発に終わったのである。
(能力が発動しない!?)
「どうした?虚勢だったか?次は俺から行くぞ」
しばらく様子を見ていたサンモトだったが、何も起きないとわかると、サイコとの距離を詰め、拳を打ち込もうとする。
その時、廃倉庫の壁が打ち抜かれた。二人が振り向くと、そこには桜色の長髪少女の姿があった。
「サイコちゃん、見ーつけた!」
「……!」
サイコは何も言わず、サンモトへと向き直る。サンモトも視線をサイコに戻して拳を構えた。
「まさか、ヤンデエルが来るとは。流石に大天使二人を相手にするのは厳しいな」
「逃げれねーだろ?」
「逃げるさ」
『空亡』
サンモトの拳が地面に当たるとたちまち土煙が舞い上がり、サイコとヤンデの視界を奪った。
(目眩ましか!それでも、水の上じゃないんだ。足音で大体の位置はわかる!)
………………
サイコは耳を澄まし、サンモトの動きを探ったが、サンモトの足音どころか物音一つ聞こえなかった。その後、土煙が収まり、サイコとヤンデが辺りを見回すと、サンモトだけではなくサンモトの部下たちも忽然と姿を消していたのである。
「クソッ!また逃げられた!」
サイコはまたもや敵を取り逃し、悔しそうに瓦礫を蹴り飛ばした。
「そんなことより私と一緒に帰ろっか。サイコちゃん」
ヤンデはそう言いながら、サイコに背後から抱きついた。
「私は奴らを追う。お前は天界に帰れ!」
サイコはヤンデの手を振り払い、廃倉庫を出ると、外で待機していた音夢にサンモトが逃げた方向を尋ねたが、音夢はサンモトを見ていないと答えた。
「ヤンデ!倉庫を囲め!敵はまだここに潜んでいる!」
そう言われると、ヤンデはすぐに掌から光の束を放った。
『夢死籠』
放たれた光の束は分散し、格子状に廃倉庫の周りを包み込んだ。
サイコは急いで廃倉庫に戻り、サンモト達を捜し始めた。しかし、置いてあった鉄骨の裏やコンテナの中など、倉庫内を隈無く調べても、サンモトはおろかネズミの一匹も見つからなかった。
「チッ!アイツ、移動系の能力だったか!」
シュテンが能力を使っていなかったことを思い出し、悔しそうに舌打ちをしたサイコはヤンデに『夢死籠』を解除させると、音夢を連れて家に帰っていった。
天使の名前には「エル」がつきますが省略されがちです。