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第1話 サイコエル降臨 前編

改めてよろしくお願いします!

 夏休み最終日の午後、天羽(あもう)音夢(ねむ)はソファに横になりながら動画を見ていた。無限にあるように感じていた夏休みがもうすぐ終わる。音夢は無慈悲に過ぎ去っていく時間の流れを感じ、この1ヶ月間ずっと家にいたことに気付いた。不思議なことにさっきまではまったく何とも思っていなかった。それどころか、外に出ることが面倒だったのだが、突然外出したくてたまらなくなってきた。

 それでも、遠くまで出かけるのは面倒なので、音夢は近所のコンビニにアイスを買いに行くことにした。


 もう夕方だというのに外に出た音夢を猛暑が襲う。音夢は立ち止まり、家に戻ろうかと思ったが、ここで諦めたらアイスが食べられないと自分に言い聞かせ、再び歩き出した。

 公園を通って近道をすると噴水が涼しげな音を奏でていた。


 公園を抜けて少し歩くとコンビニに着いた。10分程しか歩いていないが汗が頬を伝っていた。

 店内に入るとひんやりとした空気が全身を包み込んだ。音夢は迷うことなく、アイスケースからソーダ味の棒アイスを手に取り、レジへ向かった。


 会計を済ませて外に出ると、再び猛暑が襲ってきた。音夢は早足で公園へ行き、噴水の近くのベンチに座った。涼しげな音に癒されながら、アイスの袋を開ける。


 「食べ物……」


 どこからか声が聞こえた。しかし、周りを見まわしても誰もいないので気のせいだろう。溶けてしまう前にアイスを食べてしまおうと、音夢がアイスを口に運ぼうとした時だった。


 ぬっ……


 突然、ベンチの後ろから少女が顔を出した。


 「食べ物……、寄越せ!」


 少女はそう言うと私のアイスにかぶりついた。


 「あっ!私のアイス!」


 あっという間にアイスは無くなっていた。


 「人間界の食べ物もなかなかうまいものだな」

 「私のアイス返してよ!」

 「ん?なんだ?人間が大天使である私に指図するのか?」


 (天使?何言っているんだコイツ。完全にヤバい奴じゃないか。その上、ドクロの絵に『COOL』と書いてあるとてもダサい服を着ている。関わってはいけない人だ。)


 そう思った音夢は帰ろうとした。


 ズズズズズ……


 その時、気味の悪い音とともに頭に角の生えた男が音夢の前に現れた。


 「来たな悪魔!早速ぶっ殺してやる!」


 少女は笑顔でそう言うと、角の生えた男に殴りかかったが、かわされてしまった。


 「いきなり殴って来るとは卑怯な奴め」

 「お前、意外とできるようだな」

 「俺は上級悪魔炎のイグニス!お前を倒しに来た!」

 「少しは楽しませてくれそうだな!」


 少女が再び男に殴りかかり、戦闘が始まった。音夢はベンチの後ろに隠れて様子を見ることにした。


 信じがたいことに男は手から炎を出すことができるようで、少女から距離をおいて炎を放つ。しかし、少女はそれを素早く避けながら男に接近し攻撃する。

 しばらく互角の戦いが繰り広げられた。二人とも戦いを楽しんでいるように見える。


 「なかなかやるじゃねーか!」

 「アンタもダセェ服着てるわりに戦いのセンスはあるようだなァ!」

 「あ?」


 ドゴォン!


 突然男の頭が地面にめり込んだ。


 「今、なんつった?」


 ドッ!


 少女は質問に答える時間を与えず男を蹴り飛ばした。さらに、少女は訊ねる。


 「だ!」


 ズム!


 「れ!」


 ドカッ!


 「がぁ!」


 ゴッ!


 「ダ!」


 ドシ!


 「サ!」


 ズガッ!


 「いっ!」


 ベキ!


 「てぇ?!」


 ズザーッ!


 男は何度も蹴り飛ばされたが、なんとか立ち上がった。


 「本気で行くぞ!俺様を怒らせたことを後悔しろ!」


 男は両手から放出される炎をこねるようにして火の玉を形成した。そして、それを少女に向かって真っ直ぐに投げつけた。


 『火球入魂(ひのたまストレート)


 ゴオオオオ!


 火の玉は目にも止まらぬ速さで、少女は走り出し、迫り来る火の玉を左手で振り払おうとした。しかし、その手は空を切り、火の玉が少女に直撃した。すると、瞬く間に炎が少女を包み込み、少女は火だるまになってしまった。


 「ウォギャァァァ!」

 「フハハッ!どうやら俺様の勝ちのようだなぁ!」


 男は勝ち誇ったように笑った。ところが、その高笑いもすぐに途絶えることになる。火だるまになった少女が殴りかかってきたのである。少女は男を張り倒すと、馬乗りになって殴り続けた。


 バキ!ボカッ!ゴリッ!ミシ!メキッ!ベコ!ゴキッ!グシャ!ベキョ!ドチャ!


 火だるまが男を殴り続けるというこの世のものとは思えない凄惨な光景とあまりに気持ちの悪い音に、音夢は吐き気を催し、目を閉じて耳を塞いだ。


 その後、しばらくしてその地獄のような音は鳴り止んだ。音夢が目を開けると、そこには灰のようにになって消えてゆく男がいた。周囲を見渡してもあの火だるまの姿はない。恐らく、彼女も消えてしまったのだろう。音夢はなんとなくそう感じた。


 今までの出来事は夢だったのかと思えるほどに公園は静まり返り、噴水の音だけが激しく響き渡っていた。そんな中、音夢はただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

後編に続く……!

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