第9話 天使の輪
第9話です!
廃倉庫での戦いから一週間が経ち、音夢もサイコとの生活に慣れてきた頃のことだった。音夢が学校から帰ると、リビングにサイコとヤンデ、銀髪サイドテールの女、ゴーグルをかけている小柄な男が集まっていた。
「誰!?」
見知らぬ来客に驚いた音夢が声を上げた。
「ほっいはばいえふ、ほいへほっひはふひえふば」
サイコはモゴモゴと菓子パンを頬張りながら、音夢に答えた。
「何て言ってんの?」
音夢が聞き直すと、サイコは口の中の物を飲み込んで答えた。
「こっちはパリエル。いつも酒を飲んでる。そんでそっちはフミエル。道具や武器を発明してる。」
サイコの話によると、銀髪の女はパリエル、ゴーグルの男はフミエルといい、サイコのサンモト討伐の協力に来たようである。
「そんじゃ、作戦会議始めるぞ」
フミはそう言いながら、持ってきていた大量の荷物の中からモニターを出して電源をつけた。画面にサイコの画像と天使の輪の画像が映されると、フミは話を始めた。
「サイコ、お前がサンモトに負けた原因は天使の輪を失ったことだ」
「負けてない!それに、あんな飾りあったところで何になるんだ!?」
サイコがそう訊くと、フミは話を続けた。
「天使の輪には自動エネルギー補完機能があんだよ。この前途中で能力が使えなくなったのはエネルギー切れしたからだろうな」
「そんな話聞いたことないぞ!?」
「知らなくても無理ねーよ。天使の輪なくすことなんて堕天した時くらいしかないからな。」
「あっそ!」
「そんなことより、問題は天使の輪なしでどのくらいのエネルギーを使えるかだ。サンモトと戦った日、能力を何回使ったか覚えているか?」
「そんなのいちいち数えてねーよ」
「そう言うだろうと思ったよ」
フミが持っているノートパソコンのキーボードを打つと、モニターの映像が切り替わり、食パンを食べているサイコの映像が流れ始めた。
「こんなの撮られた記憶がないぞ?」
フミは荷物の中から小鳥型の機械を手に取ると、サイコの質問に答えた。
「俺の開発した移動式カメラ『隠鳥』で監視していたんだよ。今のお前は要注意人物だからな」
フミは映像を早送りしつつ、サイコが能力の発動回数を数えていった。
「5回か。多いな。上級天使でも天使の輪がなければ2、3回が限界だぞ」
「当たり前だ。私は最強の天使だからな!」
フミはサイコの言葉を聞き流し、一言。
「だが、今のお前じゃサンモトどころか俺にすら勝てないな」
「なんだと?」
サイコは眉間にシワを寄せて聞き返した。
「今のお前じゃ俺にすら勝てないって言ったんだよ」
フミがはっきりと答えた。
「戦闘特化でないお前がわたしに勝つだと?」
「そんなに信じられないなら今から戦うか?」
「あぁ。叩きのめしてやる」
戦うことになったサイコとフミは、早速虚構空間に転移する。虚構空間とは、天界や魔界とも異なる空間である。この空間内では自由に地形を変えたり、木や岩、建物などを設置することができ、現実世界には一切干渉しないため、損傷やエネルギー消費は現実世界に戻るとなかったことになる。これらの特徴を活かし、多くの天使や悪魔が訓練や模擬戦闘に利用しているのである。
「面倒だから何も設定しないぞ」
「いいぜ」
二人が転移した先には、何もなく、広大で平坦な空間が広がっていた。
「30分一本勝負でいいか?」
「好きにしろ。わたしが勝つだけだ」
サイコとフミの戦闘が、今始まろうとしていた。




