第7話 スキルについて
「今のって向井くんがやったん! なんでそんなことできるん? ウチにも向井くんみたいなことできるんかな」
「……え」
今の今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように、本間はパッと瞳を輝かせながら問うてきた。俺もいのりも彼女の変わり身の早さに唖然としてしまった。
「えー……と、本間さんも攻撃系のスキルを習得しなかった? ちなみに俺の職業は【術士】の【黒魔術】。今のはスキル【水魔法】による攻撃かな。発動の仕方はそんなに難しくなくて、イメージすれば可能だと思う」
「ウチは【剣士】の【盗賊】ってのを選んでるよ。習得したスキルはさっきも言ったけど【恐怖耐性】と【電光石火】。せやけど、恐怖耐性はアカンね。今は大丈夫みたいやけど、さっきはめっちゃ怖かったもん。効き目にむらがあるんかも」
いくらパシッブスキルとはいえ、完全に恐怖心を取り除くことはできないんじゃないのかと、俺は自分の考えを口にした。
いのりも本間も納得した様子だった。
「せやけど、電光石火ってどんなイメージすればええの?」
言われてみれば、それは確かにイメージし難いな。
異世界ではイメージ、もしくは強く唱えたりすることで技を発動できた。試しに唱えてみることを提案するが……。
「なんも起きひんよ?」
「いのりはどうだ?」
「あたしもダメみたい」
「そう言えばいのりはどんな職業を選んだんだ? 攻撃系のスキルは【チャージショット】だったよな?」
「うん。あたしは【戦士】の【狩人】だよ」
「狩人……か」
彼女らしいと言えば彼女らしい職業だ。
俺は二人にステータスを見せてほしいとお願いし、二つのステータスを見比べた。
スドウイノリ
Level:1
HP:13/13
MP:5/5
腕力:9
耐久:9
俊敏:8
魔力:2
知識:3
S P:0
J P:0
職業:戦士
スキル:恐怖耐性/チャージショット
ホンマカンナ
Level:1
HP:11/11
MP:4/4
腕力:12
耐久:10
俊敏:7
魔力:1
知識:3
S P:0
J P:0
職業:剣士
スキル:恐怖耐性/電光石火
HP値や俊敏値の初期ステータスは戦士職のほうが高いようだが、腕力値や耐久値は剣士職のほうが高いみたいだ。
俺は試しにいのりのステータス、【チャージショット】をタップしてみる。
すると、ページが切り替わった。
【チャージショット】
弓を使ったスキル、攻撃力が2倍になる。石などを投擲する際にも応用可。
「弓を持ってなかったから発動しなかったってこと?」
「というよりかは、投擲できるものをいのりが持っていなかったから、チャージできなかったってことなんじゃないか?」
「そういうことか!」
「ほな、ウチのこれは?」
いのりのステータス画面から、本間の画面に視線を移す。
【電光石火】
対象を認識後、高速での移動を可能とする。(※対象との距離が五メートル以内であることが条件)
なるほどなと俺は頷いた。
「そこを動かないでくれるか?」
「ようわからんけど、ええよ」
俺は本間から距離を取り、彼女に俺のところまで走るようなイメージをするように指示を出した。すると、本間の全身から青い稲光がパチパチと迸り、一瞬のうちに俺との距離を詰めていた。
「な、なんや今のっ!? 身体が勝手に向井くんのところまで走り出したよ!」
「それがスキル【電光石火】のようだな」
「でも、なんかちょっとくらくらするわ」
額に手を当てた本間に「それはたぶん」と言いかけた瞬間、凄まじい程の衝撃音が轟いた。
「「――――!?」」
突然の破壊音にびっくりして音の方に顔を向けると、壁に何かがめり込んでいた。
消しゴム……?
「ご、ごめんなさい!」
「これ、いのりがやったのか?」
「試しにポケットに入っていた消しゴムにぎゅって力を込めたらね、消しゴムが薄っすら光はじめたの。あたし怖くなって壁に向かって投げちゃったの……」
それでこうなったってわけか。まるでショットガンだな。
チャージショットは想像以上の威力だった。無闇に発動すれば大惨事になりかねない。いのりにはできるだけ使わないように言っておこう。
「本間さん大丈夫?」
「うん……なんか頭がくらくらしてな。嫌やわ、こんな時に貧血かな?」
壁に背を預ける形でもたれ掛かる本間に、「それは貧血じゃない」と告げる。
「貧血ちゃうって、なんでそんなこと向井くんにわかるん?」
「本間さん、もう一度ステータスを開いてくれるか?」
「別にええけど……」
ホンマカンナ
Level:1
HP:11/11
MP:1/4
腕力:7
耐久:10
俊敏:7
魔力:1
知識:3
S P:0
J P:0
彼女のステータスを見た俺はやはりなと思った。
「ウチのステータスがどないかしたん?」
訝しむように眉根を寄せる本間に、俺はMP値を確認するように言った。
「あれ、4から1になっとる」
「本間さんの電光石火は発動するたびにMP3を消費するようだな。今一回使ったから、MPが減って疲れているんだと思う」
「せやけど、それやったら須藤さんはなんで平気なん?」
続いていのりのステータスを確認する。彼女のMP値は3/5と表示されていた。
このことから、いのりの【チャージショット】はMP消費率が2だということがわかる。対する本間の【電光石火】のMP消費率は3。さらにいのりと本間のMP値にも僅かだが差がある。
残りMPが1になってしまった本間が疲れを感じ、まだMPに余裕のあるいのりは疲れを感じないってわけだ。
「このくらくらはそういうことなんやね」
「もしMPがゼロになったらどうなるのかな?」
「ゲームとかやったらHPがゼロになった時点でゲームオーバー、つまり死亡ってことやから、MPも同じってこと?」
「いや、仮にMPがゼロになっても死にはしないと思うぞ。ただ――」
異世界で魔力が枯渇すると気を失うことがあった。こちらの世界でも同じだと仮定すれば、かなり厄介だ。モンスターがあふれる世界で突然倒れでもしたら、それこそ命が幾つあっても足りない。
それに現時点ではどのようにMPが回復するのかも不明だ。時間経過による回復か、あるいは休息や瞑想が必要なのか、いずれ調べる必要がある。
俺は二人にMP管理だけは決して怠らないようにと忠告した。
「それより、吉野は大丈夫?」
「ん、なにがだ?」
「さっき【水魔法】だっけ? 使って助けてくれたから」
「……あぁ、うん。俺は問題ないよ。術士は他の職業より基本MP値が高いみたいなんだ」
「よかったぁ〜」
安心して頬が緩むいのりを見て、俺も思わず口元が緩んだ。
見た目は痩せてだいぶ変わったけど、自分のことより他人を思い遣るところは昔のままだった。
「それやったら、ウチも術士にすれば良かったかもな」
唇を尖らせて不満げに愚痴る本間に、俺は他のステータスが嫌になるくらい低いことを伝えた。(元の俺のステータスが低いことも関係してるのだが)
「そんなに低いん?」
「多分だけど、本間さんやいのりなら耐えられる攻撃も、今の俺だと即死だと思う」
「え……」
「そんな……」
目を見開いて絶句する二人に、そうならないためにここからは慎重に行動しようと言った。特に本間に向かって。
「せ、せやな……」
「吉野はあたしが守るからね!」
胸の前で拳を握りしめ、真剣な眼差しを向けてくるいのりを見て、俺は何があっても彼女だけは守ると決めた。
「うん。俺もいのりを守るよ」
「―――っ!?」
いのりは途端に耳まで真っ赤になって俯いてしまった。どうしたのだろう?
「ウチは熱すぎて上せそうやわ」
「……?」