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第2話 帰還

「う〜……ん」


 身体中が痛い。

 つーか、ここはどこだ?


「よし、の……? 吉野っ!」

「痛っ。何すんだよ。って誰だよお前!」


 目が覚めた瞬間、突然謎の美少女が抱きついてきた。

 良かった、本当に良かったと泣きじゃくる女を横目に、俺は状況をたしかめる。


 寝台の上で無数の管に繋がれた俺は、どうやら病院のベッドに寝かされていたらしい。


「(うわぁ……)」


 窓ガラスに映った俺の髪は伸び放題、ロン毛になっていた。これでイケメンじゃなかったらキモオタじゃん。親に感謝だな。


「――先生呼んでくる」


 ひどい鼻声の女が慌てて病室から出ていった。

 しばらくすると、女は医者と看護師を連れて帰ってきた。医者は俺を見るなり驚き、何度も奇跡だと口にしていた。


 トラックに轢かれた俺は一年間植物状態だったらしい。目が覚める見込みは限りなくゼロだったとか。


「向井さんの意識がなかった間も、毎日お見舞いに来てくれていたんですよ」


 看護師は先程の美少女をチラ見しては微笑んだ。

 美少女は頬を赤くしながら、「そ、そんなんじゃないですから!」両手を前に突き出しぶんぶん振っていた。


「吉野とはただの幼馴染みだし……。それに、吉野は家族、いないから。あたしがお世話しないとダメだから!」

「………」


 幼馴染み……?

 俺は美少女の全身をなめるように見た。

 ぱっちり二重の大きな目に、色っぽくて薄いくちびる。背まで伸びた黒髪はツヤツヤでシャンプーのCMに出てくる女優さんみたいだった。体格は細身なのだが、出ているところはかなり出ている。ルイズ(側室)にも負けない見事なパイ乙の持ち主。どこか懐かしい三日月型の髪留めをしていた。


 ――が、俺はこんな美少女はしらん。

 はっきり言って記憶にない。

 幼馴染みの女なら一人居るには居るが、あだ名は高見盛。ロボコップの愛称で慕われた相撲取りに激似だったことから、そう呼ばれていた。


 見た目はともかく、あいつだけは昔から俺に優しかった。元気にしているだろうか。思い出したら少しだけ、あいつに会いたくなった。


「で、誰だよ、お前」

「ん……? ずっと寝ててあたしのこと忘れちゃった?」

「……そうかもしれん。悪いがさっぱり分からん」

「あたしは須藤いのり。思い出せない?」

「須藤……いのり? ――って!? おっ、おおおお前高見盛かっ!?!?」

「やだ吉野ったら、そんな昔のあだ名やめてよ。恥ずかしいじゃん」


 俺は驚き過ぎて顎が外れてしまった。

 一体何がどうなれば、あの高見盛がこんな美少女になるというのだ。整形か、全身整形でもしたというのか。


「吉野が事故に遭って意識が戻らなかったから、あたし食事も喉を通らなかったんだから。ま、そのおかげで痩せたんだけどね」

「め、眼鏡は!? お前目がめちゃくちゃ悪かったろ? いつもこんなぶっとくてダサい眼鏡掛けてただろ」

「コンタクトに変えたの? 変、かな?」

「いや、眼鏡も悪かないけど、コンタクトも悪くないな」

「うふふ。良かった」


 俺はまじまじといのりの顔を凝視した。

 言われてみれば確かにいのりの面影がどことなく残っている。幼稚園の頃(太る以前)はたしかに美少女だったもんな。

 驚きのビフォーアフターだ。


『――吉野、聞こえますか勇者吉野?』


 突然頭の中に女神の声が降ってきた。


『なんだよ』

『今から24時間後には、世界は魔物で溢れかえっています』

『あっそ』

『しっかり準備をしていてください』


 目が覚めた俺はその日のうちに精密検査やらなんやら、身体中のあちこちを調べられた。もう元気だって言ってるのにしばらくは入院しろという医者をシカトして、俺は無理矢理退院した。


 病院を出て真っ先に向かったのはいのりの実家だ。相変わらずの雪だるまみたいなおばさんは、俺の顔を見るなりラグビー選手もびっくりなタックルからホールドを仕掛けてきた。俺はギブギブと何度もおばさんのたくましい体を叩いた。


「こんな感じでどうかな?」

「悪くないな。元がいいってのもあるんだろうけどさ」


 庭先でいのりに髪を切ってもらった。

 昔から節約のためにいのりに髪を切ってもらっていたことを思い出し、なんだか懐かしい気持ちになる。


「うんうん。吉野は昔からイケメンだもんね」

「……」


 ニコニコ顔のいのりが本気でそんなこと言うもんだから、少し照れくさかった。

 晩飯はいのりの家で食べた。一年ぶりの日本の味は、泣けるくらい美味かった。

 俺が泣きながら煮っころがしを食べる姿を見て、おばさんやおじさんはもううちの子になりなさいなんて言ってくれる。嬉しいじゃないか。


 けれど、いのりはそれは困る! と慌てて声を張り上げ、18歳まで我慢してと両親に、俺に言ってきた。

 なぜ18歳なのだろう? 意味がわからん。


「本当に泊まって行かないの?」

「ああ、明日は久々の学校だし、制服の準備とかもあるからな。家の方も見ておきたいしさ」

「そっか、なら明日迎えに行くね」


 俺は見違えるほど可愛くなった幼馴染みに別れを告げ、目と鼻の先にある自宅に向かった。


「ボロボロだな」


 たった一年留守にしただけで、ひどい有様だった。電気・水道・ガス、見事に全部止められていた。当然といえば当然か。

 だがしかし、室内は意外と綺麗だった。いのりが掃除をしていてくれたのかもしれない。


「ただいま」


 真っ先に仏壇に手を合わせ、両親と祖父母に異世界から帰還したことを告げる。

 それから真っ暗な居間で大の字に寝転び、天井をぼんやりと眺める。


「懐かしい天井だ」


 柱に刻まれた印も、穴の空いた障子も、あの天井の染みも何もかも、昨日のことのように思い出せる。

 クソみたいな世界だと思っていたけど、意外と大切があることに気付かされる。


「ずっと、待っていてくれたんだよな」


 病室でのいのりの泣き顔を思い出しちまう。

 何より、いのりが、須藤家のみんなが変わらず優しかったことが嬉しかった。


「世界を救う、か」


 正直に話すと、俺は今でもこの世界が滅びようがどうなろうが別にどっちでもいい。

 ただ、いのりの事は、須藤家のみんなの事は本気で守りたいと思ったんだ。


「面倒くさいけど、もういっぺんぐらいやってやるか!」


 一度は世界を救った勇者な俺だ。

 今回だってサクッと救ってやればいい。

 なんせ今回は二回目だ。楽勝だろう。


「ステータスオープン」


 そう思ってステータスを表示させたのだが――



 ムカイヨシノ 呪い

 Level:1

 HP:6/6

 MP:00/00

 腕力:1

 耐久:1

 俊敏:1

 魔力:00

 知識:00

  S P:5

  J P:5


 職業:無職

 スキル:なし

 EXスキル:女神通信



「なっ、なんだよこの雑魚ステはっ!?」

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