召喚された装備に銘を
冒険者五人は、疲労で体が動けない大魔導士ローフィンを静かに救護室に運び込んだ。
それからしばらくして体力は回復。
上半身をゆっくりと起こした。
「老師! 無理をしてはなりません!」
「今日一日くらいはゆっくり……」
慌てて寝かせようとする五人。
しかしローフィンはかぶりを振った。
「いや、言えるうちに言っとこうと思ってな。……それぞれ持つ武器や装備に銘をつけたらどうだろう、とな」
「そんなの後でいいじゃないですか」
ローフィンの体を気遣う五人だが、彼はその意志を曲げなかった。
「……これから君たちは、魔王を倒しに行くという大役が待っている。だが、君達のすることは、それだけに収まらない」
「どういうことでしょうか」
回復術士の問いに応えるローフィン。
思いの外彼の体力は十分回復したようで、静かな笑みを浮かべている。
「行く途中のあちこちで、民の困っている姿を見るはずだ。彼らは魔王への恐怖もあるだろうが、明日をも知れぬ自らの命、家族、その地域の民の命の危機に直面していたりもするだろう。君らは、それをほおっては置けない。救いの手を差し伸べることもあろう。その時に、その民からは、行きずりの冒険者と思われてはよくない。これから魔王を倒す勇者達である、と認めてもらわねばならない」
「それは……まぁ、確かに」
「そのためにも、装備している物に銘は必要ではないか、とな」
「しかし、その銘を……。ひょっとして老師、老師から頂けるのですか?」
「うむ。我らの知らぬ世界より召喚され、君達の身に備わったそれらの一部に銘を授けよう」
五人は互いに見合わせたのち、喜びの顔を見せる。
しかしその表情はすぐに消え、気合がこもって引き締まる表情が現れた。
「よろしく……お願いします!」
ローフィンはその五人の顔を見て満足げだ。
そして一人一人の装備を見て、まずは剣士に声をかけた。
「君の大きな剣。それは……これからは『聖剣・エクスあずきバー』と呼ぶがよい」
「ありがとうございます!」
剣士は腰をほぼ直角になるくらいにまで、勢いよく頭を下げた。
「体術士の君の拳に備わった……防具も兼ねた武器には……『ビーン・ナックル』と名付けよう」
「ありがとうございます!」
剣士と比べて大柄な体格の体術士。
しかし礼を言いながらお辞儀をするその姿は、剣士と同じ姿勢だった。
「魔術師の君の杖は……『マ・メイジスティック』と呼ぶがよい」
「はいっ!」
「回復術士の君の杖は、『マ・メディカルステック』と名付けよう」
「ありがとうございます!」
魔術師の杖の形状は、柄の先は渦巻き状に巻かれている。
回復術士の杖は、きれいに真っ直ぐに伸びている。
回復術士の杖の方がやや短い。
「支援担当の君の武器は弓矢か。ならば……『ビーンシューター』と呼ぶがよい」
四人に並んで支援の勇者は何か言いたげだ。
それを他の四人が諫める。
「せっかく頂いた銘だぞ。お礼は言わないか!」
「そうよ。矢も召喚された物でしょう? しかも使っても減らない弓って鑑定の備考にあったじゃない!」
「そうだ。その銘のどこに不満があるというんだ?」
しかし支援の勇者は、恐る恐るローフィンに尋ねた。
「あ、あの……ビーンシューターって……」
「何じゃ? 別の名前がいいのか?」
「いえ……あの……『豆鉄砲』って言うらしいで」
「ゲフンゲフン!」
「ろ、老師、いつまでも起きていては体に障ります! 少しお休みになってください!」
「す、すまんな……。では、五人の勇者達よ! 彼岸の魔王討伐の任務は任せたぞ!」
「はいっ!」
五人は救護室を出た。
そしてすぐに支援の勇者を責め始めた。
「何が豆鉄砲だよ! ビーンシューター! かっこいいじゃねぇか!」
「そうよ! 大体何で豆鉄砲なんて言うのよ!」
支援の勇者は言い返す。
「だってビーンシューターって、そういう意味なんだぜ? 弓の字も矢の字もねぇじゃねぇか!」
「ビーンシューターが豆鉄砲? どういうことよ?」
「だって、ビーンシューターって元々は英……」
何だかんだと言い合いながらも、斯くして彼らは身支度を整え、魔王討伐へと出発した。
「