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内気な少女と勝気に意気投合する回③

「ソうだ。正しクは、現皇帝の即位二十年の記念祭典。コの国の住民ほとんどが集まル、大きな祭りダ。そこで一発、何カでかいのをブちかまそうじゃナいか」

「で、でも……何かって、具体的には何をするの?」

「心配するナ。ムコリタには考エがある。泥船に乗っタつもりで、任せテおけ」

「大船ね……泥だと沈んじゃうからね……」

 ムコリタは自信ありそうな様子だが、その言葉遣いも含めてあんまり頼れる感じはしない。なのに、その話に乗ってみたいと思わされるのはどうしてなのだろう。

 もしかしたら、僕はムコリタの言動から戦うためのエネルギーのようなものを感じているのかもしれない。エルガに立ち向かおうというきっかけを与えてくれたのはルルーラだが、彼女は彼女なりに悩みがあり、どちらかというと、共に支えあう仲間であると僕は思っている。

 そこに前に立って引っ張っていこうとしてくれる存在が入ると、信頼しきれるかどうかはともかく、かなり心強いのは確かだ。一人で堂々とエルガの指導から逃げ出してさぼってることからしても、行動力があるのは間違いなさそうだし。


「分かったよ、ムコリタ。じゃあ、さっそく君の考えを聞かせてくれる? 実行するかどうかは、話の内容を聞いてから考えよう。ルルーラもそれでいい?」

「わ、私は……はい、シドウ先生がそう言うなら……」

「なんダ、煮え切らん奴らだナ。そんな調子で大舞台に立テるのか、不安にナるぞ」

「大舞台?」

「ああ、祭典では、いくつカ歌や踊りを披露する場がアる。実は、ムコリタも何か芸をシろとエルガに言われてナ。ちょうどいいかラ、お前らにその場を譲ってやろうト思ったのだ」

「なるほど、祭典の舞台を利用することで、労せずして人々の注目を集められるというわけか! 思い付きで言ってるのかと疑ってたけど、なかなか良い案じゃないか!」

「ま、待ってくださいシドウ先生……これ、私たちがムコリタの都合がいいように利用されようとしてませんか?」

 僕が手を打つ横で、ルルーラは怪訝そうに眉をひそめている。慎重なのは良いことだが、せっかく協力しようと言ってくれているムコリタをそこまで疑う必要はあるんだろうか。


 けれどムコリタはルルーラの疑いの目に気を悪くした様子も見せず、堂々と手を振った。

「まあ聞ケ。ムコリタはエルガと違って、お前らにモ分かるように説明してやるかラ。祭典の舞台を利用しようトいうのには、それナりの理由があルんだ」

 そのまま指を立てて、一つ一つ理由を上げていく。その態度は、僕なんかよりもよほど教師に向いてそうだ。

「まず一つ目の理由だガ、これはシドウが言っタ通りだ。エルガはこの国でも腕折りノ魔術師だから、大勢が集まる場にハ必ず顔を出す。そこデ事を起こせば、奴も簡単には逃げられナい。それだケじゃなく、上手くいけバ集まった人々からエニを得ることもでキる。ルルーラはエルガに比べたらエニが弱いんダから、修行としテもちょうどいいだろう? 何より、お前らが舞台に立ってクれるならムコリタはとても楽がデきる。な? シドウもルルーラもムコリタも、皆幸セになれる素敵な作戦ダろう」

「折るのは腕じゃなくて指ね。エルガはそこまで武闘派じゃないからね……でも、エルガを確実に呼び出して、ルルーラの弱点もカバーできる作戦……つまり、一石三鳥というわけか……いやはや、ムコリタの洞察力と僕らに対する思いやりには恐れ入るな。正直、君が敵でないことにかなり安心してるよ」

「言ってます! 今はっきり、『自分が楽できるのが何より』って言ってますよ! シドウ先生、どうして大事なところを聞き逃してるんですか!」

「そして最も大きい決め手はお前だ、ルルーラ」

 再びヒートアップしているルルーラを制するように、ムコリタはぴしりと指を突き付けた。

「今だってソうだ。お前は困った時や慌てタ時の方が、本来の実力が出せる。見慣レた顔ぶれの教室でもじもじシているより、大勢の前で度胸をつけタ方がいいんじゃナいのか」

「う……そ、それは……」


 ムコリタから落ち着き払った口調で言われると、ルルーラは途端に消沈してしまう。

こうやって何度か繰り返されると、僕にもルルーラの癖が見えてくる。何か強く訴えたかったり少し怒っていたりするくらいの方が、勢いに乗って滑らかにしゃべることができるというのは間違いなさそうだ。半面、冷静になって周囲が見える状態だと、色々なことを考えて身動きが取れなくなってしまうタイプなのだろう。

 そんな繊細な彼女が大勢の前で舞台に立てるのかと言われると、まだ知り合って間もない僕から見ても不安な部分がある。ルルーラ自身が、それは一番分かっているのだろう。再びおさげを体の前で握りしめるようにしながら、

「で、でも……だって、人前で笑われたら恥ずかしい、し……それで失敗したら、もっとお姉ちゃんにがっかりされて、もういいって言われ、ちゃうかも……」

「そうカ。じゃあ、やれトは言わない。イつまでも『お姉ちゃん』の影デ、大事に守ってモらっていろ。ムコリタはもう一眠りサせてもらう」

「……っ!」


 確かに、ムコリタはルルーラの上がり癖をよく理解している。そのうえで、解決策として僕らに舞台へ上がることを勧めているようだ。だが、そんな突き放した言い方はあまりに酷ではないだろうか。

 いや、そうじゃない。ムコリタはルルーラの実力を評価しているからこそ、甘えを許さないのだ。ここで一歩踏み出すことができれば、ルルーラにとって大きな変化が訪れるだろう。

 けれど、それをためらってしまう気持ちだって僕にも分かる。だって、人前に出て何かをすることはとても怖くて恐ろしいことだっていうのは想像がつく。無数の目がこっちに向いていて、心臓が飛び出しちゃいそうにどくどく動いて、喉がカラカラで呼吸もできないくらいに締め上げられてるみたいな気分で――。

「僕がやるよ」

 そんなごちゃごちゃしたことを考える前に、僕の口は動いていた。いや、どちらかと言うと、考えることから逃げたかったのかもしれない。

「笑われるのが恥ずかしいなら、僕が出るよ。それだけのことだろ? 僕、笑われるのは慣れてるし、結構好きだからね」

「せ、せんせ……」

「ルルーラは、裏方でサポートしてくれればいいからさ。どうだろう、異世界で漫談とか一発芸って伝わると思う? っていうか、もしかして通訳が必要? うわあ、滑ったら悲惨そうだな……」

「滑ル? 舞台は広いが整備サれてるから、下手なこトをしなければ転んだりしナいぞ?」

「そうだね、すべるだけじゃなくて下手打ってコケるのも辛いね……」

 まあ、どんなに冷ややかな目を浴びたとしても、何もしないよりはマシだろう。僕だっていつまでもこの状況に振り回されているばかりじゃないってところを、エルガに見せつけてやるんだ。


「まあいい。シドウが何をすルにしろ、ムコリタの代わりに舞台に立っテくれるなら文句はないぞ。『さぽーと』がなんだカ知らんが、二人で仲良くやるがイい」

「わ、私も……ううん、私たちも、やります!」

 迷うように黙っていたルルーラは、そこで顔を上げると同時にムコリタの手をしっかりと掴んだ。その目には、先ほどまではなかった強い光が宿っている。

「私と、ムコリタで!」

「うんうん、それは何ヨ……り?」

 ルルーラの本日一番と言えるほど力強い叫びに、したり顔で頷いていたムコリタの声が途中で止まる。

「おい、話が違うゾ。ムコリタは裏方だとシドウが……」

「私と先生を焚きつけて、自分は高みの見物? 偉そうなこといって、結局自分が怠けたいだけじゃない! 自分が言い出した舞台に立つ度胸もないなら、いつまでも昼寝の夢の中で王様気分に浸ってたらどう?」

「……なるほどナ」

 ぐしゃぐしゃと鮮やかな若葉色の髪をかき回すと、ムコリタはそれでも不敵に笑った。

「お前らに付き合う理由はなイが、生意気な奴は嫌いじゃナいぞ。良いだろう、お前らの話に乗せられてやル」

「本当に!? ムコリタが手伝ってくれるなら百人力、いや千人力だよ! ありがとう!」

 僕が両手を挙げて喜んでいると、ルルーラは頬を膨らます。

「先生、そんなにありがたがる必要ありません! そもそも、む、ムコリタが言い出したんだから、当然です!」


 ムコリタを引き入れたのはルルーラなのに、どうしてそんなに目くじらを立てているんだろう。まさか、本当は僕と二人で話を進めたかったというわけでもないだろうし。

 ムコリタは何を思ったのか小さく鼻を鳴らすと、目の前の机に頬杖をついた。

「で、本筋だガ。お前ら、何をやるつもりナんだ? さっきシドウが言ってタ、散弾と自爆芸、だったカ? そレでどうにかナるのか?」

「物騒な言い間違いだな! 漫談と一発芸だよ! ……うん、僕だけならそれでもいいかなと思ったんだけど、三人もいるとちょっとお笑いはやりづらいんだよね。トリオって役割分担が難しいから、ネタを考えるのもすぐにはできないし」

「は? 鳥?」

「……えっと、三人組だとシドウ先生の芸はできないってことですよね? で、でも、日本語を使って何かをやるとしたら、誰かは通訳に回らないといけないんじゃないですか? 見に来るお客さん、この国の人のほとんどは日本語が分からないので……」

「でも、それじゃあもったいないだろ? せっかくなんだから、三人で協力できることをやろうよ。そのうえで、日本語が分からない人にも楽しんでもらえるようなことを考えたいんだ」

「そ、それは、いくらなんでも欲張り過ぎのような……あ、もしかして、日本語を使わないような芸をするということですか? 踊りとか、早食いとか……」


 ルルーラはいたって真面目な顔で提案してくれるが、早食いってそこまで一般的な芸なのだろうか。少なくとも日本では、建国記念に国家元首の前で早食い大会なんてシュールな光景は絶対にありえないんだけど、こっちだと早食いは何かしら崇高な意味がある行為なのかもしれない。文化の違いって恐ろしいな。

「早食いはともかく、日本語を使わなくちゃエルガに僕らの実力を見せるという目的が達成できないじゃないか。よって、日本語は必ず使う。それでいて、日本語が分からない人でも楽しめる。さらに言えば、エルガに一泡も二泡も吹かせる。そんなアイデアが、僕にはあるんだ」

「は? 愛?」

 ムコリタとルルーラは、僕の言葉が信じられないと言いたげに眉を寄せている。いや、ムコリタが首をかしげているのは、話の内容以前のところかもしれないけど。


 しかしそんな二人も、僕が考えたプランを聞くうちにだんだんと真剣そうな顔つきになる。

「……なるほドな。確かにそのやり方なら、客も楽しませテエルガの裏をかくこともできるかもしれん。だが、言葉で言うほど簡単じゃナいぞ? ムコリタとルルーラはいいが、お前にはかなりの練習が必要だろウ」

「望むところだよ! どうせ僕の軟禁は続行中で、嫌になるほど時間を持て余してるんだからね! ルルーラはどう?」

「す、すごくいいと思います……私、これ、やってみたい、です……!」

 ルルーラの答えを聞いて、僕は密かに胸をなでおろす。彼女に嫌がられたり、できないと尻込みされてしまうのが一番の懸念だったからだ。

 しかし、ルルーラが僕を真っすぐに見つめる瞳には尋常でない熱意を感じる。やれやれ、弱気そうな見た目に反して、エルガへの対抗心はよっぽど強いらしい。まったく、これで視線の先にいるのが僕でなければ、恋愛感情でも向けられているのかとうっかり勘違いしてしまうところだ。

「じゃあ始めよう。名付けて、『合唱による本性披露ショー』作戦を!」

「……ひどイ名前だ。やはりこいつに任せたノは間違いだったんじゃないか?」

「わ、私は素敵だと思います! シドウ先生、頑張りましょうね!」

 ムコリタが顔をしかめて首を振り、ルルーラムコリタを窘めながら拳を胸の前で握りしめる。そんな二人を見ていると、自然に自分の顔がほころんでいるのに気が付く。なんだか、ずいぶん久しぶりに笑った気がした。



 そしてその夜、僕は自室でエルガが見回りに来るのを待ち構えていた。窓の外を夕日が染めるころ、ようやく待ち焦がれていた足音が近づいてくる。

「調子はどうだ。食事を持ってきたぞ」

「ありがとう、体は大丈夫だよ」

 僕はこの上なく紳士的な笑みを浮かべ、エルガの手から謎の煮込み料理を受け取る。昨日食べたものとほとんど同じに見えるが、他に献立はないんだろうか。

 しかし、食事に文句をつけている場合ではない。僕は少しうつむき、差し込む夕日が顔に作る影を計算しながら口を開く。


「でも、やっぱり閉じこもっているのは退屈でね……こんな狭くて暗くて埃っぽい部屋に閉じ込められてると、頭がおかしくなりそうだよ……」

「……気持ちはわかるが、我慢しろ」

「いや、分かってるとも! エルガだって僕のことを心配してくれてるんだよねそうだよね、だからこんな過保護な真似をするんだよね! 全ては僕を安全に元の世界に戻すためなんだよねそうなんだよね!」

「……まあ、そういうことだ」

 エルガの声は相変わらず冷たいものの、僕への答えはどことなく歯切れが悪い。彼女の部屋で二人で話してから、僕に罪悪感みたいなものを感じているのだろう。ちょっと気は引けるけど、そこに付け込まない手はない。

「エルガの優しさはすごーく伝わるんだけど……何か暇をつぶせるものがあったらなと思わずにはいられないんだよなー! あーあ、何か一人でも楽しめて、打ち込めるようなものがあれば大人しくしていられるんだけどなー!」

「……本でも読むか?」

「こっちの言葉を今から覚えるってこと? それはちょっと難しいんじゃないかな」

「じゃあ、何か一人でも遊べるような道具を持ってくるか……」

「あ、それはいいかもね! どうせなら、何か音が出るものとかあったりしない? やっぱり静かなのがどうも落ち着かなくてさ! ……そうだ、この世界にも楽器とかあるだろ、せっかくだからそれを見てみたいなあ!」


 どうだろう、ちょっと強引だっただろうか。だが、顎に手を当てるエルガには、僕を怪しんでいる様子はない。このまま素直に僕の要求を呑んでくれればいいんだけれど。

「……分かった。何か素人でも簡単に扱えそうなものを見繕ってくる。だから、それまで……」

「うん、部屋からは出ないし誰に話しかけられても答えないよ! 大人しくエルガのお土産を待ってるね!」

 父親の帰りを楽しみにする愛くるしい子供のように、僕は満面の笑みで頷く。まあ、そんな可愛らしさはないだろうけど。エルガにも僕のキュートさは伝わらないようで、眉間のデスバレーみたいな皺が隠しきれていない。

 エルガは大きくため息をつくと、

「分かった、明日の昼には用意してやる。それまで部屋で待っておけ」

「やった、ありがとう!」


 よし、これで作戦の第一段階はクリアだ。

 ムコリタが言っていたように、僕は『合唱による本性披露ショー』に備えて、楽器の練習をする必要がある。まあ、三人のうち誰かがそれなりに弾ければ僕の演奏は不要かもしれないが、大事なのは一体感だ。どうせ時間も余ってるんだし、祭典までの時間を全て練習に充てればそれなりにはなるだろう。

ただ、僕の演奏技術自体はこの作戦におけるポイントではない。最も重要なのは、このショーが合唱、つまり楽器の演奏の上に歌が乗っているということだ。もちろんその歌は、日本語で歌う。観衆にはその内容は分からないだろうが、歌詞が分からなくても楽しめるのが音楽の良いところだ。美しい旋律の洋楽が、よく聞いてみればスラングだらけの飛んでもない歌詞だったなんてことはたまにある。僕らが目指すのは、まさにそれだ。

 誰でも口ずさめるような簡単でメロディに、少し毒をまぶした歌詞を合わせる。観衆は何も気づかないまま僕らの歌に拍手を送るだろう。そこに込められた真意に気が付くのは、エルガを始めとした一部の人間だけだ。大衆にはエンターテイメントを提供しつつ、狙った人間にだけメッセージを届けるという、非常にクレバーで洗練された作戦だ。エイガはきっと、僕ら三人の機転、演奏力、そして何よりも公衆の面前でそんな大それたことをしてのける度胸に恐れ入るに違いない。ああ、今から祭典の日が楽しみだ。今夜は眠れないかもしれない。


「シドウ。楽しそうなのはいいが、一つ確認しておきたいことがある」

「な、なな、なんだい?」

 早くも浮かれ始めた僕に水を差すように、エルガは冷たい眼差しを僕に向ける。もしや、僕がルルーラたちと共謀していることにすでに気が付いているのだろうか。教室に監視の目はなかったはずだが、魔術とやらを使えば離れた場所の音を聞いたり映像を見たりするのも可能なのかもしれない。明るい期待に高鳴っていた鼓動が、今度は不安と恐怖でテンポを上げ始める。

 けれどエルガは、相変わらず感情の読めない平坦な声で僕に問いかけた。


「……お前、ここに来る直前のことは何か覚えているか」

「え? この世界に来る前のこと? ええと、僕がドラッグストアから出てエルガを追いかけて……」

「違う。それよりももっと前だ」

「それより前? あー……僕が君にお金を出せって脅されてる時のこと?」

「そうだ。何か思い出したか」

「思い出すも何も、あんな衝撃的な体験忘れるわけないよ。なんだか知らないけど、気が付いたら知らない人に囲まれて綺麗な女の子に詰め寄られてるんだもん」

「……そうか。それだけか」

 僕は正直に思ったことを伝えたのだが、エルガはなんとなくがっかりしているように見える。なんだろう、僕のお世辞が足りなかったんだろうか。いや、綺麗だと思ったのは本心だし、今でもそう思ってるけどさ。でも、いつも塩対応ばかりじゃこっちの心も離れていくってもんだよ。ファンの心を掴みたいなら、少しくらいは笑顔を振りまいてくれないと。

 ……そういえば、それこそ出会った時には微笑んでくれた気がするんだけど。


「もし何か思い出すことがあったら、必ず私に伝えろ。いいな」

 エルガはそれだけを念押しすると、僕を怪しむ様子もなく部屋を出ていった。疑おうと思えばいくらでも問い詰められることはあるはずだ。なのにそうしなかったということは、それだけエルガが僕に無関心であることを表しているように感じられた。

「……今に見てろよ、絶対にぎゃふんと言わせてやるんだからな」

 聞こえるはずもない独り言を言いながら、僕はベッドに身を預ける。少しは見慣れてきたはずの石造りの天井は、今日はやっぱり冷たく思えた。


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