とある乙女ゲームの隠しルート
閲覧ありがとうございます!
前の短編より少し長くなります…!どうぞ、お楽しみください!
ーー昔々ある国に、美しい金髪を持つ一人の少女がおりました。
彼女の名前はリリア。彼女は、顔も知らない貴族の父と平民の母を持つ、所謂私生児というものでした。
彼女の村は、そういうお貴族のあれこれに疎かったために、大したいじめも受けず、とても平和に暮らせていましたが、一度村の外に出れば、美しい金髪にそぐわないみすぼらしい姿に、あちこちから誹謗中傷を受けていました。
ある日、リリアがいつものように暴言を吐かれ、我慢ができず建物の隅っこで泣いていると、どうしたの?と、知らない男の子に声をかけられました。
リリアが顔を上げるとそこには、煌びやかな衣装を見に纏った王子様のような男の子が立っていました。彼は、大丈夫?と言いながら、しゃがんでいたリリアに手を差し出してくれます。
そのままリリアを引っ張りあげると、じゃあね、とリリアのお礼を聞くことなく、急にどこかへと走り去ってしまいました。
「え?どこ行ったの王子様。いなくなっていいの?あ、もしかしてこれでめでたしめでたしなのかな?」
それから数日、モヤモヤしていたリリアでしたが、ある日なんと村にとある王子様がやってくるという報せを受けました。
「終わるかと思いきや、出たなご都合主義」
これが会える最後のチャンスだと、人々に囲まれた王子様のもとへ駆け出しました。
やってきた王子様が、あの時の男の子であるという確証はありません。それでも、リリアの中の何かが、今行かなければ後悔すると騒ぎ立てて聞かなかったのです。
ーー王子様!
リリアは群衆から飛び出て、大きな声で呼びました。その声に驚き、こちらを振り返った王子様は、見間違うことのない、リリアに声をかけてくれたあの時の男の子でした。
王子様みたいな男の子は、実は本物の王子様だったのです。
「いやいや最初から分かってたよ」
リリアは今度こそお礼を言おうとしましたが、早く王子様と話したい村人たちに押し退けられて、尻餅をついてしまいました。
また人々に囲まれて姿の見えなくなった王子様にリリアは、やっぱり自分のような子どもには王子様と話す権利はないのだと、一人悲しくなってしまいました。
そうして、リリアの大きな瞳から小さな雫が流れ落ちたそのとき、リリアの身体はふわりっと宙に浮きました。
驚くリリアを他所に、王子様はリリアを抱いたまま村人たちから逃げるように森へと走って行きました。
「仕事しようか王子様。村人たちだって別に悪い人たちじゃないんだから、ちゃんと愛想振りまきなさいよ」
ーー王子様にお姫様抱っこをされている。
そのことにリリアが気づいたときには、もうすでに地面に下され向かい合わせになった王子様と目を合わせておりました。
神秘的な湖をバックに、王子様は言います。
ーーあなたのその美しさに、私は一目惚れをしました。どうか、私と共に城に来てはいただけませんか。
「好きなところが外見オンリー」
リリアは頬を真っ赤に染めて、喜んで、と答えました。
(中略
そうして二人はーー……
「はいはい、結ばれて幸せになりました、めでたしめでたしでしょ。全く、どんだけ王道なのよ」
隣に置いてあったマグカップを傾け、むっとしたまま水を煽る。その勢いのまま右手で、ーーカチカチカチッ、と赤いバッテンを押した。ので、一個戻るつもりだったものを、つい勢い余って3枚もタブを消してしまう。
「あっ!……んもう、連打しすぎた!ホームまで戻っちゃったじゃん」
あーあ、と呟きながら手持ち無沙汰にその画面をスクロールした。
鍛えられた俊敏な我が指が、今回ばかりは恨めしい。
「えーっと、〇〇ゲーム、〇〇ゲームっと…………ん?なにこれ、"隠しルート"について?」
お目当のゲーム名を検索エンジンに掛け直すと、さっきは見かけなかった、2分前の最新情報が一番上に追加されていた。特に深い理由もなくポチッとな。
ーーこのゲームは乙女ゲームなるもので、さっき見ていたのが王道、というか一番簡単な優しい王子様ルートである。王子様が"易し"すぎて涙が出そうだ、と話題のルートだ。良かったね、王子様。褒められてるよ。
「隠し、ねぇ……そんなのもあるんだ」
マグカップを下ろしながら、ふーんと呟く。
え?もう見ちゃうのかって?当たり前。
一周目くらいは自分で攻略?選択肢は自分で探す?
はっ、冗談じゃないね。
私が何のために乙女ゲームをやってると思ってるのよ。
ーー私の選択で全ての歯車が狂うから楽しいんじゃない。
自分の掌の上でキャラクターたちが踊る様は、最っ高に気分がいい!完璧なタイミングで引いただけで釣れちゃって、ちょろいちょろい……おっと、つい本音が。
「……そういえば、中学の友だちに、あんたはSっ気が強すぎて時々逃げたくなる、っていわれたこともあったっけか」
ちなみにその三日後くらいに一回本気で逃げられた。登下校も移動教室も避けられまくりで結構グサッときた。うん。
変わる気はないけど。
「えっと〜?どれどれ…………全員の攻略が終わってから、森でループを3回引き起こす?」
全員攻略?うっそ面倒くさい。
いやそれよりも、森でループ?ループなんてできるところあったっけな……ループ……ループ……
「あぁ!あの有名なバグか!っていだぁっ!!」
トンッと手を叩いた拍子に、積んであった本に肘がぶつかりドダダダダダッ!と綺麗な雪崩が起きた。第一被害者は右足の小指。おおぅ、可哀想に。
「うぅっ……痛い、ってか結構後から来る…」
くぅぅ〜と痛みに耐えるのは現実の私に任せて、さてさて精神の私はさっきの話の続きでもしようか。
実はこの乙女ゲーム、イラストも万人受けしてストーリーも面白い、キャラクターたちも個性溢れて運営最高!と、SNSでベタ褒めされているゲームなのである。ダウンロードコンテンツを購入する人も多くて売り上げもバカ高いらしい。
ーーけれど一つだけ、なんでこんなところで?っていうような、変なバグがあった。
それが、森でのループである。
とあるときに森に入ると、進むか引き返すか、という選択肢が現れる。
そこで何か起こると思って先に進むを選択すると、背景も変わらず、同じ選択肢が出たままなにも起こらないのだ。
何度やっても結果は同じ。それで、これはバグで先に進むの選択肢が機能しなくなってしまったのではないのか、と言われるようになったのである。
「いたたた……でもそうか、だからうん千ってプレイヤーが訴えても、運営は何も返さなかったわけね。バグではないけれど"隠し"のネタバレになってしまうから」
なるほど、バグではなく攻略対象を全員落としてなかったから仕掛けが動かなかったってわけね。
うんうん、と一人でうなずく。そのまま下へスクロールすれば、その隠しキャラクターなるものの情報が長文で載っていた。
「うわ、この人すごいな。こんなにたくさんの情報……製作者さんと知り合いなんじゃ……?まさか、本当に全部自分で見つけたわけじゃない、よね……」
どうやらそのキャラクターは冥王様らしい。名前は……ないのかな?冥王だから名前がいらない、みたいな?
「……万の年を生きる冥王。"とある事件"により人間に興味を持ち人間界に降りる。そこで主人公に出会い、"例の人"となんとなく似た主人公に惹かれ、最後に結ばれる。……とある事件?例の人……?」
興味が惹かれるままにマウスを動かす。と、太めの黒字で書かれた文字が目に入った。
「悪の女王、マディーナ……?」
ーーマディーナ・クロディータ。
舞台となるクロディータ王国最初で最後の女王にして、最悪の王と呼ばれた女性。
3番目の王女に生まれたのにもかかわらず、自らの手を汚さずして事故を装い、王太子と二人の姉ーーつまり、自分以外の王位継承権を持つ者を片っ端から消し去る。
「なにそれ……すごく残酷だけど、すごく……強くて、美しい……」
ーー気づけば文章に釘付けになっていた。
兄弟を亡くし悲しむ幼い王女を演じつつ、国王の食事に少量の毒を混ぜ続け、現国王崩御に成功。
悲しみを浮かべながら幼くして玉座につき、幼さを演じ続けることで政務の全てを王配に任せる。
その後政務疲れと"ちょっとした"香りのプレゼントにより王配が床についた瞬間、タガが外れたかのように我儘政治を始めた。
「すごい……のかな?なんで初めっから独裁政治をしなかったんだろう……邪魔なら家族の時みたいに殺してしまえばよかったのに」
まずは大好きなドレスや宝飾品を買い占め、次に邪魔な側近の首を落とす。
会議では、自分に利益のある案ばかりを採用し、その他の提案をしたものは、提案をしただけで即刻処刑した。
そんな彼女を誰も止めることはできなかった。いや、止める気がなかった。
なぜなら、
ーー政治の権限は、王配にあったから。
ピコンッ!と脳内の何かが鳴った。
「……そっか、だからわざわざ一芝居打ったのか。夫は邪魔者ではなく、"囮り"なわけね」
全ては夫の意思だと最後まで思っていた人もいたが、数年も経てば、全員が女王を疑い始めた。ーーしかし、全てはもう、遅かったのである。
少しでも自分に不利な動きを見せれば、女王はすぐに切り捨てていった。
ーーもう、彼女に言葉で勝てる人は、一人もいなかった。
「……そうして、最後、ベッドから力を振り絞って起き上がってきた実の旦那に殺され、20年という短い人生に幕を下ろす。……これで終わり?あ、続きあった」
その後冥界に降りるが、冥王に嘘をつき命乞いーもう死んでるけどーをすることなく、最後まで自分のしたことは正しいのだと言い続けた。
その、人間にしては珍しく素直な姿に冥王は興味を持つが、あまりにも酷い行いをした魂のいく末は決まっており、それ以上冥王とマディーナは話すことはできなかった。
マディーナとのその出来事を冥王は忘れられず、人間界に降りればマディーナのような人間に会えるかと、そこから度々人間界に降りるようになる。
「マディーナの魂は98人も殺したとして、魂の輪廻から外され、消滅した。……って、98?キリ悪っ……」
これでマディーナの話は終わりのようである。
数回スクロールすれば、ページの下までたどり着いてしまった。そこまでは冥王とリリアの会話が載っているが……
ーーマディーナが好きすぎて、もはや冥王などどうでもいいわ。
「なるほどね、マディーナの存在が冥王を変え、リリアとの運命も変えたってわけ」
ーーふ……ふふ、ふふふっ!
気づけば、笑い声が漏れていた。
それは次第に大きくなって、夕暮れを過ぎ暗くなった部屋の中に盛大に響く。
独裁の女王様なんて、こんなの最高のポジションすぎる!
楽しくなってトントンッと足を揺らせば、滑車付きの椅子はコロコロと後ろに下がった。情緒不安定だって?まぁまぁ、そこは置いといて。
「悪の女王、ね。さいっこーに、気が合いそうじゃん。……ふふ、いいなぁ〜マディーナ。めっちゃ素敵な人生だなぁ〜いろんな人を巻き込んで、ねぇ?」
まさに夢のような独裁者っぷり。
冥界の王まで動かしてしまうなんて、私の理想中の理想である。
ただしーー……
「でもキリが悪いのはいただけないなぁ、美しくない」
コロコロと椅子の滑車が転がり、視界が一回転する。
パソコンを向いたところで、トンッと動きを止めた。
「……うん、私だったらーーーー……」
ーー『もちろんでございます。私は20年という月日を100人殺しで終えました。人生に悔いもなければ、改める気もございません』
最後までお読みくださりありがとうございました!
『悪の女王の完璧な最期』
『とある乙女ゲームの隠しルート』
如何だったでしょうか?
初めてでして、分かりにくい、読みにくい等ございましたら申し訳ありません!
これから精進してまいります!
↓以下ネタバレ含みます
彼女は、マディーナを理想として見ていましたが、実際になりたかったわけではなかったんです。
それに、全てシナリオ通りになるのは好まなかったので、100人以外にも原作と変わった行動をいくつかとっていたんですよ。
だから、実を言うとあの後彼女の望んだ"完璧な最期"にはならなかったんです。
ちょっぴり調子に乗って、楽しい会話をありがとう、なんて、人と会話をすることの少ない冥王様に言ってしまったものですから、冥王の気は引けたには引けたのですが……
原作通りの人間の珍種としてではなく、どちらかというとーー……そう、例えば王子様がリリアに抱いたような、そんな感情を冥王様に与えてしまったんですよね。
全然関係ないんですけど、悪の女王って打とうとすると赤の女王って出てくるんですよねぇ。
いやぁ、間違える間違える。
改めまして、最後までお読みくださりありがとうございました!