第87話:十三夜、追う
「出てきな」俺は十七夜の方を見て言った。
十七夜の不死鳥のフェニックスの燃える翼の向こうに小さな瞳が見えていた。それは十三夜だった。十三夜は兄の十七夜に何かせっついていた。
「早神令時様、十三夜を連れって行って下さい。本当は十六夜が一番行きたかったが彼女はこの世界に留まらないといけない」
「姉さん、私はやっぱり行くヨ、行ってもイイヨネ」十三夜は、遠ざかっていく令時をいつまでも目で追いながら言った。
「地下迷宮の入口までは構わない、でもその先の過去につながる道を進むのが正解か不正解は我にも分からぬ。我は、一度地下迷宮の最奥でその道は閉ざされたが、お前は一度通り抜けておる。もしかしてこの度も行く必要があるやかもしれぬ。令時の判断に任せる」
「じゃ、行っていいよね!」
「ああ、兄の十七夜を頼りな、それとこれを持っていけ」
十六夜は十三夜に鬼の文様を描いた護符を持たせた。
「姉さん、これは……」
「そうさ、これは令時が初めてこの世界に来た時に持って来たあの最強護符の精巧なレプリカじゃ。
やっと実体魔法で生成することができた。あの時に比叡山の最強護符(角大師)と言っておったな。
比叡山とはどういうものか知らぬが、この護符には”時”を動かす零波が込められている。役に立つはずじゃ。今度は迷うことなく、令時を見失うなよ」
「ワカッタ」十三夜は、三年前に地下迷宮の最奥で令時が『時空の神宝』と『反時空の神宝』で空間を対消滅させ、1万年前の過去に戻ろうとした時に令時を見失い、”時”は遡ったが迷いの森に囚われてしまった。
あの時、迷いの森から救出されたのは運が良かっただけである。”時”も見失たらもう無限地獄に陥いる嵌めになる。
東條葵がそうしていたように、十三夜も同じように護符をすだれ状に折り畳み胸に挟み込んだ。
「令時様、十三夜は一度あなたのいた世界に行っている。連れていってやって下さい」
「十三夜、俺と一緒にきたらもうこの時代には戻れないぞ」
「イイヨ、レイジといっしょなら」
「昆虫族と共に十夜族も立ち会う権利があるか……」
レアフルの体内に潜んでいた三匹の蛍胞子が外界に飛び出し、主人である十三夜の周りを浮遊した。
「レアフル、これで解放ダヨ」
「ありがとう、蜂妖精女王の十三夜。私も一緒にいけるだろうか。早神令時殿の世界に」
地下迷宮の入口のドアに葵が認証カードをかざした。本物の認証カードに反応はなかった。反応があったのは、1万年を経たもう一つの本物の認証カードであった。
プラスチックカード表面は劣化しているが、中に埋め込まれている量子チップは問題なかったようだ。
ドアは、内部の空気を吐き出し開いた。少しかび臭い匂いが一瞬した。三匹の蛍胞子は我先にと中に入って行った。真っ暗な下降階段の先を蛍胞子が照らしている。
「レアフル、もっと足を縮めろ、ドアを抜けられないぞ」
「レアフルも人型に変幻できればイイのに」十三夜がくすっと笑った。
「昆虫族は変幻できない。無理をいうではない」レアフルはドアを半身になってやっとすり抜けた。
「よし、いけるなレアフル! 少し痩せたか?」
「昆虫族は痩せるとか、太るとかない」
これから地下七階へカウントダウンがはじまる。





