第68話:時を越えたシンクロニシティ、大陸にて
令時が二〇二五年の現世に帰還した三年後に、集積疑似思念波の調査に昆虫生態学の世界的権威の九条慎太郎爺と共に中国の上海から成都へ渡り、三代目、四代目の飛蝗のボスの黒紫の飛蝗を捕獲するというミッションを達成していた。
九条慎太郎の研究グループは、その飛蝗の頭頂眼器官の思念波研究から増幅媒体の翠ナノ粒子と強磁場発生装置を完成させたのであった。
その目的はその装置を1万年後の未来まで保管し、十六夜が使用して、二〇二○年代に時空位相しようとしたものだが、その目論見は失敗に終わっている。
プラチナ甲虫スカラベにことごとく破壊された挙句に逃げられてしまったのである。
失敗に終わったかわりに、破壊された翠ナノ粒子と強磁場発生装置の稼働で、思念波が活性化され1万年後の未来へと仲間と共に令時は再来できることになった。
令時が時空の神宝と反時空の神宝が対消滅で帰還した三年後の一万九四九年に、十六夜を背に乗せた十五夜が大陸に向けて飛翔した。
時を越えて偶然の一致である。通常シンクロニシティの発生は同時間における意味ある事象の発生である。
歴史は繰り返しているのか、いやこの場合は過去と未来は平行に同時進行している。
水色の大空に、ペガサスの翼を纏った十五夜の後に黄龍が続く編隊飛行である。
推進力は思念波を翡翠を触媒とし物体に物理干渉するものである。
黄龍に至っては翼などはなく、同じ原理で推進している。翼は単に物理干渉器なのである。
十五夜の両翼からは水蒸気の傘が発生し始めていた。音速にまでさらに加速する勢いであった。
海上の雷雲を大きくローリングにながら避け、大陸に近づくころには、雷雲をかすめながら最短コースで飛翔できるようになっていた。黄龍を遥か後方に置き去りであった。
雲を貫いているシンボルタワーが見えてきた。故郷のものとはそのシルエットは全く違っていたが、
その目的は同じであった。
翡翠のエネルギーを集積し、変換して各地にエネルギーを供給しているのだ。
シンボルタワーの周りを旋回しながら舞い降りて、黄龍を待った。
「地上の疾風走の非ではないな」たて髪に守らていた十六夜が背から地上に降り立ち言った。
「姉さん、どうでした。空は?」
「久しぶりの空じゃな。でも令時の紅のドラゴンの乗り心地の方が好きかな。お主は早すぎて、景色が見えん」
「今度、令時さんと飛ぶときはゆっくりと飛ぶよ。黄龍ぐらいの速度で。
黄龍まだあんなに小さくて遠いな。ここは何処でしょう。大陸に近いところにエネルギー集積・拡散の塔があって灯台にの代わりになったけど」十五夜は雲を突き抜けている塔の上部を見上げて言った。
「令時の記憶マップによるとここは、中国の上海でこれは東方明珠塔と呼ばれていたようだな。十一個の球体が直列している。当時と似たようなシルエットだ」
「ここも、私達と同じような荒廃のしかたをしているね」
「そうだな、令時の時代ならこのガイヤでは最も発展していた地域だというのに」
東方明珠塔の雲が無くなるころにやっと黄龍が舞い降りた。それでも京都から上海まで1、400km、2時間もかからずやってきた。
「待たせてすまない。久々に全力で飛翔したが追いつけなかった。風龍と同じ、いやそれさえも上回るスピードだ。ペガサスの翼にはこれほどの飛翔機能はなかったはずだ。そちに譲って正解だったな」
「シンボルタワーを旋回したけど、西の方角に黒い雲が見えましたが、もしかしてあれが|飛蝗《バッタ》の群体でしょうか?」
「そうです。こちらに向けてやつらは進軍していますが、このシンボルタワーの思念波の拡散のお陰で近づけないでいます。ただ、何度かやつらの先鋭体が攻撃を仕掛けてきて、ここを突破しようと企てています」黄龍は西の黒い群体を見て言った。
「ここを突破して、我らの地に来るというのか」
「そうです。十六夜殿、すでに先鋭体の一部の小規模な群体が突破し海上へと消えて行った。本体のボスが率いる群体がそのようなことになるとそなたの地が危ない」
「なぜに我らに地にくる必要があるのじゃ?」
「昆虫の王である黄金プラチナを討伐した十夜族とそれに組する第二十一代令位守護者の活動を認知したからです」
「ならば、ここで|飛蝗《バッタ》の群体の統率者をなんとか押さえないといけないかの」
|飛蝗《バッタ》の群体の統率者は、昆虫界の勢力バランスが崩れた今、王を目指そうとしていた。
さらなる、昆虫界の発展のためにはどうしても十夜族とホモ・サピエンスは邪魔な存在なのであった。





