第67話:三年前、十六夜と黄龍
過去の二千年時代から時空位相してきた第二十一代令位守護者である早神令時がこの世界に降り立ち昆虫族の魔物を制圧し、時空の神宝と反時空の神宝の対消滅によってフィボナッチ数列年による連環を絶ち切ったことは事実である。
それにより、ホモ・サピエンスの生命樹系統と十夜族の生命樹系統は安定し、発展するはずであった。
早神令時が元の世界に戻った後の三年の間に、昆虫族内の勢力バランスが変わってしまった。
昆虫族王の黄金の甲虫スカラベが死し、その子孫のプラチナ甲虫スカラベが早神令時と共に過去の二千年時代へと時空位相したがために、フィボナッチ数列年による連環が再始動してしまったようなのである。
大陸の龍族から使者が来ていた。
「久しぶりじゃの、十六夜殿、紅の竜の痕跡が消えたようだが、一目、紅竜にお会いしたかったのだが。」黄色い龍が言った。
「彼の地、龍族の守りの黄龍がわざわざ、お出ましとは何用かな」
「本日は我大陸で|飛蝗《バッタ》の群体が発生し、食物を食い荒らしつくし、大陸の東岸に集結しておる。
海を渡ろうとする勢いだ。
長い時の今までは単なる1個体単位であったものが黒紫の|飛蝗《バッタ》を棟梁として何十万もの個体が群体となっておる」
「それは、この地のホモ・サピエンス、十夜族にとって脅威になるのでしょうか?
この地でもまだそれほどの脅威とはなっておりませんが黄金の甲虫スカラベ王が死してから、なぜか|飛蝗《バッタ》の群体が発生しております」牛ドラゴンの十五夜が言った。
「おお、牛キメラの竜の十五夜殿も健在で何よりじゃ。甲虫スカラベの出自の大陸西方の勢力が壊滅状態となり、代わりに、中央の|飛蝗《バッタ》群のなかから王が出たようだ。
それにより時空位相の時《とき》がまた動き出した。
これではまずいのじゃ。龍族の将来も安泰ではなくなってしまう。第二十一代令位守護者の紅竜のちからが必要じゃ」黄龍は十五夜と十六夜を見下ろして言った。
「第二十一代令位守護者の令時とは、あれから、一度だけ精神体で繋がったことがある。我を救済しようとしておる。我はこの地、この時代の生命体であるというのに、令時の時代で暮らしていけるものかのう?」
「十三夜と十七夜兄さんは、令時さんの時代に行ってしまったわ。でもきっとまた令時さんがつれてきてくれると思いますわ」十六夜は姉の十五夜に同意を求めるような目で言った。
「そうだな、なにやら人工的に時空位相できるような技術を開発しようとしているようだな。いずれこの地に舞い戻るだろう」
「まずは、十六夜殿に大陸にて黒紫の|飛蝗《バッタ》を棟梁を検分して頂きたい」
「大陸へは海を渡らなければならない、我らは飛翔はできないのじゃ。そちの背に乗るのも遠慮したい。まあ、令時の紅のドラゴンの背であれば乗るがの」十六夜は黄龍の背を触りながら言った。
「ならば、牛キメラの竜の十五夜殿にかの大陸の地より更に西の地の聖翼、ペガサスの翼を授けよう。
龍の近縁種である竜であれば使いこなせるであろう。それで彼女の背に乗るということでどうじゃ」黄龍は手から真っ白な翼の衣を取り出して言った。
「御受けしますわ」姉の十六夜の同意を得ることなく、十五夜は即答した。
「わかりました、十五夜の背に乗ることとしましょう。それで大陸まで行ってわざわざ我がその黒紫の|飛蝗《バッタ》を検分する必要があるのか? お主はすでに把握しておるのではないのか」十六夜は十五夜に真っ白な翼の衣を掛けてやりながら言った。
「我ら龍族、十夜族と一部のホモ・サピエンスは思念波で意思疎通ができる。昆虫族とて疑似思念波で意思の概念が分かる。
しかし、今回現れた黒紫の|飛蝗《バッタ》の思念波はまた違うようだ。群体全体の疑似思念波のまとまった上に統合されており理解がしがたい。そこを検分して欲しいのだ」
「承知した。似たような話を以前、精神体の令時から聞いたことがある。そこでも昆虫群体が発生したと。
そのボスの特殊器官から得た機能と思念波を利用して精神体として我とコンタクトが取れたようだ」
「おお、そのようなことが。では引き受けてくれるのか」黄龍は髭をなでおろしながら言った。
「引き受けよう。群体全体の疑似思念波には興味がある。何しろ初めてのことだからの」
ペガサスの白衣の翼を纏った牛ドラゴンの十五夜は、助走から空へと飛翔した。
かつて、早神令時が紅のドラゴンに変幻し始めて空を飛んだ時と同じように、十五夜は周囲を最初は不安定に、そしてすぐに飛翔を思うようにコントロールし天空を駆け回った。
「ああ、これが空を飛ぶっていうことね。これで私も令時さんといっしょに飛べるようになるわ」
十五夜の飛翔は凄ましく早かった。もともと地上を駆ける速さは地上では最速を誇るが
そのスキルが天空でも発揮された。天空でも最速ではなかろうか。
「姉さん、背に乗って」
十六夜は、彼女の神金継の牙角を持って、背に乗った。
「翔るよ!」
十五夜を先頭に黄龍が大陸に向けて飛翔した。|飛蝗《バッタ》の群体全体の疑似思念波を調査するために。





