53話 稲葉特製ポーション
マウンテンバイクを2台、右手と左手で押しながら帰ってきた。
面倒くさい。
「おう、にーちゃん。取り戻せたみたいだな。
でっ、後ろのガキんちょ達は?」
あれからずっと後ろを着いてきている。
無視だ。無視。
「ひぃっ!」
小さな悲鳴が聞こえる。
これはマイケルさんの超強面な顔にビビった弟の悲鳴だな。
「なんか着いてきちゃって」
さっきの経緯を二人に話す。
「でっ、なんで雇って欲しいんだ?まだ働く歳じゃないだろ?」
この世界では15歳から成人らしい。
大抵は15歳から家業を手伝うなり、働きに出るそうだ。
「金が要るんだよ」
「なんだ、その態度は」
「うるせー。ごちゃごちゃ言わずに雇いやがれ」
「盗みをやるような奴を雇えるか!」
超強面のマイケルさん相手に、一歩も引かずにやりやってる兄貴の方は根性がありそうだ。
いや、足が震えてたわ。
それでもナイスファイト。
二人から話を聞く。
兄貴の方はオクムート。
弟の方はマール。
11歳と9歳。
「妹が病気なんだ!」
両親は盗賊に襲われて死んだそうだ。
3ヶ月程前の事らしい。
3ヶ月というと、国王が代わり、国が混乱した時か。
俺が知らないだけで、こういう事は恐らく、まだまだあるだろう。
「雇う事は出来ん。どんな理由があろうと、盗みは商人にとってご法度だ」
信頼第一の職業だ、仕方ないだろう。
ん?
俺に雇ってくれって言ってたよな。
いつの間にかマイケルさんと交渉している。
まあ、良いか。
二人は雇って貰えないと悟り、落ち込んでいる。
「守衛に突き出されないだけ、ありがたく思うんだな」
きつい言い方に聞こえるが、マイケルさんは大勢の従業員とその家族を背負っている。
「おい。これ持っていけ」
俺は【稲葉特製ポーション】を渡す。
「これは?」
「魔法薬だ。妹に飲ませてやれ」
「…ありがとう」
「もう盗みはするなよ」
二人を見送っていると、
「にーちゃんは、甘いな」
「あー、良いことした。気持ちー」
「強がんなよ。で?」
で?とは?
「あのポーションは売ってくれるのか?」
逞しいぜマイケルさん。
良いだろう、隣に奥さんが居ない今のうちに、こちらがガッポリ儲けてさせて貰うぜ。




