52話 二発の拳骨
どうしてこうなった?
少し遡って思いだそう。
マイケル商会エリエ支店を開業する事になった。
流石に町中で、ドカッとログハウスを出す訳にはいかないので、建物を買って改築するのだが、
「それじゃ、結構時間掛かりますよね?」
「まぁな」
「俺達、結構急ぎで金必要としてるんですけど」
「どれくらいだ?露店で儲けようとしてるぐらいの額なら、俺が商品買い付けて即金で払うぞ?」
そうだ、この人冒険者みたいな面だが、一流の商人だった。
「実は……」
俺はソプラードの領地の問題、つまり金が消えていく事を話した。
「う~ん。難しい問題だな。そもそも、勇者の祝福なんてこの世界の理から外れたもんだからな」
「金貨や銀貨の加工ってどうしてるのですか?」
「知らん。その辺は商業ギルドのトップ達と、王族しか知らんだろうな。
じゃないと偽物が多く出回るからな」
知らんのかい。
しょうがないか。
「あれ?」
「どうした?」
「チャリが無い?」
「チャリ? ああ、あの乗り物か」
停めていたマウンテンバイクが無い。
パクられた?
「一条君、あれ」
稲葉さんが指差す方を見ると、二人のガキが。
「やべ!マール逃げるぞ。急げ!」
10歳ぐらいの子供が、俺達のマウンテンバイクを押しながら逃げて行く。
乗り方はわからない様だ。
「待て!糞ガキ~!」
「一条君っ!」
「稲葉さんはマイケルさんと一緒居て」
そう言って俺は追いかける。
待て。俺の56800円。
町外れまで来てしまった。
しかし追い詰めたぞ。
はあ、はあ、糞ガキ。
「おい。今大人しく返せば許してやる」
「誰が返すか!」
「返さないと、このまま守衛に引き渡すぞ」
少し小さい方が、ビクッとする。
「オク兄ちゃん~」
兄弟か?
「これを売って、金を手にするんだ。じゃないとミミノが……」
なんだ訳ありの様だ。
面倒だから、本当に守衛に渡して帰ろうかな?
「隣にいるのは弟か?窃盗で守衛に捕まれば、子供でも折檻されるぞ」
兄の方の顔色が変わる。
「マールは俺が無理矢理盗ませただけだ。
罰なら俺が受ける」
弟思いの兄だったか。
これじゃ、守衛にポイって選択出来ないじゃないか。
「それは、やれないけど、ほら」
数枚の銅貨を兄弟の足元に投げる。
警戒している二人。
「いらないなら、良いぞ」
迷った様だが、銅貨を拾う二人。
拾っている二人に近付く俺。
ガン!ガン!
二発の拳骨を落とす。
拳骨なんてやったこと無かったけど、拳が超痛い。
二人も頭を押さえて悶絶している。
「それで許してやる。もう盗みなんてするなよ」
これで良かったかな?
「ちょっと待って、黒い髪のお兄ちゃん」
兄の方が呼び止めて来た。
「なんだ?」
「お兄ちゃん、商業ギルドから出て来たって事は商人だろ?
俺を雇ってくれ!」
答えは一つ。
「断る」
面倒くさい事はお断りなんだよ。




