閑話 30.5話 竜王の苦悩。
「おとーさま。どうやったらゆーしゃになれる~?」
盛大に吹いた。
人間の生き血ではなく、お茶をだ。
世界一可愛い娘シャルティア。
先日五歳の誕生日を迎えたばかりだ。
「シャルティア、いきなりどうしたのかな~?」
何故、娘はいきなり勇者なんぞになりたがった?
つい、67日前までは「どうしたらおとーさまのおよめさんになれる?」
って言っていたじゃないか。
「う~ん。これ」
娘が一冊の本を差し出してくる。
色がついており、貴重な本じゃないか。
どこで手に入れたのだ?
成る程。
あの一条って人間の男か。
どれどれ。
勇者が悪い竜を倒す物語……
おっと、危ない。
破り捨てる所だった。
この前、シャルティアのお気に入りの人形を、うっかり壊したら絶交と言われてしまったからな。
まぁ、次の日には元気におはよーって言ってきたが。
「う~ん。どうだろうな」
「おとーさまでも、知らないこと事があるんだー」
ちょっと聞き捨てならないセリフが聞こえてきた。
「勇者になるには、勇者になるための学校に行かなきゃなれないのだよ」
「学校?」
「いっぱいお勉強する所だよ」
勉強嫌いな娘はこれで諦めてくれるだろう。
「わかった~。シャルゆーしゃの学校にいくー」
……ん?
聞き間違えかな。
「シャルティアは勇者の学校に行くの?」
「あい」
聞き間違えじゃなかった。
どうしよう。
そうだ。
「シャルティア、お父様はお仕事で、魔王国に行かなきゃ行けないんだった」
嘘ではない。
仕事万歳。
「シャルティアも一緒に行くかい?
グランマリアとも最近会ってないだろ?」
「うん。マリーちゃんとあそぶ~」
魔王の娘グランマリア。
確かもう、学校に通っていた年齢のはずだ。
魔王国の貴族の子供達が通う、厳しい学校だったはずだ。
シャルティアに学校の事を話して貰おう。
……大丈夫。
諦めてくれるだろう。