出会い
お久しぶりです
これからは毎日やれるよう頑張ります
カツカツと足音を立てながら、篠崎と悟は無機質な灰色の床が延々と続く廊下を歩いていた。
彼女たちが今歩いているのは、横須賀基地の本棟の横にある工廠へと続く廊下の中であり、てっきり入隊手続きを行うものだと思っていた悟は篠崎のその行動に困惑していた。
「あの……入隊手続きをするんじゃないんですか?」
「入隊手続きなんて後でも問題ないでしょ。今はそれよりも先に見ておく必要があるものがあるのよ。」
入隊手続きよりも大事なものとは何なのだろうかと考えながら、悟は篠崎の後を追いかけて歩いた。
何度か厳重そうな扉を通り過ぎ、『製造中』と書かれた赤く発光する電光掲示板の前で篠崎は立ち止まった。
「…………この先には日本帝国軍最高機密があなたを待っているわ。……あなたはそれを見る覚悟はあるの?」
「…………あります。」
少し間をおいてから、悟は力強くそう答えた。
「…………そう。……ならいいわ。付いてきなさい。」
悟の答えに満足したのか、篠崎は扉を解錠してさっさと中に入っていってしまい、悟も後を追いかけて中へ入っていった―――――
「―――――通常の場合、日本帝国軍においては、指揮官には戦術、戦略を学び、如何なる状況においても迅速で、冷静かつ適切な対応をする能力が求められているわ。」
扉をくぐってから続いている暗い廊下の中で、篠崎はそう切り出した。
「そしてそれに対し、前線で戦う兵士に求められるのは、単純な戦闘能力や、パイロットとしての操縦練度の高さといったものだわ。」
「…………なるほど。」
篠崎の話に、悟は興味深そうに聞き入っていた。
「…………しかし、今からあなたに見てもらうモノには、その両方を持ち合わせていることが要求されているわ。」
悟は篠崎の言葉に固唾を飲んだ。
「そんな相当な練度を要求される機体……それこそが―――――」
……と、そこで今まで続いていた暗闇から一気に明るい場所へと抜け出したため、悟の視界全体は光に包まれた。
「―――――100式 大型司令機よ。」
光に慣れてきた悟の視界に、その巨人は映し出された。
60メートルをゆうに越えるであろうその機体は、豆粒のように見える整備士と、整備機材に取り囲まれて、悠然と立っていた。
「…………機体身長は日本帝国軍機甲騎士最長の65メートルで、250ミリの前面装甲は、かの88ミリも防ぐと言われ、その他装甲も100ミリ超えよ。」
手に持っていたノートパソコンで機体の全体画像などを映し出しながら篠崎が解説を始めていった。
因みに、彼女の言う88ミリと言うのは、ドイツ帝国軍の機甲騎士の装備用砲弾のことで、アハトアハトとも呼ばれ世界各地で恐れられるのである。
「…………武装は左右の腕部に内蔵型120ミリ速射砲一門ずつ、脚部に地対地ミサイル四門ずつ、肩部に地対空ミサイル二門づつがそれぞれ装備されているわ。」
その悠然と立ちはだかる巨人に驚いたのか口をあんぐりと開けている悟を見ながら、篠崎は続けて言った。
「…………でも、そんなことはさして大事な事ではないわ。……本当に重要なことは、この機体が戦闘指揮を可能としていることよ。」
「なるほど……だからこそ、ただの戦闘能力だけではない両方の能力が必要なわけね。」
「そうね。必要よ。」
「……それに、適正があることも大事なことなんですよね?」
……と、それを聞くと、篠崎は何故か工廠の上へと続く整備用階段を登っていた足を急に止めた。
「……そうね。まあ、それも人工知能に感情というものを持たせなければ解決した問題ではあるのだけれどね。」
と、篠崎は意味深な言葉を発してから、また歩き始めた。
…………またしばらく階段を登ると、途中にある部屋の中へ入っていった。
部屋の中には、パソコンが一台置いてあり、画面には青白い球体が歪んだり膨張したりを繰り返すだけのモノが写されていた。
「……ちょっと待っていてちょうだい。」
篠崎はそう言うと、篠崎はパソコンへのアクセスを始めたのか、キーボードを鳴らし始めた。
しばらくすると、篠崎はパソコンの画面を宮本の方へと向けた。
「……彼の名前はイーグルユニット00、私たちの大事な相棒にして、あなたの指揮官補佐用人工知能よ。」
『初めまして。私の名前はイーグル。どうぞよろしく。』
パソコンから男性の無機質な声が響くと、画面の球体が激しく揺れた―――――
眠い