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入隊

沈黙の中、悟は篠崎の挙げた二本の指を注視していた。


「……二つ目の方法は……私の下で軍人として戦うことよ。」


「…………は?」


予想外のことで、悟は虚を衝かれたかのように呆けた声を出した。


「……何?そんなに意外だったの?」


「……まあそれもありますけど……ちなみに拒否権っていうのは……?」


それを聞くと、篠崎の表情は一変し、その問いを待っていたかのように、フッと笑みをこぼした。


「……この日本帝国という国はあなたのいた日本と違って便利でね、国家総動員法の下、個人から拒否権を含む権利を剥奪可能なのよ。」


篠崎はどや顔でそう言った。


それならばさっきの二つある方法など、最初から一つしか選ぶことしかできなかったのではないかと、悟は心の中で嘆いた。


「……まあ拒否するつもりはないですけどね。」


「そう言ってもらえると話が早く進むから助かるわ。……じゃあ、早速だけど入隊手続きをしに行くわよ。着いてきなさい。」


篠崎は善は急げと言わんばかりに、さっさと病室から出ていこうとした。


「ちょ……ちょっと待ってくださいよ!……俺って今入院中の身なんじゃ……?」


「あら……その程度の怪我で私が入院させると思ったのかしら?……冗談はそのくらいにして、さっさと行くわよ。」


さも当然のように言うと、悟を待つことなく病室から出ていってしまったので、悟は急いで後を追いかけていった。


*****


横浜軍病院を出てから、悟は篠崎の用意した車に乗り、どこへ向かうかも知らぬままに車の中でただ揺られていた。


「……あなたが眠っていた時に、あなたのことを少し検査にかけさせてもらったわ。」


篠崎は静かな車の中で唐突にそう言った。


車窓から流れている外の景色をただ眺めていた悟は、いきなり話しかけられたことに驚きながら篠崎の方を向いた。


「元々あなたを私の下に置きたかったのは、新兵器の実地試験のためなのよ。」


「……と、言いますと?」


「私たちが今開発中の新兵器は……詳しくはまた後で話すけど、情報統合システムという少々面倒なモノを搭載してるのよ。」


「情報統合システム……って、何ですか?」


「簡単に言えば人工知能よ。……と言っても、人間の補助がなきゃただの喋るパソコンだけれどね。」


「はぁ……で、その新兵器と俺になんの関係が?」


「……その人工知能というのが厄介でね、操作する人間を選ぶのよ。……つまり、適正がある人間しか操縦ができないということよ。」


「じゃあ……その適正っていうのが……」


「あなたにあった。それだけのことよ。……じゃなかったら、無理矢理入隊なんてさせないで憲兵にそのまま身柄を引き渡してたわ。」


それを聞いて、悟はもし自分に適正がなかったらと想像し、ゾッとした。


「……そして、適正があるからと言ってすぐに前線に向かえると思ってもらっても困るわ。」


「えっ…………?」


適正があるというのだからてっきり入隊したらすぐに前線に向かって戦うのだと思っていた悟は、篠崎のその発言に驚いた。


「……当然よ。これからあなたには、六ヶ月間幹部候補生としての戦術、戦闘訓練、部隊指揮などを学び、最終的には陸軍少尉になってもらうわ。」


「えぇ……それって、必要なんですか?……俺よく分からないですけど、一般訓練とかだけじゃダメなんですか?」


「ダメに決まってるわ。情報統合システムというのは、つまるところの戦闘指揮システムなのよ。それを用いるにはそれ相応の能力がいるわ。」


「ええ~。……俺って適正があるからすごい能力があるんじゃないんですか?」


「自惚れないでくれるかしら?……確かに適正があるとは言ったけれど、それ以前にあなたはただの一般人よ。そこを忘れないで。」


少しだけ、マンガや小説の中の主人公のような特殊能力や才能があるのかと期待していた悟は、一気にがっかりしてしまった。


「……そう気を落とさないでちょうだい。……新兵器の試験に参加できるのよ。……凄いことじゃないの。」


「う~ん……適正があって嬉しいような……悲しいような……微妙な感じです。」


「そんなに心配しないでちょうだい。……あれよ。キツいのはたったの六ヶ月だから。」


「はぁ…………」


「そ、そうよ……それにあれよ!うちの部隊には美人な娘が沢山いるわよ!」


篠崎の話を聞くごとに落ち込んでいく悟を見ながら、篠崎は露骨なまでの話題転換をした。


「美人ですか……?」


「ええ。そうよ。……そもそも私の部隊は、日本帝国陸、海、空軍から優秀な人材が集められているんだけど、何故か皆女性パイロットばかりなのよね。」


篠崎の発しこの言葉に、悟は食いついた。


そしてその後悟は、自分の脳内で女性パイロットから『しきか~ん』と呼ばれたりしている自分の姿を想像し、ニヤニヤし始めた。


「……まあ彼女たちも今海外に遠征中だから基地には最低限の人員しかいないわ。六ヶ月後には戻ってきてるから、そのとき会うのを楽しみにしておくことね。」


「……はいっ!」


悟は今日一番のでかい返事をした。


……とても分かりやすい下心満載の返事であることは、篠崎からも察することができたが、彼女はあえて触れるようなことはしなかった。


「……まあ頑張りなさい。…………さて、着いたわよ。」


車は、軍の検問を抜けてひとつの建物へと入っていった。


「……ようこそ、日本帝国軍横須賀基地へ。この基地を代表して、歓迎するわ―――――」


明日から更新頻度が遅くなります。というか四日間くらい休むかもしれませんごめんなさい。

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