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【2019年 4月】


カーテンから溢れる朝陽に目をつむりながら、この部屋の主である宮本悟(みやもとさとる)はゆっくりと起き上がった。

神奈川県のとある一軒家の二階にあるこの部屋は、彼のためのプライベートルームであり、彼はこの部屋に自分以外の者がこの部屋へと入るのを嫌っていた。


少し長く、黒に近い茶髪をボサボサのまま、しばらくベットの上で放心状態のまま座り、その後、非常にゆっくりとベットから抜け出した。


髪はそこまで長くはないため、特になにかセットしたりとかそういうことはする必要はなかったが、最低限の身だしなみとしての髪型を整える行為を、洗面台の鏡を見ながら行った。


そして髪を整えると、朝食を食べるべく一階のリビングへと向かっていった。


寝間着のまま一階のリビングまで降りると、何時もなら彼よりも早く起きてリビングにいるはずの母親がおらず、リビングは薄暗かった。


「……寝坊か?……珍しいな。」


悟はそう呟くと、母親を起こしに行くわけでもなく、自分で朝食の準備を始めた。


彼もこのあと学校に登校しなければならないため、そんな起こしにいくほどの余裕はないのである。

それに、彼の家の朝食は基本自由で、自分で用意するのが当たり前のため、朝食が無いからといって、そこまでの支障は無いのだ。


慣れきったようにインスタントコーヒーを淹れ、トースターでパンを焼くと、さっさと朝食をとり始めた。


悟はパンとコーヒーの味に何も感じないようにただ咀嚼し、飲み込んだ。


そして、食事を終えると、学校へ行く準備を始めた。


テレビから流れるニュース番組に耳を傾けながら制服に着替え、学生鞄を手に持った。


……と、そこでふと何かを思い出したかのように階段をかけ登り、自分の部屋のとなりにある両親の寝室へと向かった。


「母さん……そろそろ起きないとヤバイぞ。」


悟の呼び掛けに答えることもなく、両親は布団にくるまり、眠り続けていた。


「……どうなっても知らないからな。俺は学校行くぞ。」


呼び掛けにも応じずに眠り続ける両親に呆れながら、悟は学校へ行くことにした。


玄関で靴を履き、鞄を持ち上げて、いざ学校へ向かおうと玄関の扉を開けると―――――


「…………は?」


外は何故か辺り一面が近くに何があるかもわからないほどの濃い霧に包まれていた。


「……濃霧注意報なんて出てなかったよな?……まぁ、学校行かなきゃヤバイし、取り敢えず行くか。」


悟は手探りで近くにある壁を探し、壁づたいに進み始めた。


さすがに自分の住んでいる地区の地理程度なら把握しているし、問題はないだろうと思いながら進んでいた。


しかし―――――


「―――――ッ!おっと……危ない危ない……」


不意に、先程まで手にあった固い感触が途切れて空を切り、危うく転びそうになってしまった。


遂に壁が途切れ、壁づたいに進むことが難しくなってしまったのだ。


「……しゃーない。このまま進むか。」


悟は諦めて、何にも頼らずにまっすぐ歩くことにした。


かなりの間歩き続けたが、まるで、ただのまっすぐな道を歩いているような感じであり、壁やら何かにぶつかることはなく、ただ悟は進み続けていた。


しかし、その後またしばらく歩くと、頭の上をまるで戦闘機か何かが高速で通り抜けたかのような、耳をつんざく高音が響いてきた。


そしてその直後に、悟を吹き飛ばさんばかりの爆風が辺り一面を包み込んだ。


いきなりの出来事に動揺しながらも、爆風から身を守るべく、悟は顔を手で覆い、目をつむった。


しばらくして、爆風が収まると、悟はゆっくりと目を開けて、周りの状況を確認した。


しかし、周りは今までと変わらずに、濃い霧に包み込まれているだけであった。


……だが、それを確認し、また進もうとしたその直後に、霧はまたも発生した爆風によって吹き飛ばされた。


霧が一気に晴れて広がった視界に、まず入ってきたのは、青く広がる大空であった。


そしてその次に視界に入ってきたのは、今しがたの爆風を発生させたのであろう巨大な二つの足を持ち、人間のような体つきをしたロボットが空を飛んでいる姿だった。


ロボットは一機だけで空を飛んでおり、とてつもない速度で遥か彼方へと飛んでいってしまった。


「何だ……あれ……」


ロボットと言えばペッ○ーやア○モなどといったものを想像するような悟からすると、あの空の彼方を飛ぶ人型の巨大なロボットは、何なのか検討もつかなかった。


そして、急に明るくなったことと、爆風の原因を探ろうとしたことから空ばかりを見ていたため、ふと視線を下に下ろしていった悟の視界に、更に信じられないものが飛び込んできた。


「なっ……何だよ……これ……」


声にならないような声で呟きながら唖然としている悟の前に広がっていたのは、崩れ去り、残骸の山と化した街並みと、その残骸の上に倒れ込む巨大な人型ロボットであった。


しかも―――――


「……ここ……俺の町……だよな……」


悟は何故かこの町に見覚えがあった。


それもそのはずである。


この町は、悟が住んでいた町と非常に似ていたのだ。


「俺の家……こっち……だよな。」


悟は思い立ったように走り出した。


*****


知っている道を駆け抜けながら、悟は自分の家があるはずである場所へと向かっていった。


そして、目的の場所へと到着した。


「―――――ハァッ……ハァッ……」


いきなり走ったことで疲れたため、悟は膝に手をつき、肩で息をしていた。


「ハァッ…………ハァッ…………」


少し落ち着いてきたので顔をあげてみると、そこには―――――


「……嘘……だろ……」


巨大な人型ロボットによって押し潰された、自分の家であったはずのものが、そこにはあった。


悟は目の前にあるものへの理解が追い付かず、その場で固まってしまった。


「―――――動くなっ!両手を上に挙げろ!」


固まっていた悟の周りを取り囲むように、銃を持った男たちが何処からともなく現れた。


彼らは皆茶色の軍服を着て、ヘルメットを装着し、腕には『MP』の腕章をした軍人であった。


「ここは一般人の立ち入りが許可されていない危険地帯だ。貴様は何者で、なんの目的があってここまで来たんだ!?」


悟のところにじりじりと近づきながら、軍人の一人が尋ねた。


「……そんなの…………」


「―――――ッ!おい!動くなと言っているだろう!撃つぞ!」


悟は静止の命令を聞かずに、手を上にあげながら前へとゆっくり歩きだした。


そして―――――


「そんなの……俺が知りたいわぁぁぁぁぁぁ!」


そう、大声で空へ向かって叫んだ。


そして直後に、後頭部を固い何かで思いきり殴られ、そこで悟の意識は途切れてしまった―――――


*****


「……で、例の侵入者は捕まえられたの?」


『はい。……捕まる前に何かよく分からないことを叫びだしたので、その場で気絶させました。』


「そう……せっかく捕まえたところ申し訳なうのだけれど、その侵入者の身柄、私に預けてくれないかしら?」


『は……つまり、あなたの部隊宛に、ということですか?』


「そうよ。……お願いできるかしら?」


『……問題ありません。今からそちらに直接連れていきます。』


「助かるわ。ありがとう。」


『いえいえ、お気になさらず。……では、失礼します。』


「ええ。ありがとう。」


電話を受話器においたその女性は、藍色の長い髪をだらしなく下げながら椅子にふんぞり返って座った。


彼女の机の上には、大量の資料や本がところ狭しと山積みになっており、その中には『100式 大型司令機実戦運用試験計画』と書かれた資料も埋もれていた。

この町を小野町と変換する我が携帯に殺意しか感じません。

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